ウクライナ労働組合連合(FTU)への弾圧と大規模な抗議行動
6月19日と6月24日、ウクライナの首都キーウで労働組合連合(FTU)が中心となり、大規模な集会が行われた。今ウクライナは戒厳令下にあり、全ての大衆行動、デモなどは禁止されている。それを無視して抗議行動が行われたことは、相当大きな問題が起こっていることに他ならない。
ウクライナにおける労働組合の弾圧
ウクライナでは最近特に労働組合への弾圧が目立ってきた。4月9日FTU会長グリゴリー・オソヴィーが拘束、その後自宅軟禁となった。(彼は6月30日で会長を退任することになった。)さらに6月5日首都キーウの労働組合会館が差し押さえられ、使用できなくなった。労働組合会館はナショナルセンターFTUの機能ばかりでなく、多くの産別組織も同居するまさに労働運動の中心的役割を担っている場所だが、警察と民間ガードマンが暴力的にこの場所を占拠し、役職員を追い出した。トライアングルITUC書記長は次のように述べた。「これはFTUの合法的活動をブロックしようとする明白に受け入れがたい試みである。ウクライナ政府はこれらの攻撃を即座に止め、労働組合権を尊重し、国内国際の義務にしたがって、労働組合活動の条件を再構築しなければならない。」(2025年6月7日ITUCニュース)
そしてついに6月19日キーウでの大規模抗議集会である。集会の参加者は、労働組合会館接収の責任官庁である資産捜査管理庁(APMA)に建物をFTUに6月24日までに返却せよと迫った。これが果たされない場合、さらに大規模な抗議行動を組織するだろうとした。ウクライナ戦争が始まって以来初めて大衆運動の広がりに火が付いた。資産捜査管理庁は建物の返還を行わず、6月25日さらに大きな集会が開催されることになった。
労働組合会館をめぐって
過去社会主義諸国では、労働組合ナショナルセンター本部の会館は首都の中でも最も良い位置を与えられた。例えば、モンゴルでは、国会議事堂のすぐ隣に労働組合会館はある。1980年代後半に始まる体制転換の中、これらの会館はそのまま労働組合ナショナルセンターに引き継がれた。アルメニアの労働組合会館のように近くの他の場所と交換した例はあっても、建物から組合を追い出すという話は旧社会主義諸国にあってもウクライナだけであろう。ウクライナの権力側の言い分は、「他の国営財産と同様、労働組合会館も国家の政策で建てられたものであり、国家に帰属する」というものである。ここでは労働組合の権利という社会権の考え方がすっぽり抜けている。さらに労働法も社会主義時代のものから、より自由化されたものにしようというイデオロギーが議会では跋扈しており、ウクライナ政府の政策として、反労働組合的な政策が推し進められてきた。2022年2月ロシアとの戦争が勃発し、ウクライナには戒厳令が敷かれ、労働組合の基本的な権利が停止された。労働組合側は「戒厳令の期間だけ」という条件で、労働組合基本権の大幅な制限を渋々受け入れた。例えば、「戒厳令の法的体制について」というウクライナ法に従って、戒厳令の期間、ウクライナ憲法の第43条、44条に従った市民的権利や自由は制限されることになった。戒厳令の法的体制が続く限り、権限ある機関は、平和的な集会、デモ行進、示威活動、その他大衆行動を禁止する権利を持つ。団体交渉権はほとんど無く、すべての職場の問題が使用者側の一存で決定できることになっている。ロシアとの戦争だから、「戒厳令の期間」は仕方が無いということでこれらを労働組合側は受け入れたのである。
しかし労働組合会館を取り上げようとする動きは戒厳令下であっても、止まらなかった。様々な法的闘争によってFTUは労働組合会館を守ってきたが、2023年ペチェルスキー地区裁判所が出した労働組合会館の管理は競売によって誰に譲渡されるかが決まるという判決により、資産捜査管理庁は着々と労働組合会館接収の手続きを果して行った。
5月13日資産捜査管理庁は、施設の接収と譲渡先を発表した。ところが思いがけない転換があった。FTU役員の説明によると、ペチェ―ルスク裁判所は、労働組合会館の接収に関する決定を取り消し、資産の譲渡も自動的に取り消されることになった。(インフォルマートル)これに焦った資産捜査管理庁は、6月5日の労働組合会館の接収に至ったわけである。
しかも「ウクライナ・プラウダ」(2025年6月4日)の調査によると、どうもこの資産捜査管理庁の2年間で11回行われた競売による譲渡先は、以前の副首相であるオリガ・ステファニーシナの離婚した夫と関係する会社であるらしいことが明らかとなった。これが事実であるとすれば。明らかな権力の乱用である。
二つの集会の参加者たち
インフォマートルの記事によると、労働組合活動家以外、集会参加者は軍服を着た退役軍人の姿が多かったという。ロシアとの戦争という中でこそ、国民の団結が試されよう。権力を握っている者たちが労働組合を攻撃し、労働組合会館を取り上げる動きに対する反対運動は、今後途方もない規模の運動となることも考えられる。通信労組の6月19日の集会に関する記事によると、「参加者達は労働組合会館の前で即席の集会を開始し、FTU副会長、全ウクライナ防衛者労組議長、製造業・起業家組合議長らが発言した。」「横断幕には、国民の財産手を引け、大統領よ、労働組合の声を聞け、軍人を尊敬せよとあった」と伝えている。ウクライナの労働組合の動きから眼が離せない。(I)
【参考】
以上