2021年 パキスタンの労働事情

2021年11月26日 報告

 国際労働財団(JILAF)ではパキスタン労働組合役員を招へいし、労働を取り巻く最新情報の共有や日本の労働組合の特徴、労使関係と生産性運動、労使紛争未然防止の取り組み等について学ぶためのプログラムを準備した。しかし、新型コロナウイルスの影響により来日交流が困難となり、「オンラインプログラム」による取り組みとなった。以下は、参加者提出の資料のほか、「労働事情を聴く会」や参加者との意見交換を基に、外務省、JETRO、JILAFの資料を参考にまとめたものである。

パキスタン労働者連盟(PWF)

マリク アディラ サリーム(Marlik Adeela Saleem)
マズドア・エスタッドユニオン 組合員
アジーズ アーメッド  (Aziz Ahmed)
クエッタ電機供給労働組合 調査局員
グラム ムルタザ  (Ghulam Murtaza)
コルゲート・パルモリーブ従業員組合 組合員
フィアズ ムハンマド (Fiaz Muhammad)
包装産業労働者組合 組合員
リファット ラジ  (Rifat Razi)
SESSI従業員組合教育局 局員
ファルハン アリ  (Farhan Ali)
PWFハイバル・パフトゥンハー州支部 教育局長
シャグフタ ナルジス  (Shagufta Nargis)
医療補助協会労働組合 組合員
タシュケル ジャベド バッディ (Tashkeel Javed Bhatti)
CDAマズドアユニオン 副委員長
ワジーハ イスハーク  (Wajeeha Ishaq)
全国労働者組合教育局 局員
 

1.労働情勢(全般)

  2019年 2020年 2021年
実質GDP(%)
(出典元)
5.83%
( CEIC Data )
▲0.39%
( JETRO )
3.94%
見通し
( IMF )
物価上昇率(%)
(出典元)
8.0%
(パキスタン国立銀行)
8.0%
(CEIC Data)
9.1%
(CEIC Data見通し)
最低賃金
(時間額・日額・月額)
(出典元)
☐時間(84.2PKR)
☐日額(673PKR)
☑月額17500PKR)
(PWF調査)
☐時間(84.2PKR)
☐日額(673PKR)
☑月額17500PKR)
(PWF調査)
☐時間(84.2PKR)
☐日額(673PKR)
☑月額17500PKR)
(PWF調査)
失業率(%)
(出典元)
5.8%
(パキスタン中央銀行)
4.5%
(IMF)
5.0%
(IMF見通し)
法定労働時間
(出典元)
8時間/日  

(労働法)
42時間/週  

(労働法)
時間外/割増率
100%
(労働法)
休日/割増率
100%
(労働法)

通貨名:パキスタンルピー(PKR)1PKR=0.63円 2021年11月30日

2.基本情報

 パキスタン・イスラム共和国は北部に世界最高峰のK2、南部には大湿地帯、中央にはインド砂漠が広がる国土880万平方キロの連邦共和制国家である。人口は2億3千万、首都はイスラマバード、世界第2位のイスラム教国家であり、かつてはインダス川流域にインダス文明が栄え歴史的にも大きな影響を与えた国である。公用語は国語としてのウルドゥ語と英語、政治は2院政、元首は大統領となっており、新興経済国の中でも高い経済成長率を誇っている。かつてはイスラム教とヒンズー教の対立が激しく分離独立の上にパキスタンとバングラデシュに分かれた経過がある。
 対日関係はパキスタンの核実験によって一時悪化したが、その後経済的支援は再開されている。国境を接するインドとは長年領土問題から幾度となく戦争があり、タリバン問題ではアメリカと対立している。
 GDP総額は2600億ドル、一人当たりのGDPは1260ドル、国民の半数は貧困層である。主要産業は農業・綿工業で小麦の生産量は世界第6位、綿布や既製服は大きな輸出産業である。近年では日本の自動車産業が進出して、オートバイやトラックを生産している。
 ナショナルセンターは、3つのナショナルセンターが統合されパキスタン労働者連盟(PWF)が最大の組織となっており、500以上の組合が加盟して組合員は約100万人、ITUCに加盟。

3.労働事情

 パキスタンでは労働者の3%しか労働組合に加盟していないため、全土に深刻な労働問題が発生している。政府の統計部門が全体の状況を正しく把握していないため、労働者全体の数や失業者の現状が不明確。労働法は州単位で制定されているが、関連する法律が整備されていない。また産業ごとに、工場法、鉱山法、商業法などが定められているが登録をされていないと適用されない。
 商業雇用条例では労働者のカテゴリーのみが規定されている。この法律では、雇用は90日に達すると正規雇用することが義務づけられているが、89日で解雇され1日おいて再雇用するという法を悪用するケースがある。
 自動化が進展して生産性は上がったが多くの労働者が職を失った。パキスタンには多くの人的資源があるが、自動化が失業を招いている。

(1)フォーマルセクター

 正規の採用を避けて契約ベースの雇用が多く賃金を搾取されているケースが目立つ。工場労働者は採用通知書が発行されず、新しい契約システムによって低賃金で雇用されている。多くの民営化された企業では労働組合の設立が認められていない。また、民営化を口実に多くの労働者が解雇され、それまで有力だった公共部門の労働組合は弱体化した。油脂製造工業、肥料公社、繊維、銀行などでは割り増し退職金による早期退職で多くの失業者が誕生した。

(2)インフォーマルセクター

 新型コロナウイルスのため昨年3月から全面的なロックダウンが実施され、インフォーマルセクターの労働者はこの影響によって大幅な収入減となった。このセクターは、フォーマルセクター同様に大規模であるが、多くが集まって団結するという意識が薄く組織化が進んでいない。大規模地主のもとの小作農、建設労働者、露天商、自営業者は社会的セーフティーネットが保護されておらず、労働法が適用されていない。このセクターの全ての労働者は雇用主が誰かもわからず、団体交渉のメカニズムがないため団体交渉が存在していない。

(3)農業

 パキスタン経済の中心となっている農業は、GDPの18.9%を占め労働力全体の42.3%が従事している。また、綿花、穀物は貴重な外貨獲得の収入源となっている。
 このセクターの問題点は、地主の家で生活している小作農が一家総出で農業を行う児童労働にある。このセクターの労働者は日給2,84米ドルで働き最低賃金の日給113,7米ドルも実行されていない。そのため子供は貴重な労働力とされ、ILO条約違反の状況が続いている。地主は労働法を無視して不当な労働をさせており、そのため子供たちは教育も受けることが出来ない。

4.労働組合が直面している課題

(1)組織化及び団体交渉の難しさ

 パキスタン憲法には結社や組合結成の権利が保障されているが、この権利の侵害が蔓延している。政府も民生部門も軍もこれを是正する姿勢も見せず、ILO、GUF、ナショナルセンターが権利を保護する法の制定を要請しても全く前進していない。また鉱山労働者には様々な制限が課せられ、使用者は労働安全衛生という観念も欠如している。

(2)組合労働者に対するセクターごとの制限

 労使関係法に基づく権利保障が、農業、教育セクターの労働者には認められていない。つまりこのセクターは法的には「産業」とみなされていないからである。政府の事業体の労働者もこの法律で明記された権利から除外されている。

(3)労使関係法(連邦および州)

 この法律には特別条項があって、あらゆる分野の労働者の結社の自由を制限することが認められている。政府はある特定分野の労働者を公務員と規定することができ、これによって労働組合活動が厳しく制限されることになる。公益サービスも制限の対象になっており、電気、水道、ガス、病院、鉄道、航空、消防、郵便などが制限されている。国家が管理する業種はすべて結社の自由が制限されている。

(4)雇用の終了に関する制限

 1952年に制定された基本サービス法(ESMA)は、労働者が辞職する権利を制限でき、解雇となった労働者が裁判所に訴える権利もない。この事は強制労働に相当しており、再三にわたるILOからの改正の要請にもパキスタン政府は応じていない。企業は労働者をいつでも解雇できるという条項が契約書に明記することが認められており、労働裁判も成立しない。

(5)組合加入・結社の自由の拒否

 政府と民間部門の雇用主は、労働組合を弱体化させるため労働者を管理職に昇進させて労働組合活動を制限することが組織的に行われている。昇進によって労働者が労使関係条例で定義されている雇用主にあたるカテゴリーに移動するため、労働組合員としての資格を失うことになる。日本における「名ばかり管理職」である。国際的な労働組合組織はILOに提訴したが、ILOの要請に対してパキスタン政府は無視を続けている。

5.問題解決に向けた労働組合の取り組み

 パキスタンは6334万人の労働者が推定され世界第10位の労働力人口を有している。現在945の労働組合が活動し組合員の合計は180万人となっているが、人口が世界で5番目に多いこの国の組織率は3%に過ぎない。
 パキスタンの主な4つの州(パンジャーブ・シンド・カイバルパクトゥンクワ・バルチスターン)には労使関係法、児童労働禁止法、家事労働者法、労働者福祉基金法、企業利益法が制定されているが、憲法と同様に政府と企業はこれを遵守していない。
 労働組合は教育プログラムを通じてディーセントワークの概念を浸透する取り組みを実施して、仕事の世界にディーセントワークの尊厳と保護をもたらす事を強く認識している。
 労働組合は、組合が存在していない全ての分野の組織化に焦点を絞り、圧力団体を形成し結束強化をはかっている。
 パキスタン労働者連盟(PWF)は、教育プログラムを通じて労働組合のリーダーシップ能力を向上させ次世代のリーダーを養成していくこと、また女性活動の活発化のため女性の割合を33%に目標設定している。また、同一労働同一賃金、性差別の撤廃、ディーセントワークの推進のためILO条約189号と190号の批准のための活動を展開している。

6.労働組合としての新型コロナウイルスの対策

 パキスタンにおける新型コロナウイルスは、昨年実施されたロックダウンにともなって労働者に大きな影響を与えている。特にサービスセクターの労働者は最大の痛手を被っており、フォーマル経済インフォーマル経済を問わず全ての産業活動と商業活動が大きな打撃を受け、契約労働者、熟練労働者、日雇い労働者、自営業者を中心に失業者が増えている。また湾岸諸国で働く多くの出稼ぎ労働者も職を失っている。
 パキスタンの労働法は州ごとに制定されているが、登録済みの労働者が社会保険制度にも登録されていなければ休業給付が受けられない。しかし実際には給付を受けることができない労働者が多い現状にある。労働安全衛生法も公布されているが実施規則が整備されていないため、労働者には適正な新型コロナウイルスのために防疫措置が取られていない。
 一番大きな問題は、パキスタンには失業給付制度がないため失業者は収入減を補うため自力で対応しなければならなくなっていることである。
 パキスタン労働者連盟は、連邦政府と州政府に対して、政労使によるタスクフォースの設置・国家回復計画のための予算作成、繊維産業は既製服ではなくマスクや保護衣の生産に変更する、使用者は解雇ではなく給与を受け取ることのできる有給休暇制度の適用、自宅待機者への給与支払い、要請拒否の使用者に対する厳罰化について要請。
 これらの要請をパキスタン労働者連盟(PWF)としては、あくまでも社会的対話を基本に政府と使用者、軍に対応していく事を確認した。