2013年 ケニアの労働事情

2013年12月13日 講演録

ケニア労働組合中央組織(COTU (K))
ダマリス・ワンジル・ムヒカ(Ms. Damaris Wanjiru Muhika)

教育担当

 

1.ケニアの労働情勢(全般)

 ケニア経済は農業が中心で、経済成長率は4.4%である。最近、ケニア北西部のトゥルカナという地域で石油が新しく発見され、これによってさらにケニアの経済成長が強化されるのではないかという展望が見えてきている。
 2010年に新憲法が公布され、複数政党の民主主義が存在している。今年2013年3月には、平和的に総選挙が行なわれた。現在、地方分権化が進行中で、できるだけ権限を地方に移譲していくことが加速している。
 最近、生活必需品に対して16%の付加価値税が導入され、特に低所得者にとって厳しい状況になった。燃料の価格も上がっており、大半の労働者、特に低所得層の購買力が落ちている。
 労働状況に関しては、ケニアにとっては、社会的保護とすべての者に対してのディーセントワークを実現するということが大きな目標になっており、ILOとともに、連携をとりながら進めている。
 ケニアのナショナルセンターであるCOTU (K) にはケニア経済のあらゆる部門を代表する合計36の労働組合が加盟している。ケニアの労働組合は産業別組合であり、いずれの産業にも労働組合は一つしか存在しない。2011年5月21日にはCOTU(K)の選挙が実施され、すべての幹部が無投票で再選された。これは、労働運動によってケニア人に新しい労働関連法がもたらされ、その運動が国の改革プロセスにおける懸命な取り組みを通じて新憲法制定の中核を担った過去5年間の成果によるものである。COTU (K)は、国民社会保障基金、国民健康保険、エネルギー規制委員会など三者構成の場に労働者の代表として参加している。
 ケニアには、特に労働争議関連の問題を扱う労働裁判所と一体となった強力な政労使三者協議システムがある。プロセスを加速させるよう政府に圧力をかけながら、COTU (K) は新憲法の実施において先導的役割を担い続けている。

2.労働組合が現在直面する課題

 第1には、高い失業率である。現在、失業率は40%、貧困率は46%にまで高くなっており、さまざまな面で不安定さが生じている。
 第2には、労働組合員の減少である。これは経済のフォーマル部門が縮小し、逆にインフォーマル部門が拡大していることによる。
 第3の課題は、労働契約の短期化、アウトソーシングの増加である。特に多国籍企業が進出し、このような手法を使っている。
 第4の課題は、社会保障が不十分な点である。国民社会保障基金の三者構成の委員会には、労働者の代表としてCOTU (K)が参加してきたが、3ヵ月前にCOTU (K)を閉め出す案が提出された。しかし、COTU (K)の抵抗や政府との対話、ロビー活動を通じて 働きかけたことにより、引き続き参加できることになった。
 第5の課題は、グローバリゼーションが進み、ケニアに非常に多くの多国籍企業が進出していることである。このような多国籍企業に頻繁に見られる問題としては、労働法制、労働法規を遵守しない点、脱税、さらには不当な税金控除期間を享受していることがある。
 第6の課題は、非常に高い生産コストの状況がある。特に、電力などのエネルギー価格が高く、企業の収益が下がり、結局、労働者に対して支払う賃金も低いものになっている。また、高コストの状況を考慮した投資家は、例えばエチオピアなどの他のアフリカ諸国に投資を回し、ケニアを出て行く、あるいはケニアを通り過ぎてしまうという事態が起きている。
 第7には、ジェンダーに関しての関心が薄い、認識度が低いという課題もある。

3.課題解決に向けた取り組み

 労働者に影響を及ぼす主な問題に対しては、政府と使用者を共に関与させることである。また、労働組合など、友好的な組織から研修のための資金を結集させていく必要がある。

4.ナショナルセンターと政府との関係

 アウトソーシングや下請契約が進む中で、労働者がフォーマル経済からインフォーマル経済へと移っている。グローバリゼーションによって雇用機会の縮小や不安定雇用がもたらされた。最近、社会的パートナーは、労働関連法がILO条約に見合ったものとなるよう、見直しを実施した。

5.多国籍企業における労使紛争

 アメリカ議会で可決された『アフリカ成長機会法』(注)に基づいて、多くのアメリカ系企業がケニアの輸出加工区(EPZ)に進出している。これらの企業には、場合によっては最長10年間にもわたり税金控除期間が与えられる。ケニアの『労働法』を遵守しないだけではなく、脅しなどを使い労働者の労働組合結成を阻んでいる。
 もう1つの例として、ケニア国内のさまざまなインフラ整備事業に、中国から建設関連の企業が進出してきている。そこでは、職場での労働安全衛生が守られていない。同時に、労働者に対して、労働組合に入らないように圧力をかけ、脅迫しているなどの問題がある。
 インドからもかなり投資が入ってきている。インドの企業が投資をしている部門は園芸関連が多い。そこでも相当数の労働紛争が起きている。このような多国籍企業は、税の控除期間が非常に長い。労働組合としては、NGOや市民団体などと連携しながら、政府に対して控除期間の短縮あるいは完全撤廃を働きかけている。

*アフリカ成長機会法:(African Growth and Opportunity Act=AGOA)
アフリカ諸国との貿易促進を目的として2000年5月に制定された米国の法律。法律の適用対象諸国は、自国が精算した製品を原則無関税で米国へ輸出することが可能となり、アフリカ側の輸出産業を間接的に育成し、アフリカ経済発展に寄与しようとするもの。