活動報告 各国の労働事情報告

2025年 ネパールの労働事情(ネパール・パキスタンチーム)

以下の情報は招へいプログラム「ネパール・パキスタンチーム」参加者から提出された資料をもとに作成したものである。

参加者情報

  • ネパール労働組合会議 (NTUC)

基本情報(外務省データ2025年4月18日更新分より)

人口:2,969万4,614人 (2023年 世銀)

宗教:ヒンドゥー教徒(81.3%)、仏教徒(9.0%)、イスラム教徒(4.4%)他

政体:連邦民主共和制

主要産業:農林業、貿易・卸売り業、不動産

GDP:5兆5,707億ルピー(約40.91億ドル)(2023年度 世銀)

物価上昇率:7.1%(2022年度、世銀)

 

1.参加国におけるホットトピックスと、具体的内容

組織化と組織拡大
1)現状と課題

ネパール労働組合会議(以下、NTUC)では、地方自治体(753か所)とのネットワークを構築し組織化を進めている。しかし、労働組合には労働運動の権利が法的に認められているものの、政治的干渉、職場での報復などにより、実際には制約されている。また、労働組合員も組合の運営管理ノウハウ取得のための手段や資源も不足している。さらに、労働組合は社会保険制度の加入を促進しているが、低所得層は社会保養制度に加入する余裕がないことも問題であり。その背景には一部に富が集中する深刻な格差構造が存在し、この格差が制度の普及を妨げている。そのような中で、NTUCは近年JILAFと連携して児童労働撲滅に向けたブリッジスクール制度(非正規学校)の充実やインフォーマルセクター労働者の組織化をはじめ、労働安全環境の改善を通じた労使関係の構築、産業レベルとの協力などで組織拡大を推進している。組織化・組織拡大の対象は以下の通り。

    • インフォーマルセクター(農業、建築、交通、観光産業など)を対象
    • さらに、女性と若者の参加も積極的に促進
    • IT業界、流通分門、自営業も組織拡大としての対象
    2)改善(戦略)に向けて

NTUCでは、JILAFの草の根支援(以下、SGRA)プロジェクトで組織化・組織拡大を進めてきた。今後、中央政府やに働きかけを行うとともに、各種団体と連携する中で、PR運動を通じて一般社会に労働組合のことを周知し組織拡大を強化する。具体的な戦略は以下の通り。

    • インフォーマルセクターの実態調査と各地域にインフォーマルセクター労働者に関する活動の担当者を決定
    • 女性と若者のリーダーシップの育成
    • 職場での労働組合教育と啓発行動、社会対話や団体交渉の充実強化
    • 労働者との対面が困難場合にも、フェイスブックなどのSNSやメッセージアプリを通じて、労働者や労働組合の代表とコミュニケーションを取るなどの、組織活動を実施
    • 最低賃金、労働条件、組合の権利に対しての認識を社会全体に広めるために、NTUCは組合員本人だけでなくその家族にも説明している。教育水準が必ずしも高くないコミュニティでは、家族や地域コミュニティを通じて理解を広げることが効果的であり、そのため家族への説明が社会全体への周知の入口となっている。
    • NTUCのカレンダーを作成し、運動を社会に周知
対話のメカニズム
1)現状

企業レベルでは団体交渉(労使協議含む)として、使用者との話し合いで職場の環境改善の協議を行っている。複数の組合が存在する企業内組合では、選挙で代表組合を決定し、団体交渉に入るシステム。交渉で決定した内容は数日中に実施することとなる。協議が不調の場合は労働局の介入により解決を図るが、それでも交渉が滅裂した場合には、ストライキに踏み切り、最終的に裁判所での闘争となる場合もある。以下は上部団体等の対話メカニズム。

    • 産業別、地方自治体、州、国レベル(4つの対話)での社会対話の交渉があり、協議・対話を実施する
    • 産業別レベルでは労使で団体交渉委員会、労働委員会、福利委員会、安全衛生委員会を設置する
    • 地方自治体レベルでは労働デスク、政労使三者構成で協議
    • 州レベルでは労働調整委員会、政労使三者構成
    • 国レベルでは、労働省の中に労働委員会、最低賃金委員会、社会保障委員会など複数の委員会
2)改善に向けて
    • 時代にあった労働法制を求めるとともにILO批准に向けた運動を推進する
    • 労働者の技術や能力を高める活動を展開する
    • 雇用形態の多様化に合わせたリサーチを行い効果的な運動を展開する
    • 組織的な社会対話を重ね交渉相手に対して協力体制を構築する
    • 職場での労使紛争やストライキなどを緩和し社会対話の重要性に傾注す

2.直近に発生した(もしくは発生している)労働争議について

最近の労働争議事例

カトマンズ・ウパティカ水道公社(KUKL)での労働協約不履行問題。

    • 経営側が労働協約を履行しなかったため労働組合が抗議行動を実施
    • 横断幕やプラカードを使用したデモ
    • 従業員による座り込み
    • 組合リーダーの指導によるシュプレヒコール
    • NTUCによる支援と連帯行動

※争議は現在も継続中で、労働条件の改善と労働協約の履行を求めて活動が行われている。

3.労働法制について

現状

2015年制定の憲法により、ネパールは連邦民主共和国として三層の政府(連邦・州・地方)を持つ体制を確立した。憲法施行後には労働法や社会保障関連法が整備され、労働市場の発展に貢献しているが、インフォーマル経済の労働者を制度に組み込むことが大きな課題となっている。

現状

2015年制定の憲法により、ネパールは連邦民主共和国として三層の政府(連邦・州・地方)を持つ体制を確立した。憲法施行後には労働法や社会保障関連法が整備され、労働市場の発展に貢献しているが、インフォーマル経済の労働者を制度に組み込むことが大きな課題となっている。

現行労働法の課題と全国組織の取り組み

2017年の新労働法・社会保障法は、労働組合の長年の活動の成果であるが、社会保障の拡充を勝ち取るために、労働組合は雇用主側の主要の要求でもあった柔軟な雇用形態を受け入れることで太政してた。その結果、ILO基準のの整合性や女性労働者の保護も進んだが、解雇や外部委託(アウトソーシング)が容易になり、団体交渉権やインフォーマルセクター労働者の権利保護は不十分である。NTUCは組合活動を妨げる条項や外部委託の濫用に対して法改正を求めている。

労働法改正の動向

2017年の改正で中央労働諮問会議(CLAC)が設置され、政府・使用者・労働者の三者協議が制度化された。最低賃金も2年ごとに見直され労使が関与。
なお、法令に基づき企業内では労委関係委員会や安全衛生委員会が設けられており、これらの委員会が法制度の見直しにも役割を果たしている。

4.社会保障制度について

現状

社会保障は、失業・病気・老後などにより働けなくなった際に、生活を支える仕組みである。しかし、ネパールでは、社会保障制度の対象が限られており、多くの労働者は十分な所得保障を受けられない。2017年制定の貢献型社会保障法により、インフォーマルセクター労働者にも制度が拡大され、医療や年金・失業支援など多様な給付が提供されている。ただし、保障範囲は選択制であり、包括的な保障はない。2022年には対象者向けの具体的な運用指針も整備された。

課題と全国組織の取り組み

インフォーマルセクター労働者は法制度上に社会保障制度の対象とされているものの、実際の運用面では十分に実現していないため、NTUCはインフォーマルセクター労働者への制度適用を求めて活動しているが、使用者・政府負担の問題や登録制度の不透明さが障害となっている。地方での登録制度の整備や、政府による財政支援の拡充を提案している。

社会保障制度改正の動向

制度は社会状況や必要性に応じて継続的に見直されており、柔軟に改正が進められている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  3)対策として

出生率の低下の背景には、出産制度の不備と経済的理由があり、子どもを産まない選択をする家庭が増加している。解消のために以下のような対策が必要。

(1)ILO183号条約の批准ための運動の推進
この条約は、母性保護と母性を理由とした差別禁止、出産休暇(最低14週間)および休業中の所得補償などを規定している(タイと日本は未批准)。

(2)出産休暇の制度統一と有給化
現在、出産休暇の日数や有給休暇は企業によって異なっており、国と企業による有給休暇は合わせても90日間が限度。これを最低でもILO183号条約の出産休暇と同等の98日間を有給休暇として制度化することが必要。

 (3)育児休暇制度の整備と拡大
現在、タイの男性を対象とした育児休暇制度は、公務機関に従事する男性を対象にした、15日間の有給休暇(タイでは「奥さん手伝い休暇」と言われている)に限られている。民間企業には適用されていないため、全国民を対象とした育児休暇制度の導入が求められる。

2.不安定雇用について
1)不安定雇用の現状

タイでは、労働組合結成にあたり、一定人数の確保や労働省への登録申請など厳しい法的手続きが求められ、設立のハードルが高い。申請しても許可が下りないケースが少なくない。さらに、労働組合結成に関する活動をした労働者が、使用者から様々な理由によって解雇される事例も発生している。

仮に、労働組合が結成された場合でも、使用者側は団体交渉を拒み、賃金が中々改定されない状態が続いている。そのため、低賃金状態が慢性化しており、また、若年層の採用も抑制されている。結果として、若者の多くは「ギグワーカー」として不安定な雇用形態で働かざるを得ない現状がある。

2)不安定雇用の問題点

(1)労働組合つぶしの横行と交渉の困難性
使用者による労働組合活動の妨害や組合員の解雇が横行しており、労働条件改善に向けた団体交渉の実施が困難となっている。その結果、賃金水準は低く抑えられ、質の高い労働者の確保が困難。結果として慢性的な人手不足を招いている。

(2)非正規労働者の組合加入が法律で認められていない
現行法では、非正規労働者の労働組合加入が認められていない。そのため多くの労働者は劣悪な労働条件の下に働かざるを得ない。

(3)若年層の不安定雇用と賃金格差の実態
20代から30代の若年層が不安定な雇用形態で働いており、賃金水準も低い。法律上は「同一労働・同一賃金」が定められているが、使用者は「業務内容の同一性」や「賃金差の正当性」という独自の解釈を盾にして制度が実質的に守られていない。

(4)組合の継承と技能の断絶
若年層の不安定雇用の増加に伴って、労働組合の継承と持続性が損なわれている。その結果、職場における技能や経験の継承ができないため質の高い労働力の確保が難しくなっている。

3)対策

(1)ILO中核的労働基準条約の批准に向けた取り組み
「第87号条約(結社の自由と団結権の保護)」、「第98号条約(団体交渉権の承認)」について、その批准に向けた取り組みを推進する。そのためには、政治活動を積極的に展開して労働者の声を政治に反映する政治家と連携することが求められる。

(2)ナショナルセンターの統一
現在21あるナショナルセンターの統一を進め、労働者の一致団結を図る。

(3)法改正による組合結成と団体交渉権の保障
労働組合の結成や団体交渉権を明確に法律で保障するため、関連法の改正を求める運動を強化する必要がある。

(4)非正規労働者への労働組合加入権の確保
非正規労働者の労働組合結成と加入を求める活動を展開する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

若年労働者のスキルアップと高度人材の育成は、中国製品を高品質で生産し、新たな製品の開発を促進する上で極めて重要である。しかしながら、全労働人口に占める高度人材の割合は、先進国(40%-50%)よりもはるかに低い7%であり、中国では約2,000万人の高度人材が不足している。特に、若年労働者は「工場で従事することを望まない」傾向にあり、製造業の現場における高度人材の不足は深刻である。

そのような状況において、中華全国総工会は労働技能コンテストの開催や、若年労働者に対する思想・政治的指導の強化を促進してきた。また、オンライン学習プラットフォームを構築・活用し、若年労働者の技術・技能の向上に力を入れている。

2. 労働組合幹部の育成

中華全国総工会による労働組合幹部の教育・訓練活動は、「特色のある社会主義思想を堅持し、労働組合の政治性、先進性、大衆性を維持・強化すること」に重点を置いている。本内容について、3つの側面から概要を述べる。

①組織体系

労働組合幹部に対する教育・訓練業務の主管部門は中華全国総工会組織部であり、教育・訓練の計画、制度構築、監督・監査などの職務を遂行する。下部組織である地方組織は担当地域の労働組合幹部の教育・訓練業務に責任を負う。

②制度

中華全国総工会は5年ごとに1回の全国労働組合幹部教育・訓練計画を制定する。直近では、2024年7月に『全国労働組合幹部教育訓練計画(2024-2028年)』を制定し、今後5年間の活動方針について取り決めた。中華全国総工会と地方組織は毎年年初に年度労働組合幹部養成計画を発表し、労働組合幹部養成の具体的な内容やコース数を取り決めている。2023年以降、オンラインとオフライン合わせて118万人以上の労働組合幹部を訓練した。

③カリキュラムと教材

中華全国総工会は、労働組合の基礎理論、組織活動、広報活動、権益補償、労働と経済活動、労働法制、女性労働者、国際労働運動、産業別別労働組合、中国労働者運動史などについて、2年ごとに、30のカリキュラムと8つの教材を作成している。

3. プラットフォーム労働者の権利と利益の保護

プラットフォーム労働者(約8,400万人)は、国民の多様なニーズを満たし、経済発展に貢献している。

従来の働き方と比較して、プラットフォーム労働者は労使関係が不明確であり、規制がかかりにくい。また、就労地域が広く分散しているため、労働紛争の調査と証拠収集が困難である。

中国はプラットフォーム労働者の権利と利益の保護を非常に重視しており、「新たな雇用形態における労働者の権利と利益の保護に関する指導意見」や「プラットフォーム労働者に関する4つのガイドライン(①労働契約の締結及び書面による合意、②権利利益の保護及び労働報酬、③労働規則の公表、④権利利益の保護に関するガイドライン)」など一連の文書を発行した。