2016年 中国の労働事情

2016年10月7日 講演録

中華全国総工会(ACFTU)
リュウ・ウェイ

中華全国総工会組織部 副部長
ワン・チャンチン
内モンゴル自治区総工会組織部 部長
シュウ・ヤン
北京市総工会幹部学院 労働組合理論・職工教育研究所 所長
リュウ・ジュアン
天津市総工会経済保護部 副部長
ジャオ・ジェンウェイ
中華全国総工会国際連絡部 副所長

 

1.労働情勢の全体状況

(1)経済運営状況

 2015年、中国の国内総生産高は6兆7700億元で、6.9%増加し、個人消費額は1.4%上昇した。個人一人当たりの平均可処分所得は2万1966元で、実質伸び率は7.4%だった。2016年第1四半期のGDP成長率は6.7%で、消費者物価指数(CPI)は2.3%だった。中国経済を全般的に観測すると、健全で、継続して安定しているといえる。中国経済は、安定の中に成長があり、成長の中に安定を追求する、というのが現段階の中国経済運営の基本特徴である。

(2)就業雇用状況

 2016年1-6月、中国都市部での新規雇用者数は717万人に上り、前年同期からは基本的に横ばいだった。第2四半期末まで、都市部登録失業率は4.05%で、比較的低い水準となっている。大学の新卒でない学生や出稼ぎ農民工などの雇用を重点とした雇用対策が功を奏している。

2.労働組合が直面する主な課題及び労働組合の対策

(1)労働組合が直面する主な課題

 労働者階級の変化において、第一に、生産年齢人口の伸び率が減速し、総数の減少傾向が続いている。第二に、労働者階級の技術の質と、産業構造の転換と技術への高度化の要求にいまだ開きがある。第三に、労働者権益を守ることにいまだ問題が存在する。第四に、労働者層の構造の相違が依然として大きい。第五に、労働者の考えや価値観において多元、多様、多変な傾向がみられるようになっている。
 労使関係については、全体的に安定しているものの、一方で労使紛争が多く、争議事件も頻発している。とりわけ、製造業、建設業、サービス業での紛争事件が多く発生しており、主に出稼ぎ農民工や派遣労働者によって起された紛争事件が多い。被雇用者の争議は、主に賃金や社会保険費、経済補償金などで、労働者の経済権益を守る内容である。
 労働組合活動では、単組別の労働組合組織設立はまだ手付かずで、現在、多くの中小・零細企業、民間の非企業団体の労働者は、労働組合には加入していない場合が多い。労働組合の指導機関による労働契約、労使協議、企業の民主的管理などの法整備や制度設立などは、多忙な業務により推進することができていない。

(2)労働組合の対策

 第一に、労働権益を保護するようにしている。第一線で働く労働者、出稼ぎ農民工、派遣労働者、困窮する労働者などを重点保護ターゲットとし、就業雇用、技能訓練、公平な収入分配、社会保障、安全衛生、女性労働者の特殊権益保護などを重点内容として、労働者の権益保護活動を展開している。具体的には政府と労働組合の合同委員会、労使関係を調整する第三者機関、集団協議制度、労働者代表大会などの方法やチャンネルを通して、労働者の訴えを反映した改善意見を提出し、問題解決に向けての取り組みをしている。
 第二に、労働者へ「温もりを届ける活動」を展開している。政府が実施すべき一部の公共サービス機能を有償で、第三者により労働者に届けるようにしている。「送温暖(温もりを届ける活動)」、「金秋助学(勉学の援助)」、「出稼ぎ農民工を無事に故郷へ」、「女性労働者への思いやり行動」などの活動に積極的に取り組んでいる。生活に困窮している労働者への支援業務を国の社会保障体系に組み組むように働きかけをし、また、労働組合の法律支援業務を強化し、困窮する労働者に法的サービスを提供することもしている。
 第三に、調和のとれた労使関係の構築を促進している。法に従い、企業が全面的に賃金の集団協議を展開するよう推進し、集団協議の質と実際の効果を高めている。労働者代表大会を基本の形とし、企業及び公的機関の民主的管理制度建設を推進している。
 第四に、供給サイドの構造改革において、効果的に労働者の権益を保護している。暫定的な試算によると、鉄鋼、石炭産業の過剰生産能力を解消するには、約180万人の余剰労働者が出現する。彼らは仕事がなくなる恐れがあり、このうち、今年この二つの産業の過剰生産能力の解消の影響を受ける労働者は約80万人にも上る見込みとなっている。全国の各労働組合は、多くの労働者が供給サイドの構造改革に参加し、支持するよう積極的に呼びかけをすると同時に、都市部で生活に困窮する労働者が困難な状況からいち早く脱却できるよう、支援と保障業務を積極的に推進している。

3.中国の出稼ぎ農民工の問題及び労働組合の対策

(1)基本状況

 わが国の統計基準によれば、出稼ぎ農民工とは、戸籍を農村に残したまま、居住地で非農業型の仕事に従事する、又は6カ月以上出稼ぎする労働者のことを指す。

(2)主な問題

 第一に、出稼ぎ農民工は労使関係において十分な保護に欠け、弱者の立場に置かれている。
 第二に、出稼ぎ農民工は様々な異なる特性を持つ層により構成され、多層化傾向が顕著である。
 第三に、出稼ぎ農民工が都市部へ流入した際、戸籍制度や社会保障制度など、多くの制度上のハードルが存在している。
 第四に、出稼ぎ農民工は過度に分散しており、組織化率が低く、こういった状況は、出稼ぎ農民工の団結と安定には不利である。
 第五に、全体として出稼ぎ農民工の政治的、社会的地位が低い。

(3)労働組合の対策

 第一に、「出稼ぎ農民工の集中組合員化キャンペーン」を積極的に推進し、出稼ぎ農民工を労働組合に最大限引き入れるようにしている。2016年は全国農民労働組合員人数をさらに1500万人増加させることを提案している。特に重点地区と産業に注目し、全国省級以上の開発区(工業園区)、建設事業、物流(宅配)業、家庭サービス業、農業専門提携組織など五大分野で働いている労働者を、出稼ぎ農民工として組織化するよう積極的に推進している。また、労働者の出身地別に労働組合を組織し、出身地別の出稼ぎ農民工を労働組合へ加入させ、一方、出身地と働いている地域の労働組合は緊密に協力し、「出身地での加入は、異なる地域でも継続で認める」という目標を実現するよう努力している。
 第二に、出稼ぎ農民工へのサービス分野で、出稼ぎ農民工のニーズに合わせ、労働組合の特色を引き出しながら、良質なサービスを提供することを堅持している。一つ目に、労働者雇用において、出稼ぎ農民工の労働契約締結を指導、支援し、出稼ぎ農民工に対し雇用支援、技能訓練、少額ローンや起業支援を展開し、大規模で高効率の出稼ぎ農民訓練を展開している。二つ目に賃金報酬において、出稼ぎ農民の報酬待遇を賃金集団協議の範囲に組み込み、最低賃金基準が確実に守られるよう推進し、賃金未払い報告制度を確立させている。三つ目に社会保障において、出稼ぎ農民工の社会保障意識を強化させ、企業が期日通り社会保険費を満額支払うよう促し、出稼ぎ農民工の社会保険加入率を引き上げ、社会保険の給付、転居場所への移管、資格の継続に関する問題の解決を推進している。四つ目に安全生産において、さらに多くの出稼ぎ農民工が労働安全衛生監督検査に参加するよう組織し、企業が出稼ぎ農民工の労働と生活条件を改善するよう推進している。五つ目に困窮者の支援において、困窮する出稼ぎ農民工を労働者支援システムに組み込み、出稼ぎ農民工の身の回りの難題を解決するように図っている。
 第三に、政治制度において出稼ぎ農民工による政治活動への参加機会を広げるようにしている。今年1月、中華全国総工会第十六回第四次執行委員会会議選挙は、全国労働模範、出稼ぎ農民工代表の巨暁林氏を全国総工会副主席(兼職)に選出した。一部の省(区、市)総工会選挙でも、出稼ぎ農民工が兼任の副書記として選出されたこともあった。全国総工会は、法整備に参加する過程の中で、戸籍制度、選挙制度改革の推進に注力し、党代表大会、人民代表大会、中国人民政治協商会議、労働模範における出稼ぎ農民工の比率を引き上げるよう力を入れ、出稼ぎ農民工に政治参加の機会を与えるようにしている。

 

4.派遣労働者の使用に関する問題及び労働組合の対策

  2012年、全国総工会は全国労働者状況調査を実施したが、このうち一つは派遣労働者の使用に関する問題だった。以下に引用するデータの大部分は、この調査項目に基づいている。

 

(1)基本状況

①全国の派遣労働者の総数は4,207万1,600人、このうち企業勤務は3,659万2,200人。
②産業別分布として、国民経済産業の20業種の内、16業種で派遣労働者が使用されており、このうち11業種で20%以上の調査対象企業が派遣労働者を使用していた。金融業の68.3%、水利・環境・公共施設管理業の66.7%、情報通信・コンピュータサービスとソフトウェア業の60.0%の企業が派遣労働者を雇用していた。また、派遣労働者の使用比率では建設業が36.2%、情報通信・コンピュータサービスとソフトウェア業が17.9%、電力・ガス及び水の生産と供給業などが15.3%で、高い数字となった。
③雇用身分としては、派遣労働者層の構成は複雑で、その中には出稼ぎ農民工や、都市部の労働者、就職難の大学中等専門学校の卒業生などが含まれていた。
④年齢、教育と技能レベル構成に関しては、派遣労働者は比較的若く、文化教育レベルと専門技能が著しく低い。

(2)主な問題

①就職難や安定性の欠如、契約の短期化は深刻であり、労働契約を随意に解除する現象が目立っている。
②賃金収入が全体的に低く、伸び率は鈍化しており、残業費の満額受取も保障し難い。
③労働安全衛生権益の保障に関しては、苦しく、汚く、きつく、危険な職種が多く、労働環境と条件が悪くい。また、職業病や労働災害発生率が高い。
④相当数の派遣労働者は労働組合に加入していない。
⑤スキルアップの機会が相対的に少ない。派遣労働者のうち、企業でスキルアップする「機会が大きい」と感じた者は四分の一未満(24%)で、スキルアップの「機会はない」とした者は五分の一を超えている(21.4%)。

(3)労働組合が直面する問題

 第一に、労働組合の幹部と派遣労働者の間の結びつきがゆるく、派遣労働者が利益を要求するチャンネルと方法が乏しい。
 第二に、雇用企業と雇用企業労働組合の職責が不明瞭で、関係は滞っており、派遣労働者の入会受け入れに関して、互いに「責任の押し付け」が発生している。
 第三に、関係する法律制度の実現可能性について曖昧な部分が存在している。

(4)労働組合の対策

 第一に、『労働契約法』『労働派遣暫定規定』の徹底実施を積極的に推進し、企業が法に従い雇用、規範にしたがった管理を行うよう促している。政府部門と協力して、連動した監察業務を展開し、労働派遣企業に対して監督と検査を実施し、労働派遣者の使用が集中する産業に対し監督管理を行っている。
 第二に、派遣労働者の労働組合加入を最大限進め、派遣労働者を労働組合の業務サービス範囲対象とし、「送温暖(温もりを届ける活動)」と困難者支援体系に組み込むようにしている。
 第三に、労使関係の第三者が『労働派遣契約(様式)』を研究制定するよう推進し、労働派遣に対する基本要件及び派遣労働者に関する権益の明細を列挙している。
 第四に、国有企業の労働雇用関連制度改革を積極的に推進し、法に従い長期雇用した派遣労働者を正規労働者に切り替え、派遣労働者の同一労働同一賃金の権利を保障している。
 第五に、労働組合組織の強みを生かし、関連する法律法規を広くPRし、派遣労働者の権利意識と法律意識を強化し、自らの権利保護能力を引き上げている。

*1元=16.85円(2016年12月20日現在)