ヒュンダイ自動車バッテリー工場の高技術労働者が不法就労で逮捕
9月9日のウオールストリート・ジャーナルや7日のニューヨーク・タイムズなどが「ジョージア州で建設中の現代自動車バッテリー工場で働く高技術労働者数百人が不法就労の疑いで逮捕された。しかし、米国人高技術労働者の獲得は難しく、米国生産を強いられるアジアメーカーは苦難に直面している」と報じている。
これはトランプ政権が進める大規模な不法移民摘発の一環だが、トランプ大統領はSNSに「摘発に当たった移民当局はその仕事を進めただけだ。ただし世界クラスの製品への製造技術を持つ労働者の入国に向けては早急に対策を講じる」と投稿したが、米国では長期にわたる製造業の雇用減少と海外生産依存により技術労働者が不足しており、セミコンダクターやバイオ・テクノロジーなどの先端産業を支える労働力はいないと言われ、このままではセミコンダクター産業だけでもは2030年までに67,000人の熟練労働者不足が続くと言われる。
現在、韓国や日本、台湾などのアジア各国はトランプ大統領との関税交渉において多額の対米投資を強いられているが、韓国については自動車などの関税が25%から15%に引き下げられる中で3,500億ドルの投資が約束された。その中で起きたのが今回のジョージア州メタプラント工場の移民労働者逮捕事件だが、韓国大統領は「こうした事態が2度と起きないよう米国と協力してゆく」と言明、しかし会社は「米国人労働者の採用と訓練に力を注ぐが、アメリカ人だけでは要求されるスケジュールを満たすのは難しい」と述べており、こうした実情が数百名のアジア労働者を必要とする理由となっている。
韓国の現代自動車についてはLGエネルギーなど、各メーカーにはそれそれの系列があるが、今回逮捕された300名の内の250名はLGの従業員で、その内3名が日本人、大半が短期的な職業訓練と監督業務のためのB-1などの暫定ビザ所持者で、インストラクターとして働いていた。その他には、旅行や限定的な事業目的での60日未満のビザ無し入国も存在するが、今まではこれが慣例となっていたとも言われる。
2023年には台湾セミコンダクター製造(TSMC)が500名の熟練労働者の米国入国を申請したが現地のアリゾナ建設労働組合の反対に会い、短期滞在に留めることを約束させられるなど、現地事情とビザ規制が絡み合って、要求される対米投資に対応できる技術労働者の獲得が極めて難しい状況にある。さる7月にはカリフォルニア選出のキム下院議員などが15,000名の韓国労働者対象に特別教育、技術訓練目的のビザ発行法案を提案したが、同種の法案は過去10年、採用されたことがない。
こうしたビザは過去、自由貿易協定のもとで豪州とシンガポールとの間に認められたことがあったが、豪州のケースでは特定分野について2年間滞在の10,000件のE-3ビザを発行、無期限の更新を許可している。韓国も2012年に米国と自由貿易協定を交渉した際、同様のビザ発給を強く働きかけたが失敗に終わったが、ビザ無し滞在には若干の道を開いた。
しかし安定的かつ長期的な解決は急務とされる。ビザの中で、H-1Bビザは米国企業が外国人労働者を技術やエンジニアリングなどの特別業務で雇用する場合のビザで年間の発給数は10万人に限定、E-2ビザは米国と通商協定を結ぶ国の企業からの対米進出の際の特別労働者向けのビザで、台湾や韓国、日本が含まれるが、申請が増加している昨今、取得はますます難しくなっていると言われる。
以上