2012年 香港の労働事情
香港労働組合連盟(HKCTU)
ポーリン ヤン
Ms.Pauline Young
香港バプティスト大学教職員組合 副議長
1.当該国の労働情勢(全般)
香港の人口は約712万人(2011年)、総労働力の比率は60%(2010年10~2011年11月)で約427万人。1週間当たり35時間以上働く人々を正規労働者としており、その数は約317万人である。一方、1週間当たりの労働時間が35時間未満を非正規労働者とし、その数は約35万人、このうち不完全雇用の就業者は約7万人となっている。
現在、失業率は3.2%で低下傾向が続いている。また男性が4%前後と高く、女性は2%台半ばで推移している。主要産業は卸売業、小売業、輸出入業、レストランならびにホテル業でGDP全体の26.7%(2009年)を占め、産業の中心となるのが金融業、保険業、不動産業および対事業所サービス業でGDP全体の26.8%(2009年)。
経済状況(実質GDPでの年間経済成長率、2007~2010年)は2007年2.9%、2008年1.5%、2009年0.2%、2010年にはリーマンショックを乗り越えて2.5%に回復している。リーマンショックの影響を受けた業種としては製造業がある。2009年も2010年もマイナス5.0%、同5.6%となり、マイナスの値が大きくなっている。
業種 | 2009年9月 (年間の変化) |
2010年9月 (年間の変化) |
2010年9月の 就業者数(人) |
---|---|---|---|
製造業 | -5.0% | -5.6% | 117,686 |
卸売業・輸出業 | -4.1% | +1.0% | 563,704 |
レストラン・ホテル業 | -2.0% | +2.8% | 247,015 |
金融・保険業 | -2.3% | +6.0% | 193,086 |
情報・通信業 | -2.2% | +0.6% | 88,443 |
賃金に対する影響では、製造業以外では2010年の数字は前年より回復しているが、製造業はより落ち込んだ数字になっている。
業種 | 2009年9月 (年間の変化) |
2010年9月 (年間の変化) |
---|---|---|
製造業 | -2.8% | -3.3% |
卸売業・輸出業 | -2.5% | -0.6% |
レストラン・ホテル業 | -3.9% | -0.9% |
金融・保険業 | -3.3% | -0.2% |
2.労働組合が現在直面している課題
- インフレに対処するため、最低時間給を28香港ドルから33香港ドルへ引き上げ
- 10%を超える労働者が1週間当たり60時間を超えて働いていることから、労働時間の規制
- 団体交渉の法制化
3.その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか
香港型の社会労働組合主義として、最低賃金キャンペーンが学生運動、社会運動、労働運動の間の共同キャンペーンとして行なわれている。HKCTUは、1990年代末から、法定最低賃金を求めて働きかけを開始した。2003年、HKCTUは、アメリカの学生組織である「労働搾取工場に対する学生連合」を模範にして、キャンパス内で最低賃金を要求するため、大学生と労働者との間の連携関係の構築を開始した。HKCTUは、清掃作業員と警備員の労働条件改善を求めて大学当局に働きかけるために、中国香港大学、香港大学、科学技術大学、香港工芸大学に「草の根問題グループ」を組織した。
2006年、HKCTUやその他のグループは、最低賃金を社会正義の問題として取り上げるために、「最低賃金のための人民連携」を創設した。その重要な戦略の1つは、メディアを関係させることにより、メディアが低所得層の苦難や会社による搾取を暴露することである。ハンガーストライキやデモ、また著名人や政党からの支援も、窮極の立法に向けて政府の背中を押すのに役立った。
このキャンペーンも、すべての部門の労働者を動員するには至らなかった。清掃作業員と警備員は、大部分の参加を得た2つの部門であった。小売業、高齢者介護、ケータリング、配達業などの他の部門の労働者は、効率的にこのキャンペーンに参加することはなかった。さらにHKCTUは、組合員を増やすためにこのキャンペーンを用いることができなかった。その理由の1つは、これらの業種の労働者が往々にして長時間労働に携わり、かつ伝統的な雇用をされていることが組織化を困難にしている。
4.あなたのナショナルセンターと政府との関係について説明してください
『団体交渉立法』の欠如。財産管理、セキュリティサービス、ケータリング、クリーニング、建設等少数の業種にのみ、労使関係を処理するいわゆる三者枠組が存在するが、そこでの雇用主と被雇用者の代表は、意見を交換することしかできず、実質的な決定を下すことはできない。
5.あなたの国の多国籍企業の進出状況について、また多国籍企業における労使紛争があればその内容についてお知らせください
ほとんどすべての多国籍企業は、地域のセンターとしての香港に本拠を置いている。顕著に見られる傾向の1つは、中国を基盤とする企業が経済、特に金融部門で支配的な地位をますます強めているということである。多国籍企業は香港経済における主要な活動主体である。香港の多国籍企業の労働慣行は、常に、地元の企業や中国を基盤とする企業よりも若干良い。
ブリティッシュ・エアライン労働組合は、親会社の労働組合と特に職場闘争において密接に関係している。また清掃作業員組合は、国際レベルで国際サービス従業員労働組合(SEIU)やユニオン・ネットワーク・インターナショナル(UNI)と良好な関係を保っている。