2021年 ベトナムの労働事情

2021年12月12日 報告

 国際労働財団(JILAF)では、新型コロナウイルス禍で、2021年11月29日~12月12日にベトナム・モンゴルチームの招へいをオンラインで実施した。そこでベトナムの参加者から報告された「ベトナムの労働事情」および同提出関連資料に基づき、概要をまとめた。

基本情報

 ベトナムはインドシナ半島の東部にあって、南シナ海に面している。その広さは約33万平方キロ(日本の約9割の面積)あり、南北に1650キロに及ぶ細長い国土である。北は中華人民共和国、西はラオス、南西はカンボジアと国境を接している。人口は約9762万人、構成する民族は、キン族(ベトナム人)が約86%を占め、他に53の少数民族がいる。言語はベトナム語。宗教は仏教、カソリック、カオダイ教などがあり、憲法上は信教の自由を認めているが、現実には政府の強力な規制の下におかれている。政治体制は社会主義共和制である。古くは漢・唐の時代に中国の支配を受け、近代にあっては19世紀後半にフランスの植民地となり、第二次世界大戦中は日本の進駐を受け、第一次インドシナ戦争(1946年12月)で南北に分裂、第二次インドシナ戦争(ベトナム戦争)の終結で、1976年統一国家が誕生し今日に至っている。社会主義国ではあるが、1986年には市場経済システムの導入と対外開放化を柱とするドイモイ(刷新)路線を継続、構造改革や国際競争力強化に取り組んでいる。主な産業は、農林水産業(GDPに占める割合14.85%)、鉱工業・建築業(同33.72%)、サービス産業(同41.63%)となっている。2020年の経済指標は次の通りである。GDP約3406億米ドル、1人当たりGDP3498米ドル、経済成長率(年平均)2.91%、物価上昇率(年平均)3.23%、失業率2.26%(都市部3.61%、農村部1.59%) マクロ経済安定化の取組みにより、近年はASEAN域内でトップクラスの成長率を達成している。
 労働情勢だが、ベトナム労働総同盟(VGCL)が唯一のナショナルセンターと位置づけられている。組織組合員数は約1180万人(2020年5月)である。社会主義国ではあるが例外的に労働法にストライキが規定されている。しかし手続きが煩雑なことから、合法的なストライキはほとんどないと言われている。

◇ナショナルセンター(VGCL)からの報告

1.労働事情全般

悪化する労働指標-暗い影を落としたコロナ感染

 ベトナムにおける2021年1~9ヵ月における労働力人口(15歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口)は、5040万人で前年同期比25万人の減少となっている。労働力率(15歳以上人口に占める労働力人口の割合)も67.6%で前年同期比で減少している。15歳以上の就業人口は4900万人で、これも前年同期比38万8200人減少している。このうち、工業・建設業とサービス業の就業人口は、それぞれ1610万人、1880万人で、両方とも前年同期比で減少している。また、非労働力人口(15歳以上人口のうち、就業しておらず、就業の意思もない者)が130万人以上で、前年同期比18万7200人増加した。失業者数は130万人を超え、前年同期比12万6500人増加した。失業率は2.99%で、前年同期比0.35ポイント上昇となった。都市部の失業率は4.02%と農村部よりも高い。若年の失業率(15歳~24歳)は7.90%で、前年同期比で増加となっている。中では、都市部の若年の失業率が10.79%と、前年同期比で高い増加の傾向を示した。さらに、国全体の非正規労働者は56.4%で。前年同期比0.4ポイント上昇しているが、これも悪化現象を表しているといえる。以上のように労働指標は軒並み悪化となっている。つい最近まで経済成長と相まって、労働力人口が増加傾向にあったことからすれば、コロナ感染の影響が暗い影を落とした影響は計り知れない。なお、こうした一方で、農林水産業の就業人口が1410万人で、前年同期比33万2900人の増加であった。ロックダウンなどにより都市部の労働力が里帰り・農村部へ移動した現象とみられる。

2.労働紛争の現状

新労働法で複数労働組合が容認される-課題はストライキ規定への低い認識

 2019年労働法が制定され、2021年1月より施行された。改正点は色々あるが、中では、企業における労働者代表組織の章が新設され、従来の労働組合とは異なる労働者組織を企業レベルに設立することが認められた。背景にはTPP交渉(複数労組の容認)などがあってのことである。労働運動も切磋琢磨していく状況が訪れたということで前向きに捉えている。労働紛争の解決に関する規定は、改正前から盛り込まれていたが、その内容は1つの章(第XIV章)と、その中に5つの節と32の条項で構成されている。5つの節とは、1節は労働紛争の解決に関する総則、2節は個別労働紛争の解決の権限と手順、3節は権利をめぐる集団的労使紛争を解決する権限と手順、4節は利益をめぐる集団的労使紛争を解決する権限と手順、そして5節はストライキ、となっている。法の本則とは別に、政省令や規則の変化も重要である。改正前のストライキ実施は煩雑な手続きが求められたため、ほとんどが違法ストライキであったが、新労働法を契機にストライキ実施へのプロセスが柔軟化されたことで、VGCLとしての指導もしやすくなるものと期待される。とはいえ、制定から約2年足らずであり、特にストライキに関する規定の労働者の認識は低く、新労働法や労働組合への認識を高めることが当面の課題となっている。

減少する労働紛争-VGCLをはじめとする労働組合の役割遂行が実を結ぶ

 2018年から2020年までの3年間で、労働紛争と集団退職の数は、初めの頃(2018年)と比べほぼ半減した。具体的には、2018年が208件、2019年が119件、2020年が125件となっている。2020年には、裁判所が第一審手続きに従って受け入れ、可決しなければならなかった労働事件は2395件で、主に懲戒処分、解雇、労働契約の一方的打ち切りをめぐる紛争であった。このように、労働紛争の減少は、ベトナムの労働組合の役割遂行が実を結んだ賜物と認識できる。労働組合は、引き続きバランスの取れた安定した進歩的な労使関係の構築にその役目を果たし、様々なレベルでスタッフによる組合員や労働者の要望や思いを吸い上げる活動を行いつつ、対話活動を強化し、使用者が法律の規定を厳守するよう働きかけを強める。ただ注意すべきは、和解仲介者のなかには個別労働関係紛争の調停活動ばかりに注力しがちな面がある。そうした面々は、専門性が高くなく経験する案件も少ない中(年平均60~70件)で、個別の労働紛争の解決にのみ焦点を当てがちで、なかなか集団的労使紛争解決の担い手になりえていない。

3.労働紛争の原因

紛争の発端は3者(労働者、使用者、行政)それぞれに-労働側の原因は賃金と収入問題

 労働紛争の発端となる主な原因は3者ともに持っており、時にストライキなどを招く事態になったりもする。まず、労働者側に原因があるケースは次のような場合である。この背景に、先にも触れたが、労働者の労働法や労働組合への認識の低さがあることは否めない。法の規定や労働組合の役割の認識不足が容易に業務停止やストライキにつながる恐れがある。低所得や低賃金、重労働、仕事と生活上の重圧などのために、労働者は容易に激昂し、紛争の火種を大きくしがちである。現在、集団的な業務停止やストライキの主な原因は、大部分が労働者の賃金や収入に関連している。使用者側にも原因はある。企業別組合の設立、組合員の育成、組合の組織活動に対し、使用者側が便宜供与をしないことが紛争を誘引している。この他にも、組合活動への不当な干渉や、使用者による労働法違反、労働者に対する無関心や理解不足、労働者の権利と利益に関する制度や政策についての公正性と透明性の欠如、言語の壁や誤訳による意思疎通の欠如(時には労働者を暴行・侮辱するケースなどもある)などから、紛争に発展することがある。行政側に原因を求めるとすれば、それは給与政策、特にあらゆる形態の企業における労働者の最低賃金が不十分であることへの不満からである。また、企業数に比べ、労働監督官が圧倒的に少ないため、税金、社会保険、健康保険などの法律違反を行う企業チェック、監査、処分の不十分さに起因することもある。

4.紛争における労使互いの要求と解決プロセス

紛争時には労使双方がそれぞれに主張-労働組合の要求は就業権確保・給与などの保証

 平常時でも労組合は様々な要求を掲げて、様々な労働条件改善に取り組んでいる。それは、賃金、雇用、安全衛生、労働時間、男女平等などなど多岐にわたるものである。もちろん使用者側も生産性向上や残業時間の延長、労働規律の強化などを求め交渉が展開される。一方、紛争時の要求だが、主に労働者の権利を求める内容が主軸である。すなわち、労働者の就業権の確保であり、理由の如何によらず使用者は業務の停止や労働契約の解除をしてはならないこと、給与と福利厚生の保証、さらには労働者および労働者の代表組織が法律に従ってストライキの権利を行使することを許可し便宜を供与すること、などである。当然使用者側もカウンター要求を主張する。それは、労働紛争が解決されている間、従業員が与えられた業務や労働規律にコミットすること、労働紛争解決プロセスに関与する当事者の結論を厳格に実施すること、などである。

紛争解決のプロセスには様々なオプションがある-長期的紛争抑止に有効な裁判

 労働紛争を解決するため、労働組合幹部はいくつかのオプションを持っている。1つは、労働者の意見収集を図り、これを使用者に提案すること。2つには、上層組合に介入と支援を要請すること。3つには、管轄の労働機関に介入を要請すること。4つには、使用者に対し裁判を起こすこと。そして5つには、ストライキの実施に関する手続きを進めること、などである。これらのオプションを1つあるいは同時に複数を選択し、解決プロセスを歩むことになる。具体的には、当事者間での解決ができない場合、上記した通り、上層組合の調停や、労働機関による仲裁評議会の決議に委ねることになる。しかしそれでも解決が困難な場合、労働組合は裁判によるオプションの選択を図ることがある。裁判所の判決又は決定による労働紛争の解決は、法的効力を有し、判決執行機関により執行が保証される。つまり、当事者が従わない場合、裁定の内容が強制的に執行されることになる。これは、労働紛争の解決効率を高め、長期的な紛争抑止にもつながる方法である。

5.新型コロナ感染症防止への取り組み

コロナ感染最前線でVGCLかく闘えり!-労働者の生活を守るため政府と共に対策

 新型コロナウィルスのパンデミックはほとんどの企業の生産と事業活動に悪影響をおよぼし、労働者の生活と仕事にも大きな影響を与えた。この困難な時期にVGCLは常に政府と共に歩み、各レベルの組合を指導し、対策に奔走してきた。具体的な対策は次の通りである。①(コロナ対策として)社会保障の確保のために必要な制度・政策の整備への積極的な参加、②企業との対話・交渉の強化、③新型コロナウィルス対策の影響を受けた組合員の支援・フォロー活動の推進、④感染予防の目的で実施される「3つの現場」(現場での生産、現場での食事、現場での休憩・宿泊)・「1つのルート・2つのスポット」体制(1つのルートのみを通って労働者を宿泊施設から生産現場に輸送)に従って働く労働者のための食事支援、⑤サプライチェーンの寸断がないよう努める、⑥労働者が田舎から職場への安全な早期復帰および収入・所得の確保や生活安定を支援し、社会的秩序・安全保障を保つ、⑦隔離された工場作業員のための無料の食事支援、⑧優遇融資を受けられる組合のマイクロファイナンス基金を導入、⑨米を無料で配るATMの設置、⑩「ゼロドン市場(0円市場)」の開催、⑩コロナ禍の中、組合員、労働者の困難さの部分的な解決策としての家賃(家主を説得しての)、水道光熱費の免除・削減を求め、⑪政府に協力して、労働者のワクチン購入に資金を寄付すると同時に、事業主にも作業員のワクチン購入のための予算配分などを呼びかける、などがそれである。こうした対策実現に、組合幹部、組合員、労働者は、仲間・同僚・同胞のために労力を惜しまず取り組んできている。多くの組合幹部は、昼夜を問わず、企業と労働者と共に喜び苦しみを分かち合い、困難を共有しながら、感染の最前線に立ってかく闘ってきたのである。VGCLはこの間実施してきた効果的な連携や貢献により、首相から高く評価され、その功績が表彰されたところである。