2015年 カザフスタンの労働事情
カザフスタン労働組合連合(FPRK)
サウレ・イリヤソワ
パキトクル・サパルバエワ
【好調な経済、賃金、雇用も改善、自営業者のフォーマル化が課題】
カザフスタンは、石油、天然ガスなどのエネルギー資源と鉱物資源に恵まれた資源大国であり、産業構造も資源・エネルギーの比重が大きい。ロシア、ベラルーシ、アルメニア、キルギスと経済統合をめざすユーラシア経済同盟(EEU)に参加している。
カザフスタンでは、毎年のように最低賃金や平均賃金が上昇するとともに、最低生活費、年金、社会手当も増加し、労働人口、就業人口も増加している。2014年のカザフスタンのGDPは、2010年と比較して1.7倍に増え、一人当たりGDPは1万2200ドル(約147万2540円)となった。平均月収も5年間で1.5倍に増え、2014年には12万400テンゲ(651ドル=約7万8576円)となった。2014年の最低賃金は1万9966テンゲ(108ドル=約1万3036円)、2015年は2万1364テンゲ(115ドル=約1万3881円)に引き上げられた。最低年金支払い額は1.9倍に増え、貧困レベルも下がった。しかし、現在カザフスタンの最低賃金額は平均賃金の約18%に過ぎず、明らかに労働の実質価値に見合っていないのが現状である。
2014年の労働力人口は910万人で、就労人口が860万人、そのうち雇用労働者が610万人となっている。失業率は過去5年で5.8%から5.0%に改善された。
カザフスタン政府と労働組合は、「雇用ロードマップ2010」というものを作成・実施している。この目的は、安定し、充実した雇用を創出することによって、国民の福祉・生活の向上を目指すことにあり、自営業者、失業者、低所得者を対象に実施している。具体的な内容は、[1]職業訓練の実施、[2]就職のあっせん、[3]起業支援――などである。居住地での起業が難しい場合は、経済ポテンシャルの高い地域への自主的移住も支援する。
このプログラムは2009年から実施されており、インフォーマル経済で仕事をする自営業者をフォーマル経済に組み込むために、一定の成果をあげている。経済危機が起きても、このプログラムにより失業率の上昇を抑えることができ、現実に失業率は下がっている。
危機の時に、雇用を維持するために有効な手段として、使用者と結ぶ覚書がある。近年、6万件以上の覚書が調印されており、企業全体の38.6%がこの覚書を締結している。
また、FPRKとしても、相互協力に関する覚書を提案している。これは、労働法を遵守させるためのものである。具体的には、生産の一時停止による休業や労働時間が短縮された時などでも、労働法を遵守し、休業中の労働者に対して賃金の50%を保障するというものである。
260万人にもなる自営業者の置かれている状況は、引き続き困難な状況にあり、緊迫している。自営業者の大部分は、社会保障や社会支援制度の対象外となっている。労働組合は、このようにインフォーマル経済で就業している人たちを、フォーマル経済に移行させることを、さまざまなレベルで提案している。
カザフスタンでは、社会・経済分野のさまざまなプログラムが実施されている。2010年~2014年には、産業イノベーション強化プログラムが実施され、7万4000人の雇用が創出された。さらに、2015~2019年の間には、2万9200人の雇用創出が見込まれている。 新経済政策「Nurly Jol」においても、20万人への就職機会を提供するものとなっている。
また、新しい『労働組合法』が採択され、これに基づきFPRKは、構造制度改革を実施しており、傘下すべての産別、地方組織、そして1万8000以上の労働組合にも及ぶものとなっている。
労働組合の近代化にとって重要な点は、産別組織の大規模化と機構改革である。FPRKに加盟する220万人の組合員を、5年計画で24の産別組織から17産別組織に改編・統合する予定である。このような組織改編によって、労働者の権利及び利益をより効率的に擁護できるとともに、労働組合の立場や権威が強まることとなる。
労働安全衛生は、労働者の活動の最重要要素である。カザフスタンの企業では、労働安全衛生管理に、国際基準に基づく新しいシステムを導入している。現在、カザフスタンには、国家労働インスペクター(監督官)は258人いるが、この人数では、16万7000ある企業の労働現場の安全衛生を保証することはできない。また、労働現場で労働者を守る役割を果たしている1万8000人以上のパブリック・インスペクターは、しかるべき権限を与えられておらず、現在我々は、パブリック・インスペクターの役割強化策を提案している。
労働者の労働条件および健康状態が好ましくない原因の一つに、老朽化した設備の使用がある。一部の使用者は、生産設備の近代化および更新に投資を嫌がることと、労働安全衛生基準に対するルール違反がある。我々の目的は、社会的パートナーと共に、使用者が効率的な労働安全衛生制度の構築に経済的関心を持つようなメカニズムを立案し実行することである。
最近行われたFPRK第24回総会で、次の三つの決議が採択された。「尊厳ある必要最低限生活費の額を保証する」「労働組合は安全な労働を支持する」「労使紛争の予防及び調整は時代の要請」。これらの宣言により労働組合は、現状を変え、行動を統一して活動を続け、そして労働者が尊厳ある生活を送るための環境を作るという決意を示している。
最後に強調したいのは、市場社会の社会・労働関係においては、まさに労働組合が、回避できない矛盾や紛争さえも建設的な解決へと軌道修正するために、社会的緩衝材の役割を果たしているということである。
*1ドル=120.70円(2015年10月27日現在)