2017年 ウクライナの労働事情

2017年7月28日 講演録

【ウクライナ自由労働組合総連盟(KVPU)】

マルガリータ コンスタンチン(Ms.Marharyta konstantin)
(石炭鉱山労働者独立組合ノボドネツカ鉱山支部 委員長)

セルゲイ バラバシュ(Mr.Serhii Barabashuk)
(石炭鉱山労働者独立組合エブラズスハバルカ鉱山支部 委員長)

デニス コロド(Mr.Denys Horod)
(石炭鉱山労働者独立組合ラルノフスカヤ鉱山支部 青年委員長)

 

1.労働情勢

 実質GDPは、2015年が△9.9%、2016年が2.3%、2017年(ウクライナナショナル銀行による見通し)が2.8%となっている。
 物価上昇率は、2015年が43.3%、2016年が12.4%となっている。
 失業率は、2015年が9.5%、2016年が9.4%、2017年(見通し)が9.3%である。
 最低賃金(月額)は、2015年が1,378グリブナ、2016年が1,600グリブナ、2017年が3,200グリブナである。なお、1グリブナは現在の為替レートで概ね4.29円である。
 労使紛争の件数は高く、国家仲裁調停局調べでは、2017年1~5月累計で148件となっている。
 法定労働時間は、1日8時間、週40時間である。

2.ウクライナの社会保障の特徴

 国家社会保障は、法律で定められた必要最低限の生活を保障する。この法律に基づき、国民の所得、公共住宅・日常生活・社会文化サービス、保健保護、教育分野における国家社会保障および基準が定められている。現在の必要最低生活費水準は1,684グリブナである。
 最低賃金は、国家最低賃金法に基づいて国会で決定する。その際、労働者、使用者、政府の代表による機関で作成した提案を考慮しなければならない。
 ウクライナには、統一年金制度があるが、年金支給開始について優遇される権利を有する職業リストがある。例えば、「リヴォフ石炭会社」の選鉱工場に働く労働者の大部分は女性であり、事実上優遇年金の対象者であった。しかし、この職業がリストから縮小される対象になった。ウクライナ自由労働組合総連盟(KVPU)は、明確な根拠のないリストの縮小に反対し、政府に対して訴訟を起こしている。

3.非正規雇用など不安定雇用に関する問題やインフォーマルセクター労働者の現状

 2016年1~9月におけるインフォーマル経済のレベルはGDPの35%を占めた。政府統計によると、インフォーマルセクターの被雇用者数は430万人で、就業人口(1,620万人)の26%強を占めている。なお、インフォーマルセクターの被雇用者の割合が高い産業は、農林水産業、卸・小売業、自動車修理業、建設業である。
 インフォーマルに雇用された労働者は、社会保障を受けられず、突然の解雇からも守られていない。しかし、彼らは失職を恐れているため労働組合として支援するのが困難な状況だ。ウクライナ自由労働組合総連盟(KVPU)は社会的なレベルでインフォーマル雇用の問題を提起している。
 また、ウクライナでは、業務をアウトソーシングするなどにより正規雇用労働者を削減しようとする傾向もみられる。

4.ナショナルセンターが直面している課題

(1)社会保障分野および労働分野における法の改悪について

  1. ウクライナで定める「最低生活費」は「最低賃金」の概ね半分程度である。ウクライナ自由労働組合総連盟(KVPU)は、2016年に最低賃金と最低生活費の格差を減らす要求を含め社会的基準引き上げを求めて闘ったが、政権は約束を履行せず実行されなかった。一方で、一連の社会保障の計算において「最低賃金」を「最低生活費」に替える法が採択された。
  2. また、採択された法では3カ月以内に全レベルの労働協約を新たに締結することを求めている。このように、全レベルの労働協約および合意の締結および変更のルールが破られようとしている。ウクライナ自由労働組合総連盟(KVPU)は、労働組合との協議なしに採択されたこれらの法はILO条約違反であるとして、ILOに提訴している。

(2)石炭鉱山における賃金未払い問題について
 ウクライナ石炭鉱山労働者独立組合は、石炭採掘業に働く労働者への未払い賃金の支払いを求めて再三交渉し、抗議行動を行っている。ウクライナにおける未払い賃金総額は2017年5月1日現在で2兆1,850グリブナ(約8,300万米ドル相当)にも及んでいる。

5.参加者の産別等における特徴的課題

 ウクライナ石炭鉱山労働者独立組合が抱える課題には、上記4.で報告した賃金未払い問題以外にも多くの課題を抱えているが、深刻な問題として安全衛生問題があげられる。
 ウクライナでは2017年に一連の重大事故が発生した。3月2日の国営企業「リヴォフウーゴリ」のステポヴァ鉱山での事故では8人が死亡し21人が負傷した。その他にも、6月に入って「クリヴォイログ鉄鉱コンビナート」のオクチャブリスカヤ鉱山、国営企業「リヴォフウーゴリ」のノヴォドネツカヤ鉱山などで重大事故が発生しそれぞれ死傷者を出している。
 ウクライナ石炭鉱山労働者独立組合は、安全衛生に責任を持つ国家機関の業務改善、国営鉱山での安全衛生確保のための国家予算の拠出、などを要求している。