2025年 ブラジルの労働事情(中南米チーム)
以下の情報は招へいプログラム「中南米チーム」参加者から提出された資料をもとに作成したものである。
参加者情報
- ブラジル中央統一労働組合(CUT)
- ブラジル一般労働組合(UGT)
- 労働組合の力(FS)
基本情報(外務省データ2025年8月26日更新分より)
人口:約2億1,200万人(2024年、世銀)
宗教:カトリック約57%、プロテスタント約27%、無宗教9%(ブラジル地理統計院、2022年)
政体:連邦共和制
主要産業:製造業、鉱業(鉄鉱石他)、農牧業(砂糖、オレンジ、コーヒー、大豆他)
GDP:2兆1,794億米ドル(2024年、世銀)
拡大消費者物価指数:+4.8%(2024年(12か月累積)、IMF)
1.はじめに
- 労働法制の概要
ブラジルには労働者権利保護の法律が存在し、代表例は1953年制定の「労働法統合(CLT)」。労働時間、休暇、最低賃金、退職権利などを規定する。 - 2017年の労働改革
CLTは2017年に改正され、企業や議員主導で「労働関係の柔軟化・近代化」を目的とした改革が実施。経済刺激や雇用創出を狙ったが、実質的には労働者や組合に大きな影響を与え、課題が残る。 - インフォーマル労働の増加
IBGEの2025年5月時点データでは、経済活動人口の約8%(約3,900万人)がインフォーマル労働に従事。名簿未登録で休暇・13か月給与・FGTS・給付などが欠如し、事故・疾病時のリスクが高い。例としてアプリ運転手170万人、配達員50万人以上が長時間労働に従事。 - PEJOTIZAÇÃO(ペジョティザソン、個人事業主化)の問題
従来のCLT契約労働者が解雇され、法人(Pessoa Jurídica、法人化された雇用形態)として再雇用されるケース。給与は同額でも給付はなく、清掃・収集作業員(GARI)などで適用。柔軟性と生産性向上を理由にされるが、労働の不安定化と格差拡大を招く。 - 影響と課題
企業側には柔軟性や規則明確化の利点がある一方、労働者側には不安定化や所得減少の懸念が強く、改革の影響は継続的な議論と分析が必要。(UGT)
2.労働事情について
直近に発生した(もしくは発生している)労働争議について
<CUT>
ブラジリア第7労働裁判所は、ブラジル銀行のIT業務アドバイザーに第7・第8時間の時間外労働50%割増支払いを認め、第10地域労働裁判所もこれを確認。訴訟はTSTに移行中。
<UGT>
2024年、病院清掃労働者80人以上が解雇され、退職金未払い。組合が労働検察庁に訴え、75万レアルが支払われ、60%が再雇用。
<FS>
ブラジル公共部門で団体交渉は課題。ILO第151号条約で権利は保障されるが、連邦・州・市で限定的。法規制の欠如が障害。第3,831号法案は2017年に拒否され、現在GTIが規制提案を作成中。交渉課題は給与、キャリア、福利厚生、労働条件。
労働法について
ブラジルは労働法制で危機に直面。2017年のCLT改正により労働権や組合組織が影響を受けた。
- 義務的組合費廃止で財政力低下
- 雇用契約終了時の認証を企業で可能に
- 「立法より交渉優先」導入
具体例:休暇柔軟化(年3回取得、時間貯蓄制度、断続的労働、合意解雇、裁判費用負担義務。(UGT)
社会保障制度について
ブラジルの社会保障は1998年と2019年に改革。
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- 退職最低年齢は女性62歳、男性65歳
- 最低拠出期間は女性15年、男性20年
- 三者構成で運営:政府・労働者・使用者が拠出
現在4,100万件以上の給付を支給、退職給付は約2,500万件(女性1,200万件)。医療はSUSが無料・普遍的に提供。
ルラ政権で年金補正法が制定されたが、UGTは最低給付引上げを求めるも国会で多数が反対。新たな改革は現行退職者に困難をもたらす可能性。(UGT)
3.その他特質事項
<FS>
ブラジル公共部門の労働組合は、ILO第151号・第190号条約の権利確立と批准に向け闘っている。中心課題は団体交渉の実効性、労働条件改善、メンタルヘルス対策。賃金だけでなく、労働環境の質向上やハラスメント防止、ジェンダー平等が重要であり、国家が安全で尊厳ある労働環境を推進するために規制や政策の整備が必要。国際労働組織との協力も不可欠。
<CUT>
- 経済状況
2023年以降、パンデミックや世界経済減速の影響から回復傾向。失業率は5.6%(2025年7月)まで低下したが、高い非正規率(約40%)、低賃金、雇用不安定化が継続。経済成長は金利上昇や国際貿易圧力(米関税、中国経済減速)に制約される。質の高い雇用創出には技術移行やグリーン経済への対応、職業再訓練が必要。 - 政治状況
2022年ルラ政権は社会的不平等削減、雇用評価の強化、産業振興、グリーン経済推進を重視。新産業ブラジル(NIB)やエネルギー移行プログラム(PTE)で持続可能な産業・雇用創出を目指す。政治は財政政策や外的圧力に制約されるが、労働組合や連合の社会的動員力が質の高い雇用維持に不可欠。ルラ政権は成長と雇用確保を正当性の柱としている。
