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米国労働省が時代遅れとされる60以上の法規改定を提案

2025.08.04掲載

7月22日のワシントン・ポストおよび24日のインディアナ州インクフリー・ニュースなどが標記記事の中で「労働省が60以上の法規についての改定を提案したが、目的は時代遅れで手間ひまのかかる法規の修正にあり、その中には在宅介護労働者への最低賃金の撤廃や有害物質規制、使用者責任などの法規がある」と報じた。

対象となる産業は建設、鉱山、農業、在宅介護など多岐にわたるが、目的は法令遵守の円滑化、使用者コストの軽減、各種規制の緩和による経済成長の促進にあると言う。

中でも論議を呼びそうなのは在宅介護労働者への連邦最低賃金の廃止と州法規定が無い場合の残業代支払い免除があるが、労働省案は2013年のオバマ時代の法律を撤廃して1975年に戻すことになる。在宅介護労働者は老齢者や病人の食事の手伝い、薬の用意、用便の手伝い、医者への訪問手助けなどにあたるが、370万人が現最低時給7.25を下回る恐れがある。労働省はコスト低減で老齢者や障害者の利用が増大すると主張しているが、反対者は「介護労働者の大半を占める女性、それも有色人種の女性に過大な影響を及ぼす」と指摘する。

次は移民農業労働者の問題だが、労働者を輸送する場合の全員シートベルト着用義務が廃止される。さらには農業移民向けのHー2Aビザ所有者を対象に昨年認められた保護措置、つまり苦情の提出者や各種調査に協力した者への使用者からの報復禁止条項が廃止される。使用者側は過重な義務が除去されると歓迎するが、労働者側は弱体な労働者への脅威が増大するとして反対「農場主による報復行為には歴史的に多くの事例がある。H-2Aビザを使用者が更新しないとするだけで脅威となる」と語る。

建設現場で長年実施されてきたOSHA(職業安全健康管理局)の適正光量規約も廃止される。労働省は安全労働基準を定めた一般義務条項で充分だと主張するが、労働側は「今までも光量不適切の現場では床穴に落ちるなどの重傷や死亡事故が起きている」と指摘する。

鉱山部門では鉱山安全健康管理局の地区マネージャー–の権限縮小が提案された。現行規約では政府地区マネジャーが空気清浄維持や屋根の崩壊防止への必要措置に強制権限を持つが、権限は廃止され、また鉱山安全訓練計画へ修正強制もできなくなった。

その他、本来的に危険な職業活動については、一般義務条項に定める使用者への罰則が制限される。これら職業には運動選手、エンターテインメント、ジャーナリズムなどがあり、映画のスタントマン、NASCARレーサーなども含まれる。労働省はこれら職業は常識でも危険とされ、罰則の適用は職業安全健康法の定める意図を超えるとしている。

提案の法制化には公聴会など通常のプロセスが取られるが、反対派は各産業にわたるこうした変更の積み重ねで労働者保護が多くが損なわれると主張するが、賛成派は荷重に過ぎた法律がもとに戻るとしている。
労働省は今回提案が他省庁に先駆けた先進的な法制緩和だと述べたが、チャベスデリマ–労働長官は「目的は高費用かつ手間ひまのかかる法律を改定し、規制緩和によりトランプ大統領が目指すアメリカの繁栄を取り戻すことにあり、成長を阻害する諸規制撤廃に先陣を切ることを誇りに思う」と言明した。

そのチャベスデリマー長官だが、共和党下院議員時代には労働組合強化のための労働組合結成権保護法案(PROアクト)の共同提案者であったが、昨年11月のオレゴン州選挙では落選。そうした背景もあり、トランプ大統領候補を支援したチームスター労組のオブライエン会長からの強い要請を受けて労働長官に指名された彼女には共和党議員から多くの反対があったが、民主党議員多数の賛成を得て任命に至った経緯がある。
任命に当たり同長官はPRO法案とは距離を置くことを約束して、トランプ政権の政策遂行を誓約した。(JILAF2025.03.20参照  No.806 https://www.jilaf.or.jp/news/20250318-5345/ 米国新労働長官にチャベスデリマー氏)

以上