2015年 ウクライナの労働事情

2015年7月10日 講演録

ウクライナ自由労働組合総連盟(KVPU)
オレナ・リウング
オクサーナ・ヴォリネツ

 

【武装勢力との戦争続き、経済・社会・労働者生活も混乱】

 ウクライナの面積は、60万3000キロ平方メートル、人口は約4200万人で、ヨーロッパの穀倉地帯として知られている。天然資源に恵まれ、鉄鉱石や石炭など資源を活かした鉄鋼業を中心とした重化学工業が発達している。2014年3月、住民投票によってロシアに編入・併合されたクリミアはウクライナのものであった。
 我々が所属しているウクラナイ自由労働組合総連盟(KVPU)は、27万人を擁している。KVPU以外には、800万人を擁するウクライナ労働組合連盟(FPU)と、15万人の全ウクライナ労働者連帯同盟(VOST)がある。
 KVPUは、1997年に、任意団体として設立・結成され、加盟団体の労働権、社会・経済的な権利を保護することを目的として活動している。我々は、公共関係、鉄道、医療、輸送、教師、化学産業、船員、港湾労働者、飛行機のパイロット、客室乗務員、地下鉄関係などの産業別組織をまとめている。
 KVPUの最も大きな使命は、加盟組織の利益を守ることである。このため、活動を具体的に支援し、情報提供や、活動の運営方法などを指導している。KVPUの主な活動分野は、社会労働問題、労働組合設立、組織拡大、国際協力、組合員への法的支援、男女平等および青年政策などの分野である。
 KVPUが厳しい経済状況にある中で、さまざまな問題、また状況の調整・解決のために積極的に様々な措置を講じている。まずは、労働組合として政府との社会対話、経営者との交渉を行い、対話や交渉だけで解決しない場合は、労働争議・抗議行動やストライキなどを行っている。労使紛争は、2014年の55件から2015年は、現在までに70件と増加傾向にある。
 現在、ウクライナは大変困難な状況に置かれている。そうした中でも最優先とすべき課題がいくつかある。まずは、[1]遅配のない賃金支払い、[2]雇用の確保、[3]社会保障の向上、[4]定年後も働いている人への年金満額支給制度の復活、[5]年金課税の廃止、[7]新しい労働法案採択阻止――などがある。新労働法採択を阻止するために、我々は議会の前で、国民の生活を悪化させ、労働者の権利を侵害する法案を廃案とするよう、議員に訴えている。
 現在、ウクライナ国内は軍事行動がとられているため、2014年の実質GD成長率はマイナス7%に落ち込んだ。2015年末までの見通しは、マイナス19.3%となっている。物価上昇は非常に大きく、2015年は前年の2倍(統計の報告では2014年は40%、2015年は50%の物価上昇)になることが予想されている。
 最低賃金は、2014年(1218フリヴニャ)も2015年(1378フリヴニャ)もほぼ同額となっている。しかし、為替レートが大幅に下落しているため、ドルに換算すると2014年が101ドル(約1万2192円)、2015年は55ドル(約6639円)に下がってしまう。
 ウクライナには非合法の炭鉱で働く不法労働者が多く存在する。非合法の炭鉱では、主に青少年や女性が働いている。非合法の炭鉱は、規模が小さく坑道も非常に狭いため、子どものように華奢な身体でないと通れないため、子どもも多く使われている。そこで働く理由は、生活苦を少しでも楽にするため、家計の足しにするためである。ただし、女性は、坑道の中に入って1000メートルの地下で仕事はせず、地上での仕事が多い。炭鉱では非合法で掘るため、きちんとした設備を使わず、ほとんど手作業で採掘するという労働を強いられており、非常に危険であり、実際に犠牲者も出ている。
 また、「封筒入りの賃金」の問題がある。ウクライナでは、いわゆるインフォーマル経済が60%と言われているが、そこで働いている労働者に「封筒入りの賃金」が多く支給されている。こうしたインフォーマル経済の中で働く人に多いが、社会保障を受けられない労働者が全体の14%、年金を受給できない人も10人に1人となっている。さらに、インフォーマル経済で働く人たちは、銀行の融資が受けられない、ビザ申請の際の収入証明書が出ないなどの問題もある。
 ウクライナで一番競争率の高い職種、人気のある職種は、マネジメント(経営)で、このほか会計・経理、法務関係、輸送部門となっている。一方、人気のない職種は、販売・小売、医療関係、IT部門、保険部門などである。近年、求職者数が増加しており、半年以上職が見つからない人が多くなっている。2年前の統計ではあるが、求職者数は、労働力人口の20%を占めていた。
 最近、ウクライナの東南にあるドネツィク州、最も東に位置するルハーンシク州、クリミア自治共和国からの移住者が増加している。この移住者の中で、就職を希望している人が約11万~12万人おり、移民者として登録された人の数は、約136万人となっており、それらの人々に一時手当金が支払われた。移住者で国家雇用局に行った人の数は約5万1000人となっている。ウクライナの国家雇用局は、24歳未満の青年の支援と、45歳以上の人の雇用の確保である。
 最後に日本政府の支援によって、ウクライナの移住者を対象に実施されているプロジェクトがある。ウクライナ移住者の社会・経済問題に対して迅速な対応を行っているプロジェクトであり、この日本の支援に心からお礼を申し申し上げる。

*1ドル=120.70円(2015年10月27日現在)