フィリピンの反汚職デモと労働組合の関与
9月21日のデモ
フィリピンには「ピープルパワー」と呼ばれる大規模デモが政権の打倒に至ったケースが3回あったという。1986年のエドサ革命と呼ばれる独裁者マルコスの20年に渡る支配を打倒、民主主義の回復を成し遂げた大衆運動が第1回、2001年エストラーダ大統領を辞任に追い込んだ大衆運動が第2回、そしてエストラーダが復権を目指した大衆運動が第3回だそうで、今回の反汚職デモが第4回目のピープルパワーとなるかが注目されている。(「ザスター」9月23日)
フィリピンは台風銀座と呼ばれるほど台風が襲来し、その度に洪水が発生する。今回のデモは、特に7月にあった洪水を背景に、国民の不満が高まり、マルコス大統領が7月28日の施政方針演説で「洪水対策の土木事業が適切に行われているか政府として調査」を行うとし、その後数多くの不適切な事例が発見されたことに端を発する。挙句の果ては、工事が特定の会社に集中しており、それらの会社は政治家にキックバックを行い、台風対策工事事業を獲得していたという事実がテレビで大々的に報道された。政治家の大半がこうした「裏金」を貰っており、その中にはマルコス大統領の親戚もいた。これに対し、各地の大学で「腐敗反対」のデモは拡大し、集約点として労働組合、教会などを含む9月21日のデモが取り組まれた。
マルコス大統領は専ら譲歩の姿勢だ。10月3日世界教師の日を前に教職員組合ACTがストを打った。(10月1日)学校建設が約束されても一向に建設されないなどの例は教育の現場にもあると言う。腐敗の問題は洪水を越えて、様々な問題に飛び火している。
10月8日ボビット・リブロジョUNI-PLC事務局次長から話を聞いた。氏はUNIの活動を通じて労働運動と関わる傍ら、腐敗に反対するNGOであるティンディー・ピリピナスでも活動している。
ボビット氏の話
Q 腐敗反対の動きは大きく高まり、9月21日のデモとなりました。日本でも報道されましたが、過激派と警官隊との衝突ばかり写されました。
A 当日は主に2つの大集会が開催されました。ルネタで開かれた大集会とピープルパワー記念碑近くで開催されたものです。これら二つ以外にも多くのデモが取り組まれ、大規模なものになりました。朝から晩まで人々が出て、デモは終わりを知りませんでした。20万人が参加したと言われています。ルネタの集会では、有名なコメディアンが腐敗した議員の寸劇を演じ、集会を盛り上げました。過激派が警官と衝突したのは、メンディオラ周辺で行われたデモで別物です。244人が逮捕され、103人が18歳以下でした。
Q これだけ大きな大衆行動になったのは1986年の第1次ピープルパワー以来と思いますが、労働団体はどのように関与しているのでしょうか?
A 労働側から集会の呼び掛け人となったのは、ナガイサ労働連合です。ナガイサは、KMU、TUCP、セントロ、FFWなどナショナルセンターを結ぶ労働団体の大連合として2012年に出発しました。現在ではKMUとTUCPは抜けてしまいましたが、ナガイサはまだ力を持っています。ナガイサ会長は、FFW会長のソニー・マトゥーラが務めています。ただ労働団体が今回の反腐敗の運動に全面的に関わっているかと言うと、そうでもない。今回の集会の主役は教会筋だったと言えるでしょう。カトリックもプロテスタントも集会に参加しました。
Q 9月19日にマルコス大統領はILO「結社の自由」の実施を強く訴える大統領令97号に署名しました。これをナガイサが大絶賛したという話を新聞で読みました。https://newsinfo.inquirer.net/2114083/labor-coalition-hails-marcos-executive-order-protecting-workers-rights
マルコス大統領は労働政策に熱心なのですか。
A ドゥテルテ前大統領によって実施されたドラッグの密売人に対する「超法規的殺人」は行き過ぎており、労働組合活動家も被害者になりました。労働側はこれをILOに提訴、ILO側は調査ミッションをフィリピンに送り、報告書を作成。フィリピン政府に根本的な是正を求めました。マルコス大統領は、ドゥテルテ前大統領と対立しており、この大統領令にはこうした背景があります。しかしこの大統領令は労働側にとってこれは大勝利です。民間を含み労働者は自由に労働組合を結成し、参加し、恐怖心無く彼らの持つ権利を行使できることが定められています。
今回のデモに対し、ドゥテルテ派はデモをマルコス反対・ドゥテルテ復帰へと「ハイジャック」しようとしましたが、成功はしませんでした。
Q 反腐敗と言っても、問題解決には相当の時間がかかると思います。今回のピープルパワーですが、あなたは今後どう展開すると思いますか?
A 今回の運動はさらに続きます。次の大規模デモは11月30日に予定されています。これはトリリオン・ペソ・マーチと呼ばれています。そして9月21日から11月30日までの間行われる個別の小規模なデモはホワイト・フライデイ行動と呼ばれ、デモや警笛を鳴らすなど様々な行動に取り組みます。私がそうあってほしいと願う運動の目標は、レニー・ロブレド大統領の実現です。彼女はドゥテルテ政権下で副大統領を勤め、2022年の大統領選に出馬しましたが、惜しくもマルコスとドゥテルテの「政治王朝」に敗れました。この「政治王朝」(デユナスティー)がフィリピン政治を蝕んでいます。UNI-PLCの一部加盟組合はこれに対し、レニー支持を打ち出し、選挙戦を戦いました。彼女が決意を固めれば、マルコス大統領の対抗馬として反腐敗ピープルパワーの支持を得る事は可能でしょうが、彼女はまだ決意を固めていません。若者たちも運動の前面に出てきています。彼らの内誰かがリーダーになって運動全体を引っ張ることもあり得るでしょう。例えば、コーリー・アキノの孫であるキコ・アキノ・デーや社会民主的な大衆団体アクバヤンのラファエラ・ダビッドといった人々です。フィリピンの大衆運動は非常に興味深い段階に入って来ました。
10月10日金曜日フィリピン各地では学生や教会関係者のデモが行われた。反腐敗デモは当分終わることは無さそうだ。(I)
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