2020年 ベトナムの労働事情

2020年12月18日 報告

 国際労働財団(JILAF)では、ユース非英語圏チームとしてベトナム労働総同盟役員を招へいし、労働を取り巻く最新情報の共有や日本の労働組合の特徴、生産性運動や雇用安定の取り組みなどについて学ぶためのプログラムを用意した。しかし、新型コロナウイルス禍の影響により来日交流が困難となり、「オンラインプログラム」による取り組みとなったため、従来の「海外の労働事情を聴く会」も開催が不可能となった。今回は、ナショナルセンター・参加者から提出された資料を基に、昨年実施されたラオス・ベトナムチームによる「海外の労働事情を聴く会」と外務省、JETRO、JILAFの資料を参考にまとめたものである。

ナショナルセンター ベトナム労働総同盟(VGCL)

ホアン ティ ヴァン アン(Ms.Hoang Thi Van Anh)
ベトナム労働総同盟本部 女性総合局部員

ラム ヴァン ロイ(Mr.Lam Van Loi)
ベトナム労働総同盟本部 総務局IT部部長

ファン ヴァン トゥング(Mr.Pham Van Tung)
ベトナム労働総同盟本部 広報・教育局部員

トォー ティ リン(Ms.To Thi Ling)
ベトナム労働総同盟本部 労使関係局労働安全衛生部部員

ヴゥ ティ ロアン(Ms.Vu Thi Loan)
ベトナム労働総同盟本部 中央執行委員兼経済政策局次長

 

1.労働情勢(全般)

  2018年 2019年 2020年
実質GDP総額
(出典元)
2,452億米ドル
(ベトナム統計局)
GSO
2,624億米ドル
(ベトナム統計局)
GSO
2,680億米ドル
(ベトナム統計局)
GSO
物価上昇率(%)
(出典元)
3.54
(GSO)
2.79
(GSO)
3.85(9か月間)
(GSO)
最低賃金
(時間額・日額・月額)
(出典元)
時間(     )
日額(     )
月額(VND3,980,000)
(法令141/2017NDCP)
時間(     )
日額(     )
月額(VND4,180,000)
(法令157/2018NDCP)
時間(     )
日額(     )
月額(VND4,420,000)
(法令90/2019NDCP)
労使紛争件数
(出典元)
214
VGCL
121
VGCL
該当なし
失業率(%)
(出典元)
1.89
(GSO)
1.98
(GSO)
2.73(第2四半期)
(GSO)
法定労働時間
(出典元)
8時間/日
(各労使で協議)



2019年労働法
48時間/週
雇用主には週40時間労働の適用を奨励

2019年労働法
時間外/割増率
平日は150%以上
週休は200%以上


2019年労働法
休日/割増率
休日と有給休暇は300%以上
(日給制従業員の有給休暇は除く)
2019年労働法

通貨名:VND(ベトナムドン)23,000=約1米ドル(2020年12月現在)

2.基本情報

 ベトナム社会主義共和国は東南アジアのインドシナ半島東部に位置し、国の形状は日本の本州と似ている。国土は約33万平方キロメートルで日本の約0.88倍である。人口は約9600万人で首都はハノイにあり、公用語はベトナム語で少数民族語も使用されている。宗教は主に仏教でカトリック,カオダイ教の信者も存在している。中国・フランス・日本との関係が深く、中国とフランスからの独立を経て1945年ベトナム民主共和国として独立宣言を行った。その後、内戦による南北分裂やベトナム戦争、中越戦争など幾多の戦乱を経てドイモイ政策を打ち出した。この政策と、日本の経済的支援やアメリカとの国交正常化によって経済的な発展を遂げ、その後ASEAN議長国、APEC議長国となるなど国際社会の中での地位も確立した。
 主要産業は、鉱工業・サービス業・農林水産業となっており、特に沿岸部での石油やLNG等のエネルギー関連産業の発展は目覚しく、近年は外資の進出も盛んで経済成長率も7%台を維持している。貿易総額は輸出、輸入とも10%以上増加を続け貿易黒字国となっている。
 最低賃金は年々上昇しており、一人当たりの名目GDPも2700ドルを超え、昨年制定された新しい労働法により社会保障の面からも大きな前進がはかられた。法定労働時間については、一日8時間、週48時間となっているが、一般労働者と公務員では異なっている。
 ナショナルセンターはベトナム労働総同盟(VGCL)が唯一で、組合員総数は約1200万人、63の地方組織と20の産業別組織(公務員・保険・工業・商業など)を有し、傘下の組合総数は125000を超える。

3.労働法制・社会保障の特徴

1)労働法制 2019年労働法、法令、通達、訓令

 2019年11月20日ベトナム労働法が公布され、2021年1月1日施行予定となっている。ベトナムの労働法制は幾度も改正されており、従来の労働法と比較して新しい労働法には次の事項が反映されている。

  1. ①労使関係にある労働者以外にも同法の適用範囲を拡大、とりわけ労働契約を結んでいることに加え ⅰ職を有し ⅱ給与を受け ⅲ雇用主の監督下で勤務している という3つの要素を満たす者はすべて、契約の名称及び形式を問わず新しい労働法の適用を受ける被雇用者とみなされる。
  2. ②電子取引法に基づくデータメッセージ形式での電子労働契約の容認
  3. ③2種類の労働契約のみ(労働期間36カ月以内の有期労働契約または無期労働契約)
  4. ④男女ともに労働者の定年年齢を引き上げることで男女間の定年年齢の格差を縮小
    (定年年齢を男性62歳、女性60歳に延長、現在は男性60歳、女性55歳)
  5. ⑤公休日を1日追加

2)社会保障制度

 ベトナムでは、社会保険・健康保険・失業保険の3種類の社会保障制度への加入が義務化されている。ベトナムの社会保険は、雇用主と被雇用者の両者の最低負担金、また福利厚生(病気休暇、出産休暇、労災、職業性疾患手当、年金手当、死亡手当)が要点となっている。

ベトナムの社会保険料率
保険の種類 雇用主の拠出割合 被雇用者の拠出割合 合計
社会保険 17.5% 8% 25.5%
健康保険 3% 1.5% 4.5%
失業保険 1% 1% 2%
合計 21.5% 10.5% 32%

4.非正規労働者など不安定雇用の問題やインフォーマルセクター労働者の現状

 ベトナムでは非正規労働者やインフォーマルセクター労働者が一般的であり、労働人口の60%以上を占めている。このような労働者の多くは社会保険の加入資格がなく、労働法の対象外とされていた。しかし2019年に改正された新しい労働法が2021年1月から施行されることに伴い、現在はインフォーマルセクター労働者として扱われている人々の多くが新しい労働法の対象者となる。

5.ナショナルセンター、労働組合として直面している課題や多国籍企業の動向

 労働組合が直面している主な課題は、
・団体交渉の経験や能力不足、
・外資系企業(FDIセクター)における雇用主の意図的な労働法違反
  過去3年間で発生したストライキの過半数は外資系企業(FDIセクター)で、71%~85%にものぼっている。これらは、低賃金、長い所定労働時価、雇用主のあらゆる法律違反がその原因で、労働集約型産業に集中している。

(1) 権利に基づく労使紛争

 ストライキの主な原因として、あらゆる状況で週給・月給の支払い遅延、労使協議なしで雇用主が一方的に課す高い労働ノルマ、長時間労働、規定を無視した時間外手当、チェックオフされている医療保険料や社会保険料が所管官庁への納付遅延や不履行、法定休暇や休暇期間違反などがあげられる。

(2) 利益に基づく労使紛争

 各種賞与・賃金の引上げ、社員食堂の質と価格、手当の格差、低条件の労働環境、不十分な衛生施設などが紛争の原因となっている。また、経営者や上司による不適切な言動などのハラスメントが原因でストライキに発展するケースも多い。