2012年 モロッコの労働事情
モロッコ労働組合(UMT)
サナーア アルムナディフ(Ms. Sanaa EL MOUNADDIF)
モロッコ労働組合(UMT)執行委員
1.労働情勢(全般)
モロッコでは、労働者の産業別の構成に変化をきたしており、また格差も広がっている。これは、資本主義的な傾向が強まったことにより、工業部門では毎年数千人単位の職が失われている。また、農業部門の労働者は冷遇されて不安定な状態に置かれている。これは農業公社の民営化の結果によるもので、大土地所有者が競争や悪天候を口実に、労働者に対する搾取を行ない、彼らを保護する法律の法制化を妨げているからである。一方サービス部門については、近年多くの雇用機会を提供している傾向がある。しかし、サービス部門でも業種による格差が明確に出ており、多国籍企業が余剰利益を国外に移転しているという現実もある。こうした多国籍企業が拠点を置くところでは、労働者を派遣する会社が強く関与しており、派遣会社のもとで、労働者は非常に不安定な状態となっている。
2.労働組合が現在直面している課題
現在、モロッコの労働組合はさまざまな問題を抱えている。まず一つ目に、階級間対立の先鋭化、激化という問題がある。そして二つ目には、労働者階級に対する搾取の強化や国家資源の略取で、帰属が曖昧な土地や財産に対する占有と独占を一部の勢力が行なっており、富が一部の人たちに集中しているという状況がある。三つ目は、経済危機による社会・公共サービス、保健や教育といった分野で、費用を圧縮しようとする圧力がかかっていることである。また、所得に対する新たな課税制度が貧困化を招き、中流階級を中心に強い抗議行動が起こっている。その他の問題としては、労働基準が尊重されず、労働組合や労働者の正当な権利と成果が後退していることや世界的な経済危機と「アラブの春」の影響もあり、モロッコでは「2月20日運動」が結成されて、社会的な要求を掲げた人民蜂起が行なわれていること、さらには独占と排除、そして失業に対して若者たちによる抗議行動が展開されていること――などがある。
3.モロッコにおける民主化と労働組合への影響
生産・サービス部門において教育を受けた若年層および女性の割合が増加してきたことで、モロッコの労働組合運動はダイナミズムを帯びるようになってきた。さらに「アラブの春」による政治的・経済的な変化と、民主化が広まる中で、モロッコでも「2月20日運動」が誕生して組織的な運動が数多く行なわれた。そのうち最も代表的なものが、2012年3月27日のデモ行進である。こうした組織的運動の結果、保健・運輸・教育など、さまざまな分野で大きな改革が成し遂げられた。そして経済的・社会的自由をうたった新憲法の下で、制度改革が今後一層進んでいくことが期待されている。
4.民主化の下での労働組合活動
新憲法にはさまざまな自由や権利がうたわれているが、それらを現実のものとするためには、具体的な立法が必要である。この新憲法に基づき、組合運動の自由、男女平等、若年層への考慮などを実践していくことが求められている。
中東地域および北アフリカ諸国全般において、民衆の抗議運動が激しさを増しており、一部の国々では政権が倒れるなどして成果を上げているという側面もある。こうした周辺国の活発化した運動により、モロッコ国内でも政治的・社会的な権利のレベルを高めて成果を手にしようという意識が高まっている。
今後民主化を進めていく上での課題として、一連の運動の成果を確固たるものにしつつ、社会的な対話を通じて前進させていくことが肝要である。また、男女平等の実現、女性差別の撤廃も必要である。そして、新憲法の制定を受けて、労働組合に関する法律を新たに制定していかなければならない。
モロッコ労働組合(UMT)は、政府側の強硬な態度に対しては、対話の場から撤退し、実際にデモやストライキを行なうなど、さまざまな活動を行ない民主化に向けた対抗措置もとってきた。またUMTにとっては、パレスチナ問題は非常に重要な問題であり、国際的な場面でもパレスチナ国民に対する連帯や、その権利に対する支持を表明している。
5.中東・アフリカ北部地域における民主化の現状
中東・アフリカ北部地域では、独裁体制に対する革命の後、社会の中でも政治の中でも根本的な変化が生じつつある。この変化は、国民の信頼に応え、国民の利益のために真摯に行動する体制、すなわち真の民主主義を定着させる体制を確立する必要を国民が自覚し始めたことによりもたらされたものである。「アラブの春」は、アラブの青年層の文化的・社会的な成熟度合いをはっきりと証拠づけるものであった。経済危機、独裁体制、貧困などから生じた問題に対して、若者たちがどのような認識を抱いていたか改めてあぶりだした。「アラブの春」はまた、国内的な要因だけで起こったものではない、そこには、外国からの介入とか、影響・干渉といったものも、必ずあったと感じている。
6.ナショナルセンターと政府との関係
UMTと政府との関係については、両者は対等な立場にあるという原則のもとで、UMTが独自の決定権を持つことが大前提となっている。そうした上で、信頼性や透明性を確保しつつ、対話によって双方の意見を交わして合意をめざしている。