2016年 チュニジアの労働事情

2016年11月11日講演録
チュニジア労働総同盟(UGTT)
ドウハー・アルファーウィ・クーキ
テレパフォーマンス労働組合 書記次長
ガイス・ナフティ
ベンアロース支部 青年委員会コーディネーター
 

1.当該国の労働情勢(全般)

  2014年 2015年 2016年(見通し)
実質GDP(%)
(出典元)
476億1000万ドル
2.3%
(世界銀行)
430億ドル
0.8%
(世界銀行)
530億ドル
1.8%
(世界銀行)
物価上昇率(%)
(出典元)
4.9%
(世界銀行)
4.9%
(世界銀行)
4%
(世界銀行)
最低賃金
(時間額・日額・月額)
(出典元)
□時間(1.450)
□日額(12.304)
□月額(320)
チュニジア・ディナール
(チュニジア官報)
□時間(1.625)
□日額(13.000)
□月額(338)
チュニジア・ディナール
(チュニジア官報)
□時間(1.625)
□日額(13.000)
□月額(338)
チュニジア・ディナール
(チュニジア官報)
労使紛争件数
(出典元)
公的部門のストライキ
268件
(社会問題省)
公的部門のストライキ
161件(約40%減)
(社会問題省)
公的部門のストライキ
46件(約70%減)
(社会問題省)
法定労働時間
(出典元)
8~10時間/日
(労働法)
40~48時間/週
(労働法
時間外/割増率
25%
(労働法)
休日/割増率
100%
(労働法)

 チュニジアの社会調査研究センターが作成した最新の報告書によると、2014年の非正規労働者の割合は32%で、100万人を超えており、その大半は若者で、社会保障を受けられていない。
 また、国際労働機関(ILO)から最近発表された報告によると、75%の若者がインフォーマル・セクターで働いており、密輸や正規ルートではない商取引、建設労働者、不動産の警備員の大半が含まれるほか、農作業に従事する日雇い労働者や、家事労働者、路上の物売りなどが挙げられている。
 さらに、ディーセント・ワークに反する労働条件の悪化(民間部門での不安定雇用等)が挙げられる。すなわち、更新は可能であるが有期での雇用契約が結ばれ、労働者の権利が十分に保証されないケースが、民間の小規模事業所において増加している。

2.労働組合が現在直面している課題

  • 2014年1月27日に制定された憲法の内容に抵触する現行の労働法の条文改正:新憲法では、国際的に認められた基準での権利や自由を保障しているが、現行の労働法の条文は古いままのため、憲法の内容にそぐわないものとなっている。
  • ディーセント・ワークに反する労働条件やインフォーマル・セクター経済の防止
    チュニジアではインフォーマル・セクター経済の占める割合が非常に高く、こうしたものをいかにフォーマル経済として取り込んでいくかが大きな課題となっている。
  • 対話の原則の徹底: 政府は、チュニジア労働総同盟(UGTT)の代表者との間で、2016年から2017年にかけて賃金の引き上げに合意したが、これまでのところ履行されていない。
  • 憲法で労働組合の権利が保障されているにもかかわらず、多くの民間事業主は、労組との協議を拒否している。
  • UGTTの国際的な地位が高まっており、組合としての活動をそうした地位に相応しいものに改め、発展させていくこと

3.その課題解決に向け、労働組合としてどのように取り組もうとしているのか

 UGTTは、2013年に経営者団体であるチュニジア商工業・手工業経営者連合(UTICA)および政府との三者間で締結した「社会協定」の履行に取り組んでいる。この協定は、社会保障の充実やディーセント・ワークの実現など、労働者の期待に応えるべく、新たな発展のための施策を決める取り組みに、三者が共同でコミットしたものである。現在、UGTTのイニシアティブに基づき、運営面および財政面において独立性を保ち、三者の代表が平等の立場で参加する「国民社会対話協議会」の設立に取り組んでいる。設立のための法案の施行が、近く待たれている。
「国民社会対話協議会」は、次の基本的事項に取り組む。

  • 2014年制定憲法の条文に適合するよう労働法の条文を改正する。
  • 社会経済開発に取り組む。
  • 企業の継続と発展を確保しつつ、雇用機会を創出する。
  • 連帯と均衡を保障する強固な経済の確立
  • 社会的安定のための労働紛争の解決
     また、UGTTの組織内において、幹部の能力開発のための研修コース拡充や、外国の労組との関係構築ならびに技術や経験を通じた交流などの取り組みが続けられている。

4.その他

 UGTTは、半世紀にも亘るチュニジアのあらゆる歴史的変化に対峙してきただけではなく、国家独立の実現に貢献したことに始まり、2011年1月14日のジャスミ革命と、その後の難局への対処で示したとおり、多くの場合において変化の担い手でもあった。
 UGTTのイニシアティブで実現した「国民対話」は、革命後の政治情勢が危機的な状況に陥ったことを受けて、UGTTを始めとする国内の4つの団体で構成された「国民対話カルテット」が、「国民対話」を主導した。「国民対話」を実現したことで、シリア、イラク、リビアをはじめとする一部のアラブ諸国で見られたような内戦の勃発や、イスラム主義勢力の政権に対する軍事クーデターの危険を回避した功績に対して、国民対話カルテットは2015年のノーベル平和賞を受賞した。
 こうした取り組みは、理性に基づく対話の精神が、偏狭で閉鎖的且つ独善的な思考に打ち勝ったという点において、類まれなるものである。ノーベル平和賞の受賞は、国家を発展させるために何としても革命のプロセスを成功させようというチュニジア国民の尽力に対して、栄冠が送られたものにほかならない。

*1チュニジアデナール=49.7685 (2017年2月1日現在)