2013年 ベトナムの労働事情

2013年5月24日 講演録

ベトナム労働総同盟(VGCL)
Ms. チャン ティ アイ ニャン
Ms. Tran Thi Ai Nhan
キエンザン省労働連盟会長

Mr. ボ バン カイン
Mr. Vo Van Khanh

VGCL アンザン省労働連盟会長

 

1. VGCLの概況と活動――労使協議による職場の環境改善

 今日のベトナムの総人口は約8620万人で、そのうち都市部の人口が占める割合は28%、農村部が72%である。労働人口は約4500万人で、国営企業などを含む公共部門で約420万人、私企業などの民間部門で約3920万人、外資系企業で約190万人が働いている。
 ベトナム労働総同盟(VGCL)は、1929年7月28日に設立されたベトナム唯一のナショナルセンターで、組合員数は794万5011人、11万4276の単組から成り立っている。
 組織体制は、4つのレベルで構成されている。頂点にナショナルセンターであるVGCL、第2レベルは中央レベルの国営主要基幹である産業別組織が20と、地方連盟が63。第3レベルは工業団地や輸出加工区などにおける労働組合で、主要基幹産業を除く一般企業において組織されている労働組合である。第4レベルは単組である。これは企業の他に学校など、さまざまな組織・団体で組織されている。
 VGCLの大会は、最高議決機関として5年ごとに開かれ、今年7月には第11回大会が開かれる予定である。
 現在VGCLは、労働組合の組織改革という問題に直面しており、とりわけ単組レベルの組織改革が急務となっている。VGCLは組織の改革などを通じて、組合員および労働者全体の労働環境の向上を図り、より質の高い活動を展開していくことを目標としている。
 具体的には、単組レベルの組織、活動を改革・刷新し、組織の質的な向上をめざし、現場レベルで働く組合員および労働者が、職場レベルにおける労働環境や労使関係の改善のため、以下の取り組みを行なっている。

  1. 労使間協議の促進
    労働者や組合員の労働環境の改善を図るため、労使間の協議を安定的に進めると共に、地域、コミュニティー、地方政府との対話も行なう。賃金の改善も当然のことながら、企業が所有している株、証券を組合員や労働者も購入できるような環境を促進する。また、年に一度行なわれる労働者大会を通じて、より良い労働協約の締結に結びつけていく。
  2. 新規組合員の獲得
    新規組合員を獲得し、今期中に組合員数150万人を組織化し、国内の労働組合組織率を70%に引き上げる。同時に、個々の企業の労働協約締結率も70%に引き上げることをめざしている。
  3. 労働災害の削減
    労働災害を減少させるための国家的なプログラムとして、各事業体、企業における労働安全衛生に関わるさまざまな啓発・教育活動を展開している。この取り組みによって、労働安全衛生のためのセーフティネットを広め、全国レベルで労働安全衛生の研究を促進していく。
  4. 技能向上のための職業訓練
    労働者の技能向上のため、労働者の70%に職業訓練を受けさせることを目標にしている。

2. 労働者が直面する課題とその対応策――労働争議の原因と改善策

 市場経済化が進展する中、以下の大変困難な課題に直面している。

  1. 所得格差・教育格差
    地域間、都市と農村の所得格差・教育格差が年々拡大している。
  2. 公共のサービスを享受できない人の拡大
  3. 道徳観、倫理観の低下
    さまざまな社会不安を引き起こしている。
  4. 労働移民問題
    農村から都市に移動する農民の数が大幅に増大しており、そのほとんどの生活は改善されていない。こうした社会課題から、労働問題も複雑さを帯び、労働争議の件数も増加している。

 労働争議の主な原因は、使用者側が法律を遵守せず、違反することから、労働者の不満が爆発することである。給料が低いにもかかわらず、長時間労働で、福利厚生の環境がまったく整っていない現状がある。
 以上のように、VGCLにとって解決すべき課題は多く、これらの問題を解決するために、労働者の労働環境を改善するような政策提言に積極的に関わっていくことが必要だと考えている。最近の成果のひとつとして、『改正労働法』を2012年に施行したことが挙げられる。これにより、以前より労働環境の改善が図られた。
 今後は、[1]安定的な労使関係の維持向上と強化[2]労働協約の内容充実[3]労働者に対する職業訓練の拡充[4]教育啓発の拡大――などが課題となっている。
 教育啓発の取り組みでは、使用者側へ要求するだけでなく、労働者自身がバランスを持った業務遂行意識の醸成を図っていく。
 使用者に対しては、法律を遵守して、労働者の労働環境を守りつつ、経営を行なっていくよう働きかけていかなければならない。