2016年 ウクライナの労働事情
【ウクライナ自由労働組合総連盟(KVPU)】
オレーシャ ブラズグーノワ(Ms. Olesia Briazgunova)
(広報部長兼青年委員会委員長)
セルギー スティンカ(Mr. Sergii Stynka)
(イズマイル支部青年委員会委員長兼イズマイル市港湾労働者労働組合委員長)
ワシル ジェレベスキー(Mr. Vasyl Zherebetskyi)
(メジリチャンスカ鉱山 石炭鉱山労働者独立組合副委員長)
アラ ブリャーク(Ms. Alla Buriak)
(ウクライナ鉄道労働者自由労働組合連盟書記)
1. 労働情勢
(1)経済・労働をめぐる状況
今、ウクライナは非常に困難な状況にある。ドネツィク州、ルガンスク州が占領され、クリミアがロシアに併合されるという状況になっており、紛争の犠牲者が9,000人以上(クリミア紛争だけによる犠牲者)で、170万4千人が移住を余儀なくされている。こうした中、紛争地域に私たちの労組スタッフ、加盟の医療関係労組の医師や看護師が出向き、ボランティアとして援助の活動を行っている。なお、我々の労働組合メンバーの中にも死亡したり負傷したりしている人もいる。
実質GDPは2013年、2014年はプラス成長であったが、地域紛争の影響もあり2015年にはマイナス成長に転じた。2016年の予測はマイナス9%(ウクライナ中央銀行の予測)となっている。物価上昇率をみると、2013年から2016年までずっと上昇を続けており、ちなみに2015年は40%を超える超インフレ状態にある。最低賃金(月額)の推移をみると、2014年が1,218フリヴニャ(約49$)、2015年が1,378フリヴニャ(約55$)、2016年が1,450フリヴニャ(約58$)と年々上昇しているものの物価上昇に全く追いついていない実態だ。
ILOの算出根拠による失業率は、9.1%となっているが、実際はもっと高い印象を持っている。
なお、雇用にかかわる最も大きい課題として、非正規雇用(非合法な雇用のこと、後述)の問題が挙げられる。
労働組合の組織状況をみると、ウクライナにおける全労働者に占める組合員の割合は30%程度となっている。
(2)ウクライナ自由労働組合総連盟(KVPU)の概況
私たちが所属しているウクライナ自由労働組合総連盟(KVPU)の組合員は約27万人であり、一番規模の大きいナショナルセンターであるウクライナ労働組合連盟(FPU)の約800万人に次いで2番目に規模の大きい組織である。もう一つのナショナルセンターの組合員は約15万人である。私たちの組織(ウクライナ自由労働組合総連盟)に加盟している産業部門は、鉱山、鉄道、医療、交通運輸、教育、化学工業、海運・港湾等である。
私たちの組織の活動目的は、加盟組織の労働に関わる諸々の権利及び社会・経済的な諸権利の擁護、加盟組織の団結と活動調整等となっている。
活動分野としては、社会経済関係分野、労働組合の設立や新しい組合員の加入、国際協力、組合員に対する法的支援、男女平等、青年対策等が挙げられる。青年労働運動にも大きな力を注いでおり、青年委員会を通じて青年の問題を解決し、若い世代の組合員を増やしていく取り組みを行っている。
2. 労働組合が直面している課題
(1) 賃金をめぐる課題
賃金水準をみると、工業全体では平均5,600フリヴニャ(約200$)となっており、工業全体で最も高いのは製薬部門で平均10,200フリヴニャ、最も低いのは縫製・製靴部門で平均3,500フリヴニャとなっている。ウクライナでは賃金遅配の問題も多く抱えている。全国で18億フリヴニャ(米ドル換算で700万米ドル程度)の賃金未払い状態が生じている。
未払い額が最も多いのは石炭採掘企業である。リヴィア州の幾つかの鉱山関係の企業では賃金が未払いのまま閉鎖されることになり、私たちは抗議活動を展開している。
(2) 非正規雇用の実態
ウクライナでは非合法な労働が問題となっている。非正規雇用はウクライナでは就業人口の26.4%にあたる430万人となっており、近年増加傾向にある。非正規雇用とは、法律に違反する形でビジネスを行う、私たちがインフォーマル経済、闇経済と言っている企業等で雇用されている労働者である。例えば、賃金を封筒に入れて、適正な税の申告をしないで、支出入のバランスシートに出てこないような雇用を行い、利益を得ている企業で働く労働者等である(パートや派遣等、日本で非正規雇用と言われているような働き方は、ノンスタンダード、非標準的雇用形態と呼んでいる)。非正規雇用率の高い分野は、農業、林業、水産業、卸売業及び小売業、自動車修理、建設である。
共通社会給付金(雇用者が支払う社会保障負担金)の対象となる被保険者数の減少が続いており、このことからも正規雇用者数の減少が裏づけられる。政府は非正規雇用を減らすため、共通社会給付金の2割削減を行ったが、期待した効果は上がっていない。