活動報告 メールマガジン

インドネシア・サービス部門労働組織の細分化とAspirasiの台頭

2025.09.08掲載

8月後半からインドネシアは学生・労働者のデモが拡大している。8月28日、オンライン労働者のアファン・クルニアワン氏が警察車両に轢かれたことは全国に衝撃を与え、デモは収まる兆しを見せない。8月30日にはオンライン労働者の組織SPPDセペダとその上部団体Aspirasiの代表がアファン氏の家を訪れ、哀悼の意を表した。この瞬間全国がAspirasiに注目した。多くのメディアが「Aspirasiとは何か?」を取り上げた。8月27日Aspirasiの理論的立役者であるクン博士に話を聞いた。クン氏は長くグローバルな労働組織UNI-Aproで活動後、退職し、ジャカルタ特別州知事選にチャレンジ、選挙には落ちたが、その後のAspirasi結成など労働運動に大きな影響力を持つ人物である。現在はチキニ科学技術大学で学部長を務めている。

背景
Aspekは、サービス産業を中心に労働者を組織するUNIグローバルユニオンのインドネシアの加盟組合連絡協議会である。ただし日本と同じ加盟組合連絡協議会と言っても、活動内容は大いに異なり、UNI領域の商業、金融、郵便、テレコム、印刷、放送部門で働く労働者の組織化が活動の中心となる。
1999年当時スハルト体制が倒れ、インドネシアが民主化に向かう中で、多くの労働組合が生まれた。香港上海銀行など金融部門を中心に結成されたASPEKは、2000年UNIの誕生を機に、UNIのインドネシアにおける受け皿として、先程述べたUNI領域をカバーする組織に進化した。当時タビプ書記長を中心に次から次へと組合を結成するAspekはUNIの中でもひときわ目立った存在だった。
ところが2005年第3回Aspek大会で金融部門に影響力を維持したタビプ書記長が選挙で負けると、彼はAspekを脱退し、金融部門の組合を中心にOPSIという組織を作った。
続いて2014年Aspek臨時大会で、2012年から会長職を担っていたジャヤが不信任になると、彼は郵便労組を引き連れてAspekを脱退した。ジャヤの後任として、ミラが女性として初めてAspekの会長に選ばれた。
だが2024年大会でAspek会長にルスディが選ばれると、前会長であったミラが反撥し、新しい組合(Aspirasi)結成を宣言した。テルコムセル労組、ロッテ労組、高速道路料金所労組、DHL労組など7組合がミラの下に走った。
ルスディは、2008年から2012年までAspekの書記長を務め、その後KSPIの書記長となり、2017年から24年まではKSPI副会長を勤めた人物である。だが彼はイスラム原理主義的な福祉正義党(PKS)党員であるという噂が絶えない。現在彼はPKSの労対部長を務めていることは公然の秘密である。
だがAspekの規約は、あらゆる政党・宗教・人種からの独立を定めている。この点で彼がPKSの労対部長であることは、明らかに矛盾がある。多くの組合がAspekを辞めた理由の一つはここにある。
驚くべきは、その後のAspirasiの急成長である。現在Asipirasiの加盟組合は30組合、9月末までに50組合、今年末までに100組合を組織するという目標を掲げている。

Aspirasi急成長の秘密:クン博士へのインタビュー
Q 結成されたばかりのAspirasiですが、成長著しいです。その秘密は何でしょう。
A 新しく伸びている独立した組織というイメージです。世界が大きく変わっている中、労働組合運動も変わるのは当たり前です。私達はこれを独立するという言葉で表現します。外部の力に資金的に依存せず、しっかりと自分の足で立って、運動する、ここがキーポイントになります。
我々はITを活用し、例えばオンラインで教育活動を展開します。安価で組合サービスを提供できます。財政的にこれを支えるのは加盟費以外ありません。私達はZ世代を対象にしています。ですからウェブは持っていません。インスタグラム、ティックトックとワッツアップだけです。Z世代は携帯世代です。これらツールを縦横に活用し、ネットワークのすそ野を広げています。私達は大学での宣伝も強化しています。彼らは次世代の組合員ですから。
Q それは分かりますが、それだけで急成長しているとは考えにくいのですが。
A 私は労働運動に関係して20年のキャリアがあり、多くの知見があります。人々が私の意見を聞きに来ます。組織には5人オルガナイザーがいます。彼らも労働運動のベテランです。こうした力が重なって組織の急成長をもたらしています。要は、良い人物と知り合うことです。信頼が確立すれば、そこから自然に組織は広がります。
Q しかし皆さんはAspekから出ることによって、UNIの支持を失いました。UNI無しで今後どうやって運動を作っていくのでしょうか?
A いずれ私達がUNIに加盟申請する日も来るでしょう。しかし今ではありません。多くの組合がAspekから出るとUNIという国際組織の後ろ盾が無くなるということを知っています。Aspirasiの現状を分析すると、Aspekから来た組合が40%、全く新規の組合が60%です。例えば、SPPI、ララムーブ、SPXエクスプレス(郵便・ロジスティクス)、ダナモン銀行(金融)、テレコム、テレコムシグマ労組(ICTS)、イオン、ロッテマート、セールスプロモーション(商業)などが新規組合です。運動を展開する上で、UNI加盟がキーではありません。ですから多くの組合がAspekを抜けてAspirasiに来ています。Aspekは古い組織、Aspirasiは新しい魅力的な組織というイメージが定着してきています。外部組織に依存しすぎると、運動の足腰は弱くなります。自分の金で運動するという当たり前のことを我々は行っているだけです。
Q あなた自身がUNI運動に関わってきましたが、退職してジャカルタ特別州知事選に出馬した理由は何ですか。
A 私は労働者の代表だということを一度も忘れたことはありません。UNI時代、日本の運動から政治活動の重要性を学びました。政治の世界に出ましたが、政党の後ろ盾があったわけではないので、選挙資金は非常に少なかったです。しかし3位になりました。反腐敗を訴える候補と組んでの出馬でしたが、理想的な訴えが人々の心をつかんだと言えます。又この選挙戦で多くの人たちと知り合いました。Aspek内外の組合からも多くの支援を受けました。これが今の運動に繋がっています。

ジャカルタのデモとAspirasi
アファン・クルニアワン氏の死去によって、SPPDとセペダというオンライン労働者組合とAspirasiは全国規模で有名になった。今後Aspirasiがどう発展していくのか、さらに注目したい。
以上

(I)