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No.484(2017/12/8)
カンボジアの最低賃金、新年から約11%アップの月額170米ドルに
カンボジアの縫製工場

 10月5日、カンボジアの政府は、最低賃金について、来年の1月1日から11.1%引上げ、日額170米ドルとすることを決定した。同国の最低賃金は、縫製・製靴業を対象としており、直接的には1000箇所程度の工場に働く約100万人の労働者に適用される。同時に、他産業の労働者の賃金にも事実上、ひろく影響を与えていることから、この国の賃金のレベルを示す意味を持っている。今回の引上げについて、経営側は大幅引上げの輸出産業への影響を懸念しているが、労働側には今日のミニマム生活費は200米ドルを超えると不満もある。
 カンボジアの最低賃金は、1997年の月額40米ドルからはじまり、2008年には61米ドルとなった。その後、労働組合はゼネストを構えるなどして引上げを求め、2012年には83米ドルに上昇した。さらに、2013年春には、ストライキが首都プノンペンだけではなく全国に広がり、政府は、7月の総選挙の直前に97米ドルまで引上げた。その趨勢はさらに続き、2016年には157米ドルまで上昇し、今回に至っている。最低賃金は2008年以降の10年間で2.8倍まで引上げられることになる。
 今回の最低賃金引上げは、9月25日から、三者構成の審議会での討論に入った。労働側は、ITUC(国際労働組合総連合)に加盟する主要な団体だけでも三つあることから、要求をめぐり激論となったが、175米ドルを統一要求とした。経営側は国際競争力の維持を考えれば161.5米ドルが妥当と主張、政府側(労働職業訓練省)は162.7米ドルを提案した。10月はじめには、労働側が170米ドルに歩み寄るなかで、労働職業訓練省は165米ドルを示したことで審議会はこの金額で決着した。しかし、フン・セン首相は最終的に5ドルを上積みし170米ドルとすることを決定した。

 今回の最低賃金決定の背景には、来年夏の地方選挙ならびに総選挙への配慮があると言われる。これまで国政選挙では、与党の人民党と野党の救国党(旧民主党等)の二大政党が争ってきたが、この間、選挙を経るにつれ与野党の議席差が縮められてきた。最低賃金の引上げは、これまで選挙の大きな争点となっていることから、今回、政権側は野党の勢いを押さえる意味からも最低賃金を大きく引上げたといわれる。同時に、政府は、経済界の反発に配慮して、輸出入の手数料を大幅に引き下げるなどの対応を示している。
 カンボジア政府は、最近、野党へのさらなる強権的な姿勢をみせている。9月はじめには最大野党の救国党の党首を外国の支援を受け政府転覆をはかったとして逮捕したが、これにより野党系の有力な政治家の国外への脱出が相次いだ。また11月16日には、最高裁判所が、救国党が政府転覆に関与したとの政権の訴えを認め解散命令を出した。これについて、米国は来年の選挙は公正ではなくなると批判、EUも野党不在の選挙は認められないとするなど、内外の批判が強まっている。このような政治情勢は今後の最低賃金の動向にも影響を与えるものと思われる。

 なお、カンボジア政府(労働職業訓練省)は、最低賃金制度について、現在の繊維・製靴産業のみを対象とする制度を見直し、幅広い産業をカバーするものへと改正する方向を打ち出している。現在はその草案が示され労使が検討をはじめている段階であるが、同国は、来年、「選挙の年」を迎えることから、その審議がどのように進展するかが注目される。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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