2015年 インドネシアの労働事情
インドネシア労働組合総連合(CITU)
スヘルマン
ホノリス・インダストリー労働組合委員長兼インドネシア金属労働者連盟(FSPMI)社会保障担当
アンワール・サヌシ
ジェンボ・ケーブル・インダストリー労働組合委員長兼インドネシア金属労働者連盟(FSPMI)タンゲラン支部電機部会書記長
ペギー・パトリシア・ヌーラディ
パレフ観光・ホテル労働組合書記長兼CITU中央執行委員
マスラル・ザムバク
アレキシンド労働組合委員長兼インドネシア金属労働者連盟(FSPMI)ブカシ支部鉄鋼部会長
ラミディ
全国労働組合(SPN)書記長
インドネシアの人口は、2億6000万人で、世界最大のイスラム教徒を抱えている。1万3000ほどの島からなり、そのうち6000ほどが有人の島となっている。いろいろな民族、種族からなり、異なる言語が約250もある。労働組合の全国組織は産業別のレベルで92組織ある。また、労働者数全体に占める労働組合の組織率は8%にすぎない。しかしインドネシアはILO条約の第87号(結社の自由及び団結権保護条約)、第98号(団結権及び団体交渉権条約)を始め中核的労働基準8つをすでに批准している。
インドネシアにはナショナルセンターが3つあり、我々のCITUのほか、KSPSIとKSBSIがある。
CITUは2003年に結成され、2007年に第2回、2012年には第3回の大会を開いている。構成組織は、薬品、観光、小売、化学・鉱業、金属、印刷・出版、セメント、教育、そして被服・皮靴の9産別で、組合員は合計173万8251人である。
インドネシアのGDPは、2014年の世界銀行によると、世界のベスト20の中で第10位という位置にある。また、インドネシアに対する投資も増加傾向にあり、2010年から2014年の間には約3倍のペースで増加している。ビジネスの面で非常に有望な国とされており、日本からの投資有望先の調査では、2013年に中国、インドを抜いて第一位になっている。
しかし、我々労働者からするといろいろな問題を抱えている。第一は、賃金が非常に低いことである。例えばインドネシアに投資している企業の国と比較した場合、インドネシアの賃金レベルは非常に低い。2つ目は、いわゆる契約労働者、あるいは派遣労働者の問題である。現在、労働者の7割が非正規雇用となっている。3つ目には社会保障が不十分で、健康保障や年金の保障が、いまだに充分な形で実施されていないことである。そこでCITUは2011年以来、この3つの課題を闘争のテーマとして掲げて運動を展開してきた。
そのひとつが、CITUが掲げる「HOSTUM」というスローガンのもとで、派遣労働の廃止と、低賃金の拒否に取り組んでいる。ここで1番に挙げているのが低賃金を拒否するということである。そのための具体的な取り組みとして、最低賃金を決めるための適正生活水準値(KHL)の採用品目を増やすことを要求している。このKHLを出すためにはいくつかの品目について価格を調査するが、その品目が2012年以前は46品目しかなかったが、2012年以降に60品目となり、現在は84品目まで増えている。今後さらに、122品目まで増やしていくべきであると考えている。
そしてもう一つが、適正な賃金水準の設定とセクター別の賃金設定である。法律では、産業別に最低賃金を定めることになっているが、地方によってはセクター別の賃金を設定していないところもある。現在、最低賃金は毎年1回の見直しがされているが、政府側は、5年に1回にしたいとしているが、この政府法案に対してCITUと、多くの労働者が反対運動をしているところである。
2番目にはアウトソーシング、違法な派遣労働の根絶廃止である。インドネシアでは、派遣労働者の区分は大きく2つに分かれおり、ひとつは業務そのもののアウトソーシング(外部委託)で、もうひとつは、労働力を外部から調達することである。実際に問題となっているのは、労働力の外部調達の方である。
労働力の外部調達は、法律で5つの業種に限られている。1つはセキュリティーなどの警備業、2つ目はケータリング業、3番目がドライバー、4番目が清掃サービス、5つ目に鉱業部門の労働者と定められている。しかし、現状は生産部門の製造ラインや、中核業務に派遣労働者が非常に多く使われている。これがCITUにとって、非常に大きな問題である。
3番目は、社会保障を求める闘いである。インドネシアの社会保障制度は、2004年の『法律第40号』で定められた、国民社会保障システム(SJSN)である。しかし実際に施行されたのは2012年で、社会保障実施機関(BPJS)が新設されてからのスタートとなった。その内容は2つあり、1つが医療あるいは保健分野を扱うBPJS、もうひとつが労働分野を扱うBPJSである。労働分野を扱うBPJSは、老齢保障、死亡保障、労災保障、そして年金の4つがある。いまCITUが問題視しているのは健康保障と年金の2つである。
健康保障はすでに実施されているが、実際には多くの問題がある。一方、年金制度は今年2015年7月からスタートするとことになっているが、実際には今日時点で、保険料と実際に受け取れる年金の額などで合意ができていない。
CITUでは、いろいろな取り組みをする上で、闘争のための戦略として、「KLA」という言い方でまとまって行動している。Kというのは英語のコンセプトと同じで、いろいろな活動計画を立てたり、ワークショップを開催したり、さまざまな活動戦略をつくっていくことである。Lはロビー活動のことで、さまざまな利害関係者、例えば国会議員や、政党、政府関係者などの人たちと議論を重ねていくことである。また、新聞、ラジオ、テレビなどのマスメディアに対してもアプローチしている。以上のコンセプトやロビー活動で成果が得られない場合には、最後のAであるアクションで、初めて行動に移すことになる。実際の行動例としては、社会からの支持を得るためのデモ行進やキャンペーン活動を行うとともに、政府機関、大統領官邸、国会議事堂に対する要請行動も行っている。
それらに劣らず重要な行動がストライキである。地域ストライキや、全国的なストライキが非常に大切だと捉えている。実際のところ、3番目の行動は、効果も絶大なものがあると考えている。例えば低賃金問題、派遣労働の問題、社会保障に関する問題など、これらに対してストライキで行動することは非常に効果的であると考えている。
次に闘争の成果として、最低賃金の改善がある。2012年から2013年の比較では地域別に違いがあるが、上昇率は43%~58%と高い引き上げを実現している。なぜこうした賃金上昇率をかち取ることができたのかというと、実は2012年に全国的なストライキを行っていることである。また、工業地域でも、地方レベルでもストライキが行われた。
そして2番目に、2014年の最低賃金では、最低生活水準値(KHL)の計算根拠として84品目を採用して(法律は未制定)調査を行い、その結果を最低賃金の決定に反映させたことが大きい。2012年に43%~58%に引き上げた時の60品目のままでは、それ以上の上昇が見込めなかった。この2014年の闘いでは、2回全国的なストライキを実施した。
2番目のアウトソーシング・派遣労働については、法律で定められている5業種のみが対象であったにもかかわらず、多くの企業がそれを守らなかった。その実態を見て、政府は新たに2012年の『大臣令第19号』を発令し、改めて5つの業種に限ることが定められた。これは1つの成果であったが、その成果は、CITUが行った闘争「工場を取り囲め」の結果といえる。違法な派遣労働が行われた場合は、自分の所属していない工場でなくても放っておかないという闘争を行った。こうした連帯意識に基づいた行動の成果として、工場がたくさんあるブカシ地域だけでも、4万人の労働者が派遣労働から正規労働に変わり、正規ではない場合でも、きちんとした雇用契約に基づいた身分に改善することができた。そのほかの地域も含めれば、6万人ほどの労働者の待遇改善が実現している。
3番目の社会保障に関する闘争の成果は、ひとつ目に、健康保障に関して、大統領が健康保険と健康保険料補助対象者に関する法律を発効させたことである。これは貧しい人に対して、政府が一定額を補助する制度である。金額は、1人1カ月当たり2万2000ルピア(約202円)となり、これは期待した額よりかなり少ないが、具体的な成果となった。
*1ルピア=0.0092円(2015年8月6日現在)