2025年 タイの労働事情(タイ・ラオスチーム)
以下の情報は招へいプログラム「タイ・ラオスチーム」参加者から提出された資料をもとに作成したものである。
参加者情報
- ITUCタイ協議会(ITUC-TC)
タイ労働組合会議(TTUC)
タイ労働会議(LCT)
国営企業労働連盟(SERC)
全国民間産業労働者会議(NCPE)
タイ自動車労働組合会議(ALCT)
タイ産業労働組合会議(CILT)
基本情報(外務省データ2024年5月27日更新分より)
人口:6,609万人
宗教:仏教 94%、イスラム教 5%
政体:立憲君主制
主要産業:製造業、農業、観光
GDP:5,135億ドル(名目、2023年、タイ国家経済社会開発委員会)
経済上昇率:1.9%(2023年、タイ国家経済社会開発委員会)
Ⅰ 参加国におけるホットトピックス
1.出産・育児休暇の取得環境整備に向けて
2.不安定雇用について
Ⅱ 具体的内容
1.出産・育児休暇の取得環境整備に向けて
1)タイの労働事情
現在、タイの人口は約6,600万人で、そのうち労働力人口は約4,600万人(うち移民労働者が約500万人となっている)。労働力人口は、2017年の5,000万人をピークに減少し続けている。ASEAN諸国の中でも、タイの高齢化は特に顕著で、WHOによる人口予測では、2085年には総人口が約3,300万人となり、現在の半分になると見込まれている。これに伴い労働力人口も1,400万人まで減少することが予測されている。
2)労働力人口減少社会を迎える問題点
(1)出生率の低下、安心して出産できる制度の不備
死亡数が出生数を上回っており、将来的に子どもの数は1,100万人から100万人へと減少する可能性があることが指摘されている。
(2)社会構造の変化による雇用状況の悪化
不安定な雇用が急増し、安定した職に就くことが難しくなっている。
(3)自身の労働条件に関する意識の希薄化
組合への関心が低く、組合に加入する若年層は少なく、自分自身の労働条件改善を求める意欲に欠ける。
(4)外資系企業の人手不足と人件費の急騰
タイ国内の外資系企業の約40%が、人手不足と人件費の急上昇に悩んでいる。
3)対策として
出生率の低下の背景には、出産制度の不備と経済的理由があり、子どもを産まない選択をする家庭が増加している。解消のために以下のような対策が必要。
(1)ILO183号条約の批准ための運動の推進
この条約は、母性保護と母性を理由とした差別禁止、出産休暇(最低14週間)および休業中の所得補償などを規定している(タイと日本は未批准)。
(2)出産休暇の制度統一と有給化
現在、出産休暇の日数や有給休暇は企業によって異なっており、国と企業による有給休暇は合わせても90日間が限度。これを最低でもILO183号条約の出産休暇と同等の98日間を有給休暇として制度化することが必要。
(3)育児休暇制度の整備と拡大
現在、タイの男性を対象とした育児休暇制度は、公務機関に従事する男性を対象にした、15日間の有給休暇(タイでは「奥さん手伝い休暇」と言われている)に限られている。民間企業には適用されていないため、全国民を対象とした育児休暇制度の導入が求められる。
2.不安定雇用について
1)不安定雇用の現状
タイでは、労働組合結成にあたり、一定人数の確保や労働省への登録申請など厳しい法的手続きが求められ、設立のハードルが高い。申請しても許可が下りないケースが少なくない。さらに、労働組合結成に関する活動をした労働者が、使用者から様々な理由によって解雇される事例も発生している。
仮に、労働組合が結成された場合でも、使用者側は団体交渉を拒み、賃金が中々改定されない状態が続いている。そのため、低賃金状態が慢性化しており、また、若年層の採用も抑制されている。結果として、若者の多くは「ギグワーカー」として不安定な雇用形態で働かざるを得ない現状がある。
2)不安定雇用の問題点
(1)労働組合つぶしの横行と交渉の困難性
使用者による労働組合活動の妨害や組合員の解雇が横行しており、労働条件改善に向けた団体交渉の実施が困難となっている。その結果、賃金水準は低く抑えられ、質の高い労働者の確保が困難。結果として慢性的な人手不足を招いている。
(2)非正規労働者の組合加入が法律で認められていない
現行法では、非正規労働者の労働組合加入が認められていない。そのため多くの労働者は劣悪な労働条件の下に働かざるを得ない。
(3)若年層の不安定雇用と賃金格差の実態
20代から30代の若年層が不安定な雇用形態で働いており、賃金水準も低い。法律上は「同一労働・同一賃金」が定められているが、使用者は「業務内容の同一性」や「賃金差の正当性」という独自の解釈を盾にして制度が実質的に守られていない。
(4)組合の継承と技能の断絶
若年層の不安定雇用の増加に伴って、労働組合の継承と持続性が損なわれている。その結果、職場における技能や経験の継承ができないため質の高い労働力の確保が難しくなっている。
3)対策
(1)ILO中核的労働基準条約の批准に向けた取り組み
「第87号条約(結社の自由と団結権の保護)」、「第98号条約(団体交渉権の承認)」について、その批准に向けた取り組みを推進する。そのためには、政治活動を積極的に展開して労働者の声を政治に反映する政治家と連携することが求められる。
(2)ナショナルセンターの統一
現在21あるナショナルセンターの統一を進め、労働者の一致団結を図る。
(3)法改正による組合結成と団体交渉権の保障
労働組合の結成や団体交渉権を明確に法律で保障するため、関連法の改正を求める運動を強化する必要がある。
(4)非正規労働者への労働組合加入権の確保
非正規労働者の労働組合結成と加入を求める活動を展開する。
若年労働者のスキルアップと高度人材の育成は、中国製品を高品質で生産し、新たな製品の開発を促進する上で極めて重要である。しかしながら、全労働人口に占める高度人材の割合は、先進国(40%-50%)よりもはるかに低い7%であり、中国では約2,000万人の高度人材が不足している。特に、若年労働者は「工場で従事することを望まない」傾向にあり、製造業の現場における高度人材の不足は深刻である。
そのような状況において、中華全国総工会は労働技能コンテストの開催や、若年労働者に対する思想・政治的指導の強化を促進してきた。また、オンライン学習プラットフォームを構築・活用し、若年労働者の技術・技能の向上に力を入れている。
2. 労働組合幹部の育成
中華全国総工会による労働組合幹部の教育・訓練活動は、「特色のある社会主義思想を堅持し、労働組合の政治性、先進性、大衆性を維持・強化すること」に重点を置いている。本内容について、3つの側面から概要を述べる。
①組織体系
労働組合幹部に対する教育・訓練業務の主管部門は中華全国総工会組織部であり、教育・訓練の計画、制度構築、監督・監査などの職務を遂行する。下部組織である地方組織は担当地域の労働組合幹部の教育・訓練業務に責任を負う。
②制度
中華全国総工会は5年ごとに1回の全国労働組合幹部教育・訓練計画を制定する。直近では、2024年7月に『全国労働組合幹部教育訓練計画(2024-2028年)』を制定し、今後5年間の活動方針について取り決めた。中華全国総工会と地方組織は毎年年初に年度労働組合幹部養成計画を発表し、労働組合幹部養成の具体的な内容やコース数を取り決めている。2023年以降、オンラインとオフライン合わせて118万人以上の労働組合幹部を訓練した。
③カリキュラムと教材
中華全国総工会は、労働組合の基礎理論、組織活動、広報活動、権益補償、労働と経済活動、労働法制、女性労働者、国際労働運動、産業別別労働組合、中国労働者運動史などについて、2年ごとに、30のカリキュラムと8つの教材を作成している。
3. プラットフォーム労働者の権利と利益の保護
プラットフォーム労働者(約8,400万人)は、国民の多様なニーズを満たし、経済発展に貢献している。
従来の働き方と比較して、プラットフォーム労働者は労使関係が不明確であり、規制がかかりにくい。また、就労地域が広く分散しているため、労働紛争の調査と証拠収集が困難である。
中国はプラットフォーム労働者の権利と利益の保護を非常に重視しており、「新たな雇用形態における労働者の権利と利益の保護に関する指導意見」や「プラットフォーム労働者に関する4つのガイドライン(①労働契約の締結及び書面による合意、②権利利益の保護及び労働報酬、③労働規則の公表、④権利利益の保護に関するガイドライン)」など一連の文書を発行した。
