2017年 ケニアの労働事情
ケニア労働組合中央組織 COTU(K)
フィリップ・クウォバ・アルフレッド
COTU青年委員会委員長
ジャクリーン・ワンブイ・ワマイ
ケニアホテル・教育・病院職員組合 労使関係担当役員
1.ケニアの労働情勢(全般)
2015年 | 2016年 | 2017年(見通し) | |
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実質GDP(%) (出典元) |
5.7% (2017年経済白書) |
5.8% (2017年経済白書) |
6.0% (2017年経済白書) |
物価上昇率(%) (出典元) |
6.6% (2017年経済白書) |
6.3% (2017年経済白書) |
6.8% (推定) |
最低賃金 (時間額・日額・月額) (出典元) |
□時間( ) □日額( ) □月額(10,954) (ケニア官報通知) |
□時間( ) □日額( ) □月額(10,954) (ケニア官報通知) |
□時間( ) □日額( ) □月額(12,925) (ケニア官報通知) |
労使紛争件数 (出典元) |
データなし ( ) |
( ) | * ( ) |
失業率(%) (出典元) |
11.29% (世界銀行) |
11.00% (世界銀行) |
12% (世界銀行) |
法定労働時間 (出典元) |
8時間/日 (雇用法) |
40時間/週 (雇用法) |
時間外/割増率 (時間給の2倍) (雇用法) |
休日/割増率 (時間給の2倍) (雇用法) |
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通貨名:ケニアシリング(KSH) 103ケニアシリング=約1ドル(2017年5月30日現在)
*労使紛争件数は政府も組合も統計を取っていない。組合の中の研究者によると、裁判に持ち込まれるものだけでも年間1,000件以上ある。
2.労働法制、社会保障の特徴
基本法となる憲法の下に、雇用法、労使関係法、労働制度法、労働安全衛生法、労働障害給付法の5つの労働法がある。
雇用法は最低労働条件を決め、労使双方の権利と義務を定めている。労使関係法は労使紛争の解決手段、解決プロセス、組合結成の条件、団体交渉についても定めている。労働制度法は労使紛争の解決手段や労働基準監督について定めている。労働安全衛生法は労働現場で起きた事故に関するルールで、労働障害給付法は労働災害に支払われる補償が決められている。
社会保障制度には、国民社会保障基金(退職年金と傷害保険)と国民医療保険基金の2つがある。
3.不安定雇用の問題とインフォーマルセクター労働者の現状
日本に来て、非正規労働者とは有期雇用、契約労働、パートタイマーであり、いわゆるインフォーマル労働者とは違うことを理解した。ケニアではインフォーマル労働者は法律で保護されておらず、2016年の統計では1,330万人、雇用全体の83%を占めている。インフォーマル労働者は不安定な雇用形態で働く人であるが、使用者と雇用関係を確立できていないために、労働法が適用されない。組合への組織化も困難という問題がある。
4.労働組合の直面する課題と取組
課題の1つはインフォーマルセクター労働者が増えていることである。労働組合としては、このような労働者をフォーマル経済に移す努力を続けている。
もう1つの課題は、給与報酬委員会が労働協約を規制する行動をとることである。給与報酬委員会とは政府の委員会で公務部門の給与を決める機関であるが、公務員組合の交渉結果の労働協約に介入するという問題がある。現在、労働組合は裁判に訴えており、雇用裁判所で係争中である。
失業率が高い中で、インフレ率も上がっていることも問題である。
ケニアの労働法を守らない多国籍企業が多く、組織化も難しい。労働法違反のケースは裁判で闘っている。ケニアの工場を閉鎖して他の国に移す例もあり、雇用を確保するために、使用者を巻き込んで話し合いが続いている。
さらにもう1つの課題としては、組合自身の組織化能力やの調査・研究能力の構築の必要性が挙げられる。これについては、国際的な組合間の協力やNGOとの連携・協力が重要になる。
5.その他の特徴的問題
ケニアには4つの民族、44の部族がある。部族が政治に深く関わっており、政治を混乱させている。部族毎に支援する政党、候補者があり、部族間の争いが起きてしまう。最近の選挙では、選挙結果が無効とされ、再選挙が行われることになったが、今後は野党が選挙をボイコットする事態が起きている。対立する部族の影響の強い会社の製品を買わないという不買運動にまで発展している。政治の不安定が根本にあり、それがビジネス、経済にも悪影響を及ぼし、悪い意味で雇用問題に跳ね返ってしまう。