2021年 モンゴルの労働事情

2021年12月12日 報告

 国際労働財団(JILAF)では、新型コロナウイルス禍で、2021年11月29日~12月12日にベトナム・モンゴルチームの招へいをオンラインで実施した。そこでモンゴルの参加者から報告された「モンゴルの労働事情」および同提出関連資料に基づき、概要をまとめた。

 

基本情報

 モンゴルは中国・ロシアと国境を接する東アジア北部に位置する内陸国である。首都ウランバートルは北海道最北端よりさらに北に位置している。日本からの距離(首都まで)は3千キロを超え、直行便(成田から)で5時間強かかる。その面積は約156万平方キロ(日本の約4倍)、人口は約335万人、政治体制は共和制(大統領制と議院内閣制の併用)である。モンゴルの独立は1921年の人民革命による人民政府(君主を抱いたまま)の樹立をもって果たされた。君主が死去した1924年には人民共和国として政体を変え、社会主義国が成立する。その後、ソ連・東欧の民主化運動に影響を受け、1992年社会主義を完全放棄し現在の体制へと至っている。言語はモンゴル語(公用語)やカザフ語である。宗教は、民主化(1990年前半)以降、チベット仏教が復活している。主要な産業は、鉱業と畜産業である。鉱業は、地下資源が豊富であり、金、銀、銅、石炭に加え、レアアースやウランも産出する。(モリブデンは世界屈指の埋蔵量)この鉱業収入が放漫財政や汚職、政争を生み出しており、政策が不安定なために、外国投資家に警戒感を持たせている。畜産業は、国土の80%を占める牧草地で、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマなどを飼育している。経済状況だが、2011年のV字回復(17.3%)以降、高い水準を維持していたが、資源ナショナリズムを背景とする国内政策による対モンゴル外国投資の減少や、中国景気の減速、世界的資源価格の下落で要の鉱業が不振となり、2016年には1.0%と低迷した。こうした厳しい状況を踏まえ、2017年には国際通貨基金(IMF)との間で拡大信用供与措置(EFF)の受け入れに合意した。同時に鉱物資源価格に上昇が見られたことで、この恩恵を背景に、GDPの約4分の1を占める鉱工業生産が伸びたことで、2017年GDP成長率は5.3%に回復し、以降も順調な成長を遂げてきたが、新型コロナウイルスの感染拡大で、2020年実質GDP成長率は▲5.3%と厳しい影響に見舞われた。2020年の主な経済指標は次の通り。名目GDP約131.5億米ドル、1人当たり名目GDP4167米ドル、経済成長率▲5.3%、インフレ率2.3%、失業率9.9%(2019年)
 労働者を束ねるナショナルセンターはモンゴル労働組合連盟(CMTU)1つであり、組合員数は23.7万人(2018年11月)である。その歴史をさかのぼれば、1917年に労働組合運動が勃興し、1927年には全国規模の労働組合中央組織が設立されたことに始まる。現在(2018年11月)のCMTUは36の産業別組織と22の地方組織、2245の加盟組合で構成されている。総会は4年ごとに行われている。

◇現場組合からみた労働情勢(2つの報告)

〈報告1:モンゴル鉄道労働組合連盟〉

1.鉄道組合の大半が加盟-起点は1955年の統一労働組合協議会にあり

 そもそもモンゴルの鉄道は、1939年に狭軌の鉄道が敷かれたのが始まりである。1949年にモンゴルとロシア政府の協定締結で、合弁公社ができ、線路が各地へと伸びていった。こうした状況を受け、鉄道労働運動も立ち上がっていった訳だが、現在のモンゴル鉄道労働組合連盟は、加盟16組合で98.5%という組織率を誇っている。専従支部リーダー30名、非専従支部リーダー30名の計60名が日常の活動の要となっている。今日の組織に至る起点は、1955年の統一労働組合協議会であった。もちろんそれ以前から統一に向けての動き(1940年12月最初の組織的会議、1950年8月17日最初の協議会設立、1951年2月20日鉄道会社での労働組合協議会)があり、その後、モンゴル鉄道労働組合協議会(1990年5月12日)を経て、今日のモンゴル鉄道労働組合連盟(1992年6月6日)が誕生したところである。

2.労使関係の基本は団体協約-成果達成に結びつく高い協約締結率

 モンゴル鉄道労働組合連盟が主導する労使関係の基本は団体協約であり、各加盟組合の労働条件改善はこの締結いかんで決することになる。2020年の団体協約締結率は98.8%であり、極めて高い率を達成している。この意味するところは、結束した力で成果達成ができたということである。例えば、鉄道員の給与が過去4年間で10%増加したことなども好例である。しかし、2020年の団体協約締結過程では争議が発生し、協約締結が速やかに締結できず、それまでの協約の期限切れとともに、更新されることもなく無協約状態に陥ってしまった。使用者側はこの機に労働組合側に圧力をかけ、従来実施してきた組合費のチェックオフを拒否し、組合費の徴収が4か月間ストップするとう厳しい対応を経験した。ことほど左様に協約締結は一筋縄ではいかないのである。

3.労使双方に言い分がある争議-決着は話し合いで

 労使の交渉事は、労働側からの一方的な要求というわけではない。当然使用者側からの反論や要求というものが突き付けられる。まず、最近の事例で見てみれば、労働側の要求は、賃金、福利厚生問題の全面解決であったり、労働組合の権利保障を国際条約及び法令によって全て確保すること、また、労働組合の組合費のチェックオフの実施(2項で既述)などである。使用者側も労働組合に対し、労働組合への事務所提供などの便宜供与を拒否するとともに、組合費のチェックオフの拒否をも提起し、また、労働組合側の一部要求の低減を求めるなどせめぎあう形となった。この間、コロナ感染拡大という事態に直面したことで、ストライキなどの手段を行使し得ず、むしろ感染拡大防止の労使協力・連携が必然となり、協約交渉にはむしろいい影響が出ることとなった。こうして社会的連携の中で、難航した団体争議も話し合いでの決着をみることとなった。

4.各種取り組んだCOVIT‐19感染対策-労働者保護を最優先で

 モンゴルでもコロナ感染の拡大は社会各方面に甚大な影響を与えた。労働組合は労働者の保護(勤務や生活面)を最優先に各種取り組みに全力を挙げた。1つは、感染した労働者の賃金の75%の支給、2つには、濃厚接触者として隔離された労働者に対し、賃金の75%の支給、3つには、手当、援助、ワクチン接種、防護用品などの支給、4つには、隔離施設に隔離されて業務を遂行した労働者に対する報奨、5つには、限界隔離体制に関連し、労働者のテレワーク体制への移行に伴う費用の全額支給、などである。

〈報告2:住宅・公共サービス労働組合連合〉

1.70年間の栄枯盛衰-民主化による弱体化・2005年からの組織再拡大

 住宅・公共サービス労働組合連合の組織結成は古く、70年前(1947年)に遡る。とりわけ1947年から1999年までの間は、産別組合として「強い組合」と評判をとっていた。当時は国の機関としては、住宅公共サービス省もあり、社会的に住宅公共サービスへの役割(期待)が認識されていたところである。しかし、民主化(1992年)とともに、住宅公共サービス省は廃止され、計画経済は市場経済へと転換したことで、事業はすべて民営化となった。これに伴い、住宅・公共サービス労働組合連合の活動は弱まり、組織率も低下を辿った。しかし、2005年、力を合わせ労働組合連合を結成し直した。これより16年間、組織拡大の取り組みにより、組織率は上がってきている現状である。その組織実態だが、住宅に関連する134組織のうち、現状43組織を組織化している。(組織率32%)

2.政治が及ぼすマイナス影響-圧力を恐れ労働争議が行われないことも

 住宅・公共サービス事業は民営化といっても、国家を背景とする公社である。モンゴルの常として、政権が替われば国家に由来する事業所などの人事も大幅な入れ替えとなる。労働関係も例外ではない。住宅や公共サービスの運営には専門性や経験が重要となるが、幹部人事は関係する国家機関の関与や影響を排除できない。こうしたいわゆる政治介入に加え、職場でのハラスメント(あなたが辞めても代わりはいくらでもいる、正しい人事評価が下されない、何年経っても昇進できないetc)や、労働争議に関わっての解任などの圧力を恐れ、争議行為を行わないようなマイナス影響が起こっている。

3.紛争の原因は不透明な人事や不当な圧力-幹部任命に政権党の関与や縁故任命も

 2020年から2021年にかけて6件の労働争議が発生した。裁判で4件が勝ちを占め、2件は係争中である。労働争議が発生する最も大きな要因は、2項でもふれたが、政権党が住宅・公共サービスに関係する国家機関(や公社)の幹部人事に介入し、任命を行っている点である。しかも、縁故や友人、兄弟を責任ある役職に任命したり、専門性を要求される役職に専門外の人たちを任命するなど、由々しき状況である。こうしたことから、必然的に労働者側の問題提起(要求)は、多くは、職場における様々な圧力に関する苦情であった。これに対する使用者側からの反論提起(要求)は、労働組合委員長の活動が不明瞭であり、組合の資金を私的に流用しているなど、ゴシップ的な内容が目立った。

4.労使双方の主張の結果は藪の中-認められた労働組合委員長への名誉棄損

 労働側からの苦情(要求)に対し、組織の倫理委員会で協議されたものの、立証できずとの結論が出された。労働側は国の権利義務を実施する上位組織である汚職対策庁へ訴えを提出した。一方、使用者側提起(要求)は、労働組合連合会の管理委員会が状況確認を行ったが立証されるに至らなかった。双方主張(要求)の結果は藪の中となった。ただ、使用者側が行った個人に対する苦情は、名誉棄損に当たると認定され、本件を提出した者へ倫理委員会から懲戒処分勧告が出される結末となった。

5.COVIT-19 感染拡大防止にとられた様々な対策-2021年11月以降対策緩和へ

 モンゴルでは2019年11月以降にコロナウィルス感染症対策として、国全体の隔離措置がとられた。当時の状況と当組合連合が対応した様々な対策は次のようなものである。1つは、感染初期には国境が突如閉鎖され、マスクや手袋の入手が困難を極めたが、その際、女性の労働を支援する目的で、母子家庭のグループが生産した布マスクの購入と組合員への配布を実施した。2つには、コロナ感染症によって生じた状況は、市民にとって未曽有の問題であり、「国が実施している予防のための政策や調整を、自身の組織の特性に合わせて如何に実施すべきか、コロナ感染症とは一体何か、どのような予防をすべきか、使用者及び労働組合の役割や関与は」という内容で、組合幹部や労働安全衛生に携わる人たちに向けたオンライン研修を実施した。3つには、感染拡大第2波の際、組合員の職場における感染予防を目的として、室内の空気中のあらゆる細菌やバクテリアを消毒する機能のあるシナプスUV式空間除菌装置を組合組織に配布した。この紫外線除菌装置は、人が密集する部屋以外にも、会議室や食堂など、全ての必要個所に持ち運び、使用できるメリットがあった。4つには、長期の隔離期間中、組合資金をもとに、低収入や母子家庭世帯に対し食事や食料、及び免疫力向上食品を提供するキャンペーンを実施した。5つには、国家非常事態委員会の勧告に従い、密集を避ける観点から、会議やミーティングをオンライン形式で実施している。2021年11月以降、隔離態勢が緩和され、室内における催しもリスク予防対策を行いながら実施している。