2017年 モンゴルの労働事情

2017年12月8日 講演録

モンゴル労働組合連盟(CMTU)
バトゾリク ジャルクハー(Mr. Batzorig Jalkhar)

モンゴル教育・科学教職員組合 委員長
ブヤンジャルガル クーヤグ(Mr. Buyanjargal Khuyag)
モンゴルエネルギー・地質・鉱山労働組合連盟 委員長
エンカバヤスガラン ドルジ(Ms. Enkhbayasgalan Dorj)
上下水道局労働組合 組合長
アルタンツヤ ヤダム(Ms. Altantuya Yadam)
モンゴル統一労働者組合 組合長

 

1. 基本情報

 日本の約4倍の面積(約156万平方キロ)、人口はおよそ312万人、政治体制は共和制である。(大統領制&議院内閣制)経済成長率は、中国景気の減速や世界的資源価格の下落で要の鉱業が不振となり、直近2015年が2.4%、2016年が1.0%と低迷した。2017年の見通しは一転5.8%としている。その強気見通し理由だが、中国経済への期待感、モンゴル政治状況の安定、IMFからの信用供与の受け入れ、並びに、経済透明性確保という法の制定で、隠れていた闇経済が浮上する(いずれも報告者の見方)などからである。物価は90年代、社会主義体制から民主主義体制へ移行した直後、300%にのぼる高いインフレ状況であったが、近年は経済動向に同軌する形で低い水準となっている。2015年1.9%、2016年1.0%と推移しているが、2017年は6.9%に跳ね上がる見通しとなっている。生活水準のバロメーターである一人あたりGDPは、名目だが2015年4218ドル(日本円換算$=113円と仮定し47万円余)、2016年3857ドル(同様の換算で43万円余)である。最低賃金は、月額で2015年、2016年が192000トゥグルク(円換算で約9000円)、2017年は240000トゥグルク(約11000円)と見通している。労働者を束ねるナショナルセンターはモンゴル労働組合連盟(CMTU)1つである。
 豊富な鉱物資源を抱え、かつての高い成長へと回帰できるのか、モンゴルは正念場の時を迎えているといえそうである。(注)数字は報告者による。

2. モンゴルの労働情勢(全般)

  2015年 2016年 2017年(見通し)
実質GDP(%)
(出典元)
2.4%
4218
(USD、一人当たりGDP)
(国家統計委員会)
1.0%
3857
(USD、一人当たりGDP)
(国家統計委員会)
5.8%
-

(国家統計委員会)
物価上昇率(%)
(出典元)
1.9%
(国家統計委員会)
1.1%
(国家統計委員会)
6.9%
(国家統計委員会)
最低賃金
(時間額・日額・月額)

(出典元)
□時間(1142.86)
□日額(9142.8)
□月額(192,000)
(国家労働社会問題協議
三者委員会2013年
第7号決議)
□時間(1142.86)
□日額(9142.8)
□月額(192,000)
(国家労働社会問題協議
三者委員会2013年
第7号決議)
□時間(1428.60)
□日額(11428.8)
□月額(240,000)
※2017年1月1日施行
(国家労働社会問題協議
三者委員会2016年
第4号決議)
労使紛争件数
(出典元)

( - )

( - )

( - )
失業率
(出典元)
7.5%
(国家統計委員会)
8.6%
(国家統計委員会)
9.1%
(国家統計委員会)
法定労働時間
(出典元)
5時間/日
(労働法第70.2条)
40時間/週
(労働法第70.1条)
時間外/割増率
賃金の1.5倍
(労働法第53.1条)
休日/割増率
2倍
(労働法第52条)

2,443.00トゥグルグ= 1USドル

裁判所で行われた和解事例数、労働紛争
  2014 2015 2016
1 受付数 5 4 2
2 労働紛争 3 2 1

3. 労働を取り巻く現状と課題

(1)度重なる労働法改正により一歩づつ前進する労働環境

 労働法が初めて制定されたのは1925年だが、1990年の民主化体制への移行に伴い、労働法を含めた様々な法律が改正されるところとなった。そして何度かの改正を経て1999年に制定されたものは、それまで国が単独で調整していた労使関係を大きく変えるものとなった。すなわち、その内容は、経済、福祉社会の求めに応じる形で、労働協約、協議、集団労使紛争、雇用主と労働者の労使関係の条件調整、労働管理に関する2者または3者協議についての法的根拠を定めるものとなった。その後さらに労働法は18回に及ぶ改正が行われている。そして、いまなお環境変化に対応すべく改正論議が行われ、これまでになかった新たな内容が組み入れられている。例えば、「単身赴任」「交代勤務」「一斉解雇」「家族を扶養している雇用者」「職場でのパワハラ」「職場でのセクハラ」などの概念がそれである。さらに2017年には、「試用期間」「勤続期間」「時間労働」に関する新たな条項が書き加えられた。長い歳月の粘り強い努力により一歩づつ前進が図られてきているといえよう。
 ただ、度重なる改正にも拘わらず大きな課題が残されている。それは、この労働法が労働契約を結んでいる者のみを対象としている点である。もちろん現状でも、法に扱えない問題(法適用対象外)を論議する場として、3者協議委員会(政府、経営者、労働組合)や産別労働組合における2者協議という仕組みはあるが、インフォーマルセクターに働く労働者、遊牧民のような労働者かどうかあいまいな位置にいる人たちの立場が不安定であることに変わりはなく、改善へ向けた取り組みが求められているからである。今後は、市場経済が求める労使関係を包括的に扱うことができるよう、その適用範囲を拡大し、また、国際規範などにも合わせていくための改革論議がさらに活発に行われることになる。 
 ところで、2018年(1月1日)から、モンゴルの労使関係に関する法律がどのように改正されるかについて触れておく。モンゴルの国会では、今後、定年退職年齢について、2025年までに徐々に65歳まで引き上げるという方針が定められ、これが実施に移されるということである。この他に、個人所得税の改正も行われる。来年1月1日から所得150万トゥグルク以上の人に対し、25%の累進所得税が課せられる。変わるのは労働法ばかりではない。様々な社会制度・規範という地殻がゆっくりと動き始めているようである。

(2)労働現場改善の課題はパートとインフォーマル労働者の処遇改善

 モンゴルの失業率は2015年が7.5%、2016年が8.6%、そして2017年の見通しは9.1%と不景気が続く中、徐々にその数値が高まってきており、懸念されるべき状況である。労働者のうち40%が正規雇用者として働いている。一方、賃金契約はあるものの、労働契約のない弱い立場のパートタイマーの存在があり、課題となっている。さらに、労働者全体(123万人余り)の18%(22万人余り)がインフォーマルセクターの労働者であり、今一つの課題である。
 そこでインフォーマル労働者の実態をデータで明らかにしておきたい。まず性別は、男性57.4%、女性42.6%である。都市部で働く割合は79.2%、地方が20.8%となっている。地方の中身は遊牧民をさしているとみて構わない。対応業種別では、販売・修理・サービス業で45.7%、運輸倉庫業で20%、製造業で16.4%となっている。地方の雇用市場の規模は小さく、生活水準の向上を求めて勢い中央に流れ込んでいる姿が見て取れる。 
 しかし、インフォーマルセクターの労働者は社会保障を得ることが難しいこと、労働安全基準や衛生基準を満たしていない工場等で事故に遭遇する確率の高い現場におかれていること、労働賃金が低いことなど、厳しい環境に立たされている。こうした弱い立場の労働者が増える流れを食い止めるため、ナショナルセンター・組合も様々に取り組みを展開している。例えば、様々なセミナーや研修会を通じ、労働者に必要な法的知識や権利などの情報提供を行っている。また、インフォーマルセクターの労働者向けには、組合への加入を促すため、産業別労働組合の政策や取り組みの柔軟な対応を働きかけている。
 一方、正規労働者の労働条件ではしっかりとした進展が図られている。例えば、モンゴルでは特殊、特別な労働条件はいくつかに分類されている。重労働と有害な職場、温度の高い職場、力仕事を必要とする職場などである。重労働に分類された仕事についている労働者には、年金特例を定めている。これは、通常の労働者の定年退職が男性60歳、女性55歳となっているが、このカテゴリーの労働者は男性55歳、女性50歳で定年退職とされている。この他に、1日の労働時間が通常8時間なのに対し、7時間と定められており、重労働に対する軽減処置が図られている。また、有害あるいは重労働カテゴリーの労働者には賃金の割り増し、高めの水準設定も図られている。この他では重労働と有害、高温職場に対応する労働者に対し、それぞれの環境に応じビタミン剤の給付などが施されている。
 今1つは、同じ正規労働者ながら、海外からの進出企業で同じ職場にもかかわらず、外国人とモンゴル労働者と賃金格差問題が生じている例を紹介しておく。鉱山分野でモンゴル経済は成り立っているが、その分野にもグローバル企業が進出している。リオ・ティントという世界的な鉱山企業がその賃金差を巡って問題視されている。また、モンゴル人の労働者間でも、正規雇用者と請負業者の下で働く労働者との賃金差が拡大している。一喜一憂することなく、現場で発生・直面する様々な問題を1つ1つ解決していかねば展望は開かれない。正規労働者への厚い処遇の進展が全ての労働者に及ぶよう、また、海外企業との融和的協調の中で労働者の尊厳をどう順守させていくのか、まだまだナショナルセンター・組合の挑戦は続く。

(3)ナショナルセンターが抱える5つの課題-足を引っ張る政府の対応

 移行期を経て現在では市場経済体制が大きく動き出している中、労働環境も急速に変わっていく過程にある。ナショナルセンターとして、こうした変化に対応すべく以下の5つの課題に果敢に取り組もうとしている。1つは、労働が正当に評価され、収入の格差が解消されるよう、契約や協議を促進すること。2つは、組合員の輪を広げ、社会との交流を進め、組合サービス内容の拡充を図ること。3つには、各職場で適切な労働条件を整えるため、労働の集約化や共同作業の推進、労働管理の改善を図ること。4つには、労働組合の各レベルで活動する人材の更なる育成を図ること。そして、最後5つには、労働組合の財政力・資金力を高めること、である。
 こうした課題を克服する上で3者協議の実を上げなければならず、効率化が求められている。しかし、近年、毎年政府が変わり、内閣が変わることから、協議の内容や契約の内容が定まらず、足を引っ張られ大きな問題となっている。

(4)モンゴル労働組合連盟(CMTU)2030年に向け開発プログラムを提起

 CMTUは第22回大会で規約を改正するとともに、2017年~30年までの開発プログラムを提起した。規約改正の主な点は以下の通りである。①新規に加盟を希望する組織は、自己資金で活動可能な組織のみ受け入れるという条件を加えたこと。②各会員組織は、CMTUから当該分野の労働争議及びその他の活動について、支援を受ける権利があることを追記したこと。③CMTUの幹部、加盟組織のトップは、労働組合の選挙について全権を有する期間中は、いかなる党の幹部、選挙役員の地位を兼任してはならないこと。④CMTUの組合員には、パートタイマー、シニア労働者も加入することができる旨を追記したこと。⑤CMTUの規約を改正(50%以上)する点について、CMTUの拡大理事会(拡大会議の構成をいかに拡大すべきか、議題はその都度、総理事会の会合で決議する)によって話し合い、代表者の4分の3以上の賛成を得て可決することを追記したこと。
 CMTUの2017年~30年の発展プログラムによって、以下の5つの目標が掲げられた。
①適切な労働方針、安定的で行き渡ったグリーン経済(環境にやさしい経済、持続可能な開発・発展を実現する経済)の発展を促すことによって、国民、労働者の実収入を増加させる。②各職場の環境を確実、健康的で安全なものにする。③労働者の団結権を保証し、労働組合の活動を強化させる。④労働組合の組織構成を整備し、人材育成を強化する。⑤資金力を増強し、分配を適切に行う。CMTUの本気度が問われ、それに応えるべく粘り強い取り組みが始まる。