2018年 メキシコの労働事情

2018年7月19日 講演録

メキシコ労働組合連盟(CTM)
ブランカ ロシオ メディナ ロペス(Ms. Blanca Rocio Medina Lopez)

金属・鉄鋼・自動車部品工業労働組合 労働コンサルタント
ノエミ ガルベス フローレス(Ms. Noemi Galvez Flores)
食品・運輸・貿易関連労働組合連合 事務局長代理

労働者全国連合(UNT)
マリア デル カルメン グスマン サンチェス
(Ms. Maria Del Carmen Guzman Sanchez)

メキシコ航空パイロット労働組合連合 執行委員

 

1.基本情報

 面積は196万平方キロ、日本の約5倍である。人口は約1億2,920万人、政治体制は連邦共和制をとっている。
 経済成長率(実質)は、2014年が2.85%、2015年が3.27%、2016年が2.91%、2017年は2.04%となっている(IMF)。主要産業は食品、飲料、タバコ、薬品、鉄鋼、石油、鉱業、衣料品で、銀の産出量は世界一。輸出品目は、自動車および同部品 25.7%、電気・電子機器 18.5%、原油 11.3%で、輸出相手国はアメリカが圧倒的な位置を占めており 78.8%となっている。物価上昇率は、2014年が4.02%。2015年が2.72%、2016年が2.82%、2017年は6.04%(IMF)であった。また、一人当たりGDP(名目)は、2014年が約10,979米ドル、2015年が約9,666米ドル、2016年が約8,807米ドル(推計)、2017年は約9,304米ドル(推計)(IMF)である。
 失業率は2014年が4.51%、2015年が4.35%、2016年が3.88%、2017年は3.42%(メキシコ統計・地理院)。最低賃金は、日額で2014年が67.29ペソ(ゾーンA)、2015年が70.10ペソ(ゾーンA)、2016年が73.04ペソ(AとBに分かれていたゾーンは統合され、最低賃金は1つになった)、2017年が80.04ペソ、2018年が88.36ペソである。なお、2018年7月18日現在の換算レート「1米ドル=18.89ペソ」で換算すると、2014年が日額で約3.56米ドル、2018年は約4.68米ドルである。
 2018年7月1日に行われた大統領選挙では、国家再生運動(Morena)のアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(通称:AMLO)氏が当選し、制度的革命党(PRI)のエンリケ・ペニャニエト現大統領と交代することとなった。就任は12月1日、任期は6年。AMLO氏 は7月3日に行った記者会見で、2019年予算の編成については選挙公約を盛り込むとし、年金給付額の引き上げや、若者の教育、労働者の権利保護対策を取り入れるとも述べた。財源の確保については、高級官僚の給与カットおよび大統領の給与を半額以下とすることを表明した。
 労働者を束ねる主なナショナルセンターはメキシコ労働組合連盟(CTM)(組合員数約450万人)、労働者全国連合(UNT)(約200万人)の2組織である。

 

2.労働を取り巻く現状と課題

(1)2012年の労働法改正 - 破られた雇用安定の原則

 数十年振りに行われた2012年の大改正の主な改正点は雇用形態の拡大による雇用の柔軟化にある。これまでメキシコには法的には無期雇用しかなく、試用期間の設定も認められていなかったが、新たに季節雇用、試用期間・研修期間制度、時間給制度などが導入された。これにより雇用の安定という原則が破られることとなった。
 また、派遣契約の規定が見直され、労働者に対して責任を負うことなく労働者を使用できるメカニズムの確立に道を開いた。

(2)労働紛争解決制度の変革 - 注視続く改革の行方

 労働紛争解決のためには調停・仲裁委員会(Juntas de Conciliación y Arbitraje)を利用しなければならない旨が憲法に定められていたが、2016年4月に、調停・仲裁委員会に関する規定を含むメキシコ憲法107条及び123条の改正案が提出され、同年10月から11月にかけ、この改正案がメキシコ連邦国会の上院と下院で承認された。
 この改正により、調停・仲裁委員会が廃止され、すべてのプロセスを司法機関(労働に特化した裁判所)で審理することになるが、この改革は現在まだ準備中であり、現時点では以下のとおり提案されている。

  • 連邦司法機関または地方の司法機関が労働に関する司法分野を担当する。
  • 以下の権限を持った分権的な組織を設立する:労働協約の登録、労働組合の登録、管理のプロセス、連邦命令による斡旋の機能

 なお、この改革に対する労働組合の評価は分かれており、CTMは従来通りの三者構成の制度を維持すべきだと考えている。他方、UNTはこれまでの制度は労働省の管理下にあり政府からの独立が担保されていなかったのに比べて前進であると評価している。但し、今後整備される施行細則を含む法律の内容を監視していく必要があると考えている。

(3)インフォーマル労働の課題 - 考慮されるべき社会保障制度

 メキシコ国立統計庁によると、労働人口5,200万人強(62%が男性で38%が女性)のうち、インフォーマルセクターで働く労働者は28%にのぼっており、その大半が女性である。また、男女間の賃金格差は20%であるが、女性の多くがインフォーマルセクターで働いていることが大きく影響していると考えられている。
 また、インフォーマル労働者は社会保障の網からこぼれおちてしまっており、CTMは、インフォーマル分野の就労者のための社会保障制度についても考察する必要があると考えている。さらには、雇用のフォーマル化を促進するための協定を、政府、自治体、経営者団体、労働組合、社会組織が締結することができるようにしたいと考えており、そのための活動を行っている。

(4)労働組合の新規結成をめぐる問題 - 困難を極める新潮流の労働組合結成

 メキシコでは(20世紀初頭に設立された)既存のナショナルセンターや労働組合は政府の保護のもとに政府寄りの運営に傾く傾向がある。そうした伝統のもとで、労働者組織化プロセスが不透明であることや汚職など、多くの問題が発生している。他方、新しいイデオロギーの潮流を受けたナショナルセンターや労働組合の結成には大きな困難が伴う状況となっている。それは、経営者が独立した民主的な労働組合の存在に反対し、経営側が保護する労働組合を守ろうとするためで、新しい労働組合の結成を実現することは非常に難しい。そうした状況について、UNTは現在ILOに提訴をしている。