2018年 ウクライナの労働事情

2018年8月30日 講演録

ウクライナ自由労働組合総連盟(KVPU)

バシール セムカニチ(Mr. Vasyl Semkanych)
アンドリー タカチェンコ(Mr. Andrii Tkachenko)
ビクトリア ナリンスカ(Ms. Viktoriya Narynska)

 

1.ウクライナの労働情勢

  2016年 2017年 2018年(見通し)
実質GDP(%)
(出典元)
2.3%
(ウクライナ
国家統計局)
2.5%
(ウクライナ
財務省)
3.2%
(ウクライナ
経済発展省)
物価上昇率(%)
(出典元)
12.4%
(ウクライナ
国家統計局)
13.7%
(ウクライナ
国立銀行)
8.9%
(ウクライナ
国立銀行)
最低賃金
(時間額・日額・月額)
(出典元)
月額
(1,600フリヴニャ
($60))
(国家予算法)
月額
(3,200フリヴニャ
($120))
(国家予算法)
月額
(3,723フリヴニャ)
(国家予算法)
労使紛争件数
(出典元)
データなし
216
(ウクライナ
国立調停和解局)
データなし
失業率
(出典元)
9.4%
(ウクライナ
国家統計局)
9.5%
(ウクライナ
国家統計局)
9.7%
(ウクライナ
国家統計局)
法定労働時間
(出典元)
時間/日
(8時間/日)
時間/週
40時間/週
時間外/割増率
休日/割増率
通貨名:フリヴニャ         26,7フリヴニャ=約1ドル(2018年7月25日現在)

2.ウクライナの労働法制・社会保障の特徴

 ウクライナ憲法は、同国の基本法として、労働法規の形成と発展の法的基盤である。労使関係はまた、ウクライナ労働法及び一連の議会法、ウクライナ内閣の一連の命令によっても規制されている。また、労働問題は、労働者の代表、政府及び使用者間で、労働協約や産別合意書を締結することによっても解決しうる。ウクライナはまた、ILO条約第61号を批准済みである。
 ウクライナの「国家社会基準及び国家社会保障」法第6条では、基礎国家社会基準となるのは、法律で定められた必要最低限生活費で、これをもとに国家社会保障や国民の収入、住宅公共、日常生活、社会文化サービス、ヘルスケア、教育などの分野での基準を決める。現在、労働者の必要最低限生活費は1,777フリヴニャである。
 最低賃金は、もう一つの重要な国家社会保障である。法律レベルで、最低賃金の決定と見直しの手続きが定められている:最低賃金は、議会が年に1度以上、内閣の提示を受けて法律の中で決定する。その際、交渉及び基本合意書締結のために集まった労働組合の代表、所有者(雇用者及び政府)、あるいはその代理機関間の交渉で作成された提案を考慮しなければならない。最低賃金は、労働者の必要最低限生活費に応じて見直さなければならない。
 ウクライナの現行の年金制度は、三つのレベルからなっている。第一レベルは、年金生活者の基礎需要と国民一人ひとりの社会保障のために創設された連帯制度、第二レベルは、強制拠出型国家年金保険の積立制度で、個人の年金口座への拠出金の強制拠出とその投資により、将来の年金受給者のための追加資金の確保を見込んでいる。第三レベルは、任意の非国家年金制度で、希望者は自身と親族あるいは自社の従業員のための追加の年金基金を積み立てることができる。目下ウクライナでは、第一、第三レベルのみ機能している。ウクライナではどういう年金制度が良いかという議論だけが続いてきた。将来的には2段階の年金となるであろう。即ち義務拠出によるものと個人が貯めていくものである。現在は対症療法的に軍人に対する年金額を改正したり、長く働いている割に年金額が少ない人に対し見直しを行ったりしている。

3.労働組合が現在直面している課題

 労働運動の課題として、(1)国内改革により、市民の社会経済状態の悪化がないように監視、(2)ウクライナとEU間の連合協定などの実施、(3)公務員の人員削減阻止、(4)製造業の復興---が挙げられる。ロシアによるクリミア併合、ウクライナ東部地域の戦争によって、メンバーが相当減ったことが問題である。
 ILOのグローバルインデックスでは、ウクライナは権利保障がされていない国として分類されている。多国籍企業の行動を規制するような法律もない。賃金未払いの問題があり、労働条件を確保することも重要である。実質GDPは3.2%、インフレ率は8.9%、最低賃金は140ドル、失業率は9.7%である。労働者の必要最低限の生活費は65ドルであり、最低賃金は約120ドルである。炭鉱労組は、1980年代から活動を開始し、現在の最大の課題は未払賃金問題である。労災事故も多い。我々は新しい労働法案採択に反対であり、ILOとITUCにこの労働法の問題を訴えている。