2013年 ザンビアの労働事情
ザンビア労働組合会議(ZCTU)
コスマス・ムスカ(Mr. Cosmas Mukuka)
副事務局長
1.ザンビアの政治情勢
政権に就いた愛国戦線党(Patriotic Front - PF)は、党上層部の権力闘争により、党の結束が乱れ、国民や各機関から内政問題の解決に関して懸念が沸き起こる事態となっている。PF党は公約が決め手となって2011年の選挙で勝利を収めたことを理解すべきであり、国民や国際社会の信頼を得るには、公約の実現が不可欠である。国内の高い失業率と貧困は早急に対策をとる必要がある。政府に対し、国家発展を犠牲にして権力闘争を続けてはならないということを一貫して再認識させていくことがザンビア労働組合会議(ZCTU)としての責務である。
野党から与党へ鞍替えする国会議員の増加により、補欠選挙の回数は前例を見ないものとなり、選挙の実施が国の財政に大きな負担となっている。選挙前にはコスト削減を行ない効率的な政府を維持するとした公約を違える政権の下で、労働運動は議員の職務態度の改善を求めている。
2.社会経済情勢
2012年度末におけるザンビアのGDP成長率は7.3%で、年間インフレ率も同程度の幅で増加した。GDPの成長は主に建設セクター(15.3%)、鉱業・採石(13.2%)、農林水産業(7.1%)および金融セクター(12%)によるものであった。9月末の年間インフレ率は8月の7.1%から0.1%の下落を記録した。2013年4月末までには、3.8%の食品インフレだけでインフレ増加率全体の50%以上を占めた。これは、今年4月の政府による燃料とトウモロコシの助成金が撤廃されたことに起因するものと考えられる。この政策措置が連鎖反応を起こし物価の高騰に繋がる恐れがあるとして、ZCTUと他の利害関係者は燃料とトウモロコシの助成金撤廃を非難した。
2013年2月、政府は『ザンビア銀行法』を改正し、外国為替に対する規制策を導入した。この対策は、外国為替および送金における効率向上をめざしたものであり、特に物品の輸出入、サービスの国際取引、非居住者による国際送金、株式および債権の形での出資、非定住者へのローンに対する元本および利子の収益、そしてザンビアに出入りする国際送金を監視することに主眼を置いていた。さらに政府は、金融サービス事業者が銀行取引に課す利子やその他の料金に係る最大率を規定する規制策も導入した。政府は全銀行に対し、平均9%の政策金利を規定した。この規制策は銀行の貸出利率を引き下げただけでなく、銀行間の貸出利率を約18.5%に軽減させた。ZCTUはこの政策を歓迎した。一方、10%を下回る安定したインフレ率がかなりの長期間に渡り続いているにも関わらず、銀行の貸出利率が高いままであることに関してZCTUは懸念を抱いている。外国為替規制策は変動しやすい為替レートを安定化させると期待されている反面、ザンビアの通貨であるザンビアクワチャはドルなどの主要国際通貨に対して下落を続けている。
3.ザンビアの労働情勢
ザンビアの被雇用者人口は計538万6118人で、そのうち55.8%が農業セクターに従事し、44.2%が非農業セクターとなっていた。被雇用者のうち、88.7%がインフォーマル部門で、フォーマル部門の職業に就いている者は11.3%であった。2008年から2012年にかけての失業率は7.9%に留まっていたが、若年者(15~24歳)の失業率は2008年の14%から2012年には15.3%に増加した。
課題の一つは、近年投資が増加する鉱業セクターで雇用創出が見られないことである。鉱業セクターがザンビア経済の中軸となっている反面、雇用される労働者は9万人程度となっている。一方で農業は、総雇用率の70%以上を占め続けている。この状況は経済の多様化を進める必要性を示している。成長が持続し、雇用創出と貧困削減を推し進めることができれば、今後の経済的見通しは明るいと言える。
労使関係の問題では、民間のメディア産業の経営者が従業員の労働組合結成に難色を示していることがある。民間のメディア団体の中には深刻な財政問題を抱えているところがあるのも事実だが、労働組合と交渉したくないことを理由に組織化を阻んでいることに懸念を抱いている。これは明らかにILO第98号条約(団結権及び団体交渉権条約)に違反する行為である。
『労働法』の改革は2012年初頭に開始され、ZCTUは当初の段階から協議に参加してきた。ZCTUは協議会に対し、『労働法』の単独法規、『労働法(特別規定)』、『最低賃金および労働条件法』、『若者および児童の雇用に関する法律』を提言した。また『労使関係法』を独立した法規とするよう提言を行なった。このことは、労働市場の制度と当局の役割・権利に関するすべての規定を一元化する『労働制度法』を導入する提議により支持されることとなった。
2013年初頭に青年委員会が発足し、能力構築と強化ワークショップが開催された。これは青年に労働組合の活動や、労働組合の運営に関わる法律の知識を得ることに焦点を当てたものである。国際労働機関(ILO)に青年労働者政策の構築に関して財政支援を求め、行動計画を策定することにより、青年の期待に応えることができると考える。また、ZCTUは児童労働政策を策定し、予防に焦点を当てた児童労働の排除をめざす闘いを拡大している。児童労働のリスクや危険性、悪影響に関する意識啓発に乗り出した。
4.労使紛争の事例
賃金の格差是正を訴えストライキに参加した看護師達が、ZCTUによる要請の後、誠意を持って職場に復帰した。マイケル・サタ大統領は、この看護師達がストライキを中止したことを賞賛し、彼らの要求を政府が検討することを約束していた。しかし、政府は最終的に彼らを解雇した。現在、ZCTUは保健省に対し政府決定の撤回と解雇された看護師達の職場復帰を求めている。政府による看護師達への今回の決定は悪い先例となり、雇用主達は政府を見習い、従業員を解雇し始めるだろう。また、政府はザンビア最大の雇用主であり、その行動が小規模雇用主に影響を与えることも忘れてはならない。
5.新憲法
PF党は、政権に就いたら90日以内にザンビア国民主導の憲法を制定するという公約を掲げた。総選挙で勝利を収めた2011年に直ちに着手されることになっていた。しかし、2年が経過し、政府が巨額の資金を注ぎ込んだ現在でも、検討プロセスは完了していない。さらに懸念されるのは、マイケル・サタ大統領が国民に対し、新憲法制定の必要はなく、既存憲法の一部改正で十分であると述べていることである。