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フィリピンのLGBTQと労働運動

2025.12.03掲載

フィリピンのLGBTQと労働運動
ベルナデット・アドリアチコさんは、マニラから北に2時間ほど行ったところにあるクラーク・フリーポート・ゾーンと呼ばれる工業団地で台湾系企業の組合の委員長をしている方だ。組合は最大のナショナル・センターTUCP(フィリピン労働組合会議)によって2023年に組織され、同年協約を締結することに成功した。そのベルナデットさんから2025年11月にメールをいただいた。「LGBTQIA+の労使関係会議が開かれるので来てみないか」とのお誘いだ。残念ながら日程の都合で会議には参加できなかったが、この会議の背景事情を伺うことが出来た。

フィリピンのLGBTQ
「フィリピンのLGBTQは差別を受けているのか」という質問に対し、彼女は「フィリピンは宗教的に保守的な風土であり、LGBTQIA+に対する差別は強い」と語った。例えば、就職の際にLGBTQIA+ということだけで就職出来ないといったことは日常茶飯事という。勿論LGBTQIA+の人々は多く、経営側にも労働者側にもおり、フィリピン金融・産業間プライド(PFIP)というLGBTQIA+の権利促進組織は運動の主体として広く認められているが、全体的な理解は乏しいそうだ。この背景には、フィリピン労働法(レーバーコード)には性による差別の禁止の項目はあっても、LGBTQIA+を明示して差別を禁じる項目が無いことによっている。これに対し、すでに10年以上前からSOGIESC平等法案(性的志向性、ジェンダーの自認、表現、性的特徴による差別を禁止する法案)が下院に提出されているが、これを真剣に討論しようと言う機運は乏しいようだ。勿論その理由はフィリピンで最も強力な社会団体である宗教界の有力者の反対がある。ただし11州が独自の差別反対条例を定めており、マニラやケソンシティも条例がある。
労働組合側は、ナショナル・センターTUCPを中心に職場のLGBTQIA+差別反対の項目を協約に入れ込む活動を進めており、これまでも成果は上がっているそうだ。例えば、同性のパートナーに医療保険や生命保険の権利を与える、ジェンダーインクルーシブなトイレを作るなどの例が挙げられる。

グローバルユニオンの取り組み
昨年11月グローバルユニオン評議会LGBTI調整委員会は南アフリカのケープタウンで会議を開き、いかにグローバルな反LGBTIの動きに対し闘うか、世界的にLGBTI労働者の権利を強化するかについて話し合った。この会議はLGBTIの人々をより幅広く代表するILGA世界大会と軌を一にしたものだった。ILGAは1978年に設立されたLGBTIの権利向上のための団体で、2011年から国連経済社会評議会に諮問組織としての資格で参加しており、国連人権評議会で発言する権利も有している。全世界170ヵ国・地域の2000以上の組織が属している。(ILGAウェッブサイト)
「米国。。。で我々の権利はこれまで経験したことの無い攻撃にさらされている。このような中LGBTI労働者の人権を守ることは特に重要である」とは、グローバルユニオン評議会LGBTI調整委員会議長ミシェル・ケスラーの言葉である。彼女は食品関係の国際産別IUFのLGBTI労働者・同盟者委員会の議長、さらに米国の商業労組UFCWのLGBTI労働者グループ(UFCW アウトリーチ)の議長でもある。トランプ政権の強引な反LGBTI政策運営はUFCWなど組合の反発を呼んでいる。(CGU-LGBTI委員会ウェブサイト)
ベロニカ・フェルナンデス・メンデスUNI機会均等局長は、LGBTI権利増進のツールキット発表に際し、「これはILO第190号条約の推進に対する我々の取組みを強化するものであり、190号条約を各国政府に批准させ、国内法や団体協約に反映させる上で、組合が果たす極めて重要な役割を強調するものだ」と指摘し、「これらのリソースを通じて、我々は組合と組合員がLGBTQI+労働者の権利を世界中で擁護し、190号条約の原則が職場において積極的に組み込まれるようにしていく」と述べた。(UNI-LCJニュース2024年1月号)

フィリピンのLGBTQ労働者の権利獲得運動
フィリピンのLGBTQの権利獲得運動は大きな流れになっているとは言えない。フィリピン社会でカトリックやプロテスタントの教会が果たす役割が大きいことを考えれば、このことは容易に理解できる。
にもかかわらず、運動は前進している。例えば、UNI-LCJウェッブの「フィリピンのコミュニティー・ケアワーカー、行動計画の策定とジェンダー研修で結束」という記事によれば、「ワークショップでは、TUCPのカトリーヌ・ガヨ=ビヨン氏が指導するジェンダー感受性に関する重要なトレーニングが行われた。このプログラムでは、SOGIESC、ジェンダーの役割、偏見、不平等を理解することの重要性が強調され、多くの労働者(特に女性)が差別や不当な扱いを経験している医療部門において、その重要性が強調された。参加者は、社会的な規範や期待がどのようにこれらの課題の一因となっているかに焦点を当てながら、職場におけるジェンダー配慮の意味について深く考察した。研修ではまた、法的権利と保護に重点を置きながら、より包摂的で尊重される職場環境を作るための実践的な戦略も提供された」(2024年10月号)とある。研修などを通じて、意識は一歩一歩労働者の中にしみこんでいると言える。
次の焦点は人権の日という。大きな人権という視点からLGBTQの活動を捉えるわけだ。フィリピンには多くの進歩的な社会団体があり、草の根活動も活発である。その中でも労働組合による意識向上の着実な活動はいつの日か日の目を見るであろう。最低限職場における差別や偏見をなくしていく役割を果たすであろう。ベルナデット・アドリアチコさんのような草の根の人々がこれらの運動を支える限り、未来は明るいと感じた。(I)

以上