2017年 バングラデシュの労働事情

2017年12月8日 講演録

ITUCバングラディシュ協議会 バングラディシュ・サンジュクタ同盟(BSSF)
ムハンマド シャへブ ウルラ ブイヤン(Mr.MD SAHEB ULLAH BHUIYAN)
バングラディシュ・サンジュクタ・スラミク連盟 共同事務局長

ITUCバングラディシュ協議会 バングラディシュ自由労働組合連盟(BMSF)
モハマド ヌルラ アブサー(Mr.MOHAMMED NURUL ABSER)
東部製油所テカダール従業員組合 書記
シャーミン ジャハン トゥヌ(Ms.Sharmin Jahan Tunu)
バングラディシュ自由労働組合連盟(BMSF) 青年委員

ITUCバングラディシュ協議会 労働組合連盟(JSL) 
エーケーエム ラフィクル イスラム(Mr. A K M RAFIQUL ISLAM)
BRDカモチャリーサンガサド組合 共同事務局長

ITUCバングラディシュ協議会 バングラディシュ民族主義労働組合連合(BJSD)
ムハンマド アブドゥル ゴファー(Mr.MD.ABDUL GOFUR)
パブナ県サダール・ウポジラ・エマロット建設労働組合 事務局長

ITUCバングラディシュ協議会 バングラディシュ自由労働組合会議(BFTUC)
イファット アラ シェリー(Ms. IFFAT ARA SHELY)
バングラディシュ自由労働組合会議 青年部委員長

ITUCバングラディシュ協議会 バングラディシュ労働連盟(BLF)
モハメッド アブール カラム(Mr.Md Abul Kalam)
バングラディシュ労働連盟 教育・調査・出版部 書記

 

1. 基本情報

 面積は日本の約40%(約14.7万平方キロ)、人口はおよそ1億6千万人、この内9割弱がイスラム教徒である。政治体制は共和制をとっている。経済成長率(実質)は、2015年が6.51%(世銀)、2016年が7.11%(バングラディシュ中央銀行)であり、2017年の見通しは、7.24%(バングラディシュ中央銀行)となっている。その経済構造は、繊維製品などの輸出、海外からの送金、並びに農業セクターによって支えられているが、今後の持続的発展を図るためには、多様な産業分野の拡大、電力・道路などのインフラ整備が欠かせない。(報告者との情報交換による)物価動向だが、2015年は6.2%(世銀)、2016年6.01%(バングラディシュ中央銀行)であり、2017年の見通しは5.57%(バングラディシュ中央銀行)となっている。最低賃金は、月額で2015年、2016年とも5300タカ(80タカ≒US1ドル、日本円で月額約7500円程度か〈113円換算〉)であり、2017年も水準変わらずの5300タカとなっている。政情は、野党勢力の弱体化などから表面は比較的安定しているようにみえる。しかし、2016年7月、ダッカ市内にあるレストランへの襲撃テロが発生し、日本人7人を含む22人が犠牲となったことからは、依然としてテロの危険が存在している国情にある。労働者を束ねるべきナショナルセンターは30を超え乱立している。政党・政治家と労働組合との関わりがこの要因とみられるが、ナショナルセンターが真に労働者の拠り所となりえるか、そのあり様が問われている。(注)数字は報告者による。

2. バングラデシュの労働情勢(全般)

  2015年 2016年 2017年(見通し)
実質GDP(%)
(出典元)
6.51%
(世界銀行)
7.11%
(バングラデシュ中央銀行)
7.24%
(バングラデシュ中央銀行)
物価上昇率(%)
(出典元)
6.2%
(世界銀行)
6.01%
(バングラデシュ中央銀行)
5.57%
(バングラデシュ中央銀行)
最低賃金
(時間額・日額・月額)

(出典元)
□時間(22.08)
□日額(176.66)
□月額(5.300)
(衣類部門、
最低賃金ボード、)
□時間(22.08)
□日額(176.66)
□月額(5.300)
(衣類部門、
最低賃金ボード)
□時間(22.08)
□日額(176.66)
□月額(5.300)
(衣類部門、
最低賃金ボード)
労使紛争件数
(出典元)
245
( - )
189
( - )
213
( - )
失業者数
(出典元)
4.1%
( - )
4.2%
( - )
4.8%
( - )
法定労働時間
(出典元)
8時間/日
(労働法2013
第100条)
48時間/週
(労働法2013
第102条)
時間外/割増率
賃金の2倍
(労働法2013
第108条)
休日/割増率
賃金比は前賃金の
日額平均比
(労働法2013
第119条)

通貨名:タカ 80タカ=約1ドル

3.労働を取り巻く現状と課題

(1)進む労働法改正-非正規労働者にまで届かぬその恩恵

 労働法は2006年と2013年の改正により、労働者の権利、労働組合の権利、団体交渉の権利、職場における健康と安全などが確保されるところとなった。しかし、現実には政府の力が及んでおらず、法制度の実用化が進んでいない。正規雇用の場合には、確かに労働に関わる各種権利が守られたり、社会保障などの恩恵に浴しているが、労働者の多くを占める非正規労働者(インフォーマル労働者全般)にその恩恵は届いていない。その主な理由は、組合の組織力の低さが挙げられる。正規雇用の場合、結社の自由と団結権が認められているが、非正規労働者の場合には、労働法の規制に阻まれ、組合結成ができず、自分たちの権利要求の手だてが乏しい状況におかれている。
 ただ、労働者への社会的保障として、バングラディシュ労働者福祉財団法2006年、2015年の改正では、勤務中の事故によるケガや危険にさらされて負傷した労働者に対し、最高10万タカ、また勤務中の事故によって死亡した労働者に対し、最高20万タカの支給が決定されたことは福音といえるだろう。因みに、労働法では、勤務中の事故による負傷(その度合いによるが)の場合、最高12万5千タカ、死亡の場合は、10万タカの保障が決定された。この他の社会保障として、社会的弱者、未亡人、高齢者への手当などが導入され、政府が支給の任に当たる。こうした制度の執行状況や、この他に整備すべき制度がないか、あるいは給付水準へのチェック、そして労働者全てへとその波及のすそ野を広げる運動など、ナショナルセンター・組合の役割は山積している。

(2)危うさの上に成り立つ経済-9割に近づくインフォーマルセクター労働者

 バングラディシュの失業率は2015年が4.1%、2016年が4.2%、そして2017年は4.8%と見込まれている。しかし、この数字からは労働現場の実相はつかめない。なぜならば、バングラディシュの全労働者5095万人(統計局BBS 2016年調査による)の87.3%がインフォーマルセクターにあり、安定した仕事、社会的な保障、定まった労働時間といった環境におかれていない。建築、運送、ドライバー、工場労働に従事している人々には、不健康でリスクの高い仕事があてがわれている。このインフォーマルセクターの中には、農業従事者が含まれており、実に48%と最大のウエイトを占めている。(サービス業37%、鉱工業15%)こうしたセクターに働く労働者は、法に守られることなく、組合による権利保護からも見放された存在であり、自らも権利についての認識が浅く、また、低い水準の教育しか受けておらず、突然の解雇などに到底対抗できる力を有していない。
 このような危うさの上に成り立つバングラディシュの経済構図を変え、労働者の置かれた環境を変えていくことが豊かな国への一里塚であり、まさに政労使にとっての喫緊の課題だといえよう。

(3)どう変えるか-大半の労働者がインフォーマルセクターという現実を

 ナショナルセンターとしての課題認識は、なにより未組織労働者の組織化にあることは言うまでもない。そのためには、現行の労働法の及ぶ範囲拡大、ILO条約(結社の自由とと団結権)遵守、健全な仕事環境の確保、男女平等に向けた取り組み、若年層や女性たちの組織化への取り組み、最低賃金の引き上げと徹底、非正規雇用者の正規登用化、労働者の意識向上など、多くの取り組むべき課題がある。
 このため、非正規労働者の組織化を図るべく、なによりもその意識向上が必要であり、このためのスキルアップ研修(労働法や労働者の権利についての研修、意識改革プログラム)などを実施する。同時にオルガナイザーの育成も急がなければならない。現状の組合の結束力の強化も大切である。若年層や女性の参加を促すためのプログラム実施も重要である。この他に、実践力を高めるため、賃金引き上げの運動への参画、労働法の決議委員会への参加、あるいは、労働問題に対する抗議活動への参加などで人材育成を図っていく。記者会見など広報宣伝を巧み(定期的に)に行うこと、三者構成委員会への積極的参加も周到に取り組むべき対応策であろう。以下では、3つのナショナルセンターの取り組みを紹介しておく。(①バングラディシュ・サンジュクタ組合連盟、②国民労働者連盟、③バングラディシュ労働連盟)

①バングラディシュ・サンジュクタ組合連盟の取り組み
 海外からの送金は国内経済に大きく寄与している。中では縫製業に関するものが18%を占めている。このため政府はこのセクターで働く労働者の最低賃金を5300タカに定めた。(基本情報に既掲)縫製業に従事している人口は約400万人、その80%が女性で占められている。最近のグローバル産業はサプライチェーン化しており、過剰な利益を独占し、このセクターで働く労働者が正当な賃金を得られずにいる。バングラディシュ・サンジュクタ組合連盟は、産業別の組合を立ち上げ、衣類、繊維、ジュート産業の労働者がグローバル化したサプライチェーンと足並みを揃え、賃金、社会保障、健康保険が確保できるよう対策を進めている。また、労働者の権利を保護するため、様々なセクション、地域産業、そしてセクターごとに労働者を束ね、コミュニティを形成することで、組織化を目指している。その他にも、労働者の権利を確立するため、女性、若年層、農民、漁業者、土着民、運輸労働者、建築労働者など、様々なセクターごとに非正規労働者をまとめ、組合への参画を促したり、低賃金や社会保障などの労働者の権利を守るため奮闘している。

②国民労働者連盟の取り組み
 国民労働者連盟は、加盟する多岐にわたるセクター(衣料品、運送、石材労働者、建築、テキスタイル、ジュート工場の労働者)ごとに対応を図っている。具体的には、様々なセクターベースごとに正規・非正規労働者の組織を立ち上げ、本人の健康保障や勤務中のケガや死亡に対する、家族への社会的保障がされるよう取り組んでいる。
 労働者の意識改革には、様々なセミナー、研修を行い、ILO、ITUC、ITUC-AP、JILAFの支援の下、研修を通して草の根的に労働者家族の次世代を育成し、技術力ある労働者の養成により、安定した家計につながるような支援に取り組んでいる。

③バングラディシュ労働連盟の取り組み
 バングラディシュ労働連盟は、広い視野を持ち、地区ごとの対応に努めている。中でも、縫製、運輸、石材、建築、繊維、ジュート工芸などの労働者を含む様々なセクターの正規・非正規労働者らの組織化を目指している。現在、非正規労働者の組織化を図るため、産業別の組合を立ち上げ、本人への健康を保障し、勤務中の事故によるケガや死亡への対応、また、その家族にも社会保障が行き渡るよう努力を重ねている。
 労働者自身の認識を高める対応策は、②の国民労働者連盟の取り組みと同様である。

(4)インフォーマルセクターに光を-評価されるJILAFのSGRAプロジェクト

 インフォーマルセクターは多くの壁に阻まれて、成長の恩恵という光に浴することは難しい。それを打開するためには、待つばかりではなく、打って出るエネルギーが求められている。ナショナルセンターこそがその先陣の旗手としての役割を果たさなければならない。そうした意味で、2つのナショナルセンターの取り組み成果を紹介する。

①バングラディシュ労働連盟はJILAFのSGRA(Supporting Glass Roots Activity)プロジェクトを通して、これまでにITUC-BCなどと共に1194人の非正規労働者及び組合員向けのライフサポートセミナーで、専門トレーニングを行い、労働者の技術向上に寄与してきた。この結果は、組合員の雇用促進につながり、家計に潤いをもたらしている。また、このプロジェクトを通じ、2017年11月までに8つの協同組合(メンバーは1009人)が立ち上がり、登録されるに至っている。専門研修プログラムも2016年2017年に開かれ、171人が受講し、うち94人が雇用につながる結果となった。残り77人は女性ばかりであったことから、彼女たち自身でミシンを購入し、それぞれが自宅で作業し、何とか収入を増やす努力をしている。

②バングラディシュ自由労働組合連盟は2012年からSGRAプロジェクトに関わってきている。2012~2017年まで、チッタゴンで行った職業訓練に14名が参加し、我々の仲間の2人が新しい仕事に就くことができ、そのうちの1人は実に月収が1万5千タカという水準を得るに至っている。2012年カジプールという場所では2人が参加し、いい状況を得るに至っている。1人は店を経営し、月に1万2千タカから1万5千タカを稼ぎあげている。もう一人も自営業を営み、月に5千~7千タカの収入を確保している。2013年にも同様の訓練に6名が参加し、コンピュータ-に2人(1人は県庁-月収8千~1万タカ)、縫製に2人(いずれも自宅内職-月に5千~7千タカ)、ブティックにも2人とそれぞれ職を得ることができた。2015年、ダッカにドイツテクニカルという技術関連の企業にJILAFを通し、3名が仕事を得ている。
 2016年は1人だけだが、トレーニングセンターで縫製関係の訓練を受け、ミシン貸与で自宅での仕事ができるようになっている。

 このように、JILAFのSGRAプロジェクトは、インフォーマルセクターにある人々の組織化と生活の底上げという点で好影響を与えており、評価に値する意義あるプロジェクトである。

(注)SGRAプロジェクトとは、JILAFが行う草の根支援事業である。公的サポートが行き届かない人々を組織化し、職業訓練や教育セミナーに参加させるなど尽力してきている。