トランプ関税に望みを託すレイオフされた自動車労働者
4月15日のワシントン・ポストはトランプ大統領による25%の自動車関税を懸念して労働者をレイオフしたインディア州ココモ市のステランティス工場に働くUAW労働者を取り上げて、次のように報じた。
トランプ大統領の言う4月3日の「開放日」に数十カ国対象の関税が発表された1時間後、同工場のバトラーUAWローカル副委員長は370名の一時的レイオフ通知を受け取った。
クライスラー、ダッジ、ジープを生産するこのメーカーは「レイオフは自動車メーカーを激しく直撃するトランプ関税に対処するため」と説明した。
先週も同州3箇所の工場では新入社員を中心に退職者の打診が来ていたが、今回のレイオフは2週間で延長の可能性もあるされる。しかし昨年長期レイオフされた470名を考えると復職の困難性は高いと思われ、副委員長は「レイオフが関税絡みだとすると、2週間で解決できるとは思われない」と語る。
他方、多くの自動車労働者は「関税は世界市場における不公正さを正すものであり、仕事が戻ってくることを期待する」と述べており、レイオフされたある労働者も「トランプの貿易政策が多くの雇用を生むことを期待する。収入面では失業手当と会社保障で85%が確保できる。関税は望まないがよく分からない。良いことかもしれない」と述べる。
トランプ大統領はその後、対中国を含めた関税の一時停止を発表したが、輸入車と部品に対する25%の自動車関税が米国での生産を増やすか、価格上昇による消費減退を招くかを最初に示す産業が自動車になる。
関税については、選挙時にトランプ大統領と激しく対立したUAWフェイン会長も賛意を示し「関税は自動車労働者とブルーカラー産業全体にとって正しい方向性だ。UAWがトランプ政権に同調することは無いが、交渉は続ける」と表明した。減産状態にあり、生産回復の必要に迫られるココモ工場はフェイン会長の地元でもある。
レイオフされた労働者の多くがワシントンの政治家による自由貿易政策に不信を抱いており、特に1994年のNAFTA(北米自由貿易協定)が米国を衰退させたと考えている。その被害を受けたココモ市の人口は6万人、レイオフに続いてパパ・ママの家族企業も影響を受け、多くの大通りがなくなり中産階級は消滅、ファストフードの都と言われた賑わいも失われた。
ステランティス社はかつてクライスラーと呼ばれ、デトロイトビッグ3の一角を成していたが、その後のクライスラーとイタリアFIAT合併を経て2021年にフランス・プジョーとも合併、オランダ本社の多国籍企業として誕生した。コロナ災禍の際には部品企業の低迷で低価格車からの撤退を進めたが、その後も高金利による需要低迷があり、米国や中国など世界各地での売上減少に見舞われて2024年には70%の利益減、年末にCEOが突然の辞任を発表した。
今年1月に同社エルカン会長とトランプ大統領の会談があり、イリノイ州ベルビデア工場の再開とココモ工場における4シリンダー・ターボ・エンジンへの投資約束で、イタリアへの投資計画が変更され、1,000人の新規雇用が生まれることになった。
このココモ市は2009年の景気後退時にもGM破産による電子工場への影響から大きな打撃を受け、その後10年で15,000人のGM雇用が失われ、GM施設は廃虚と化して、市は世界4位のステランティスへの依存をますます深めることになった。
「ステランティスが良ければすべて良い」と言われる状況が生まれたが「悪ければ、全てストップ」ともなる。現在、レストランなどにシフト終了後の賑わいはあるが、従来ほどの活気はなく、レストラン店主は「レイオフの心配があり、関税が商売にどう影響するか分からない。どのニュースが本当なのか?悪くならないよう祈るばかりだ」と語る。
上記のUAWローカル副委員長のバトラー氏は「トランプ関税の最終目的には賛成するが、心配は政策による効果のスピードだ。誰が関税を負担するのか?それが自動車労働者にどう響くのか?メキシコやカナダの生産がこの穀物地帯に移転できるとは思われない。組合員に説明できる答えが必要だが、それが分からない」と語る。
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