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No.355(2015/11/10)
チュニジア労働組合連盟とノーベル平和賞

 2015年のノーベル平和賞は、チュニジアの民主化に貢献した「国民対話カルテット」に決まった。チュニジア労働組合連盟(UGTT)は、その構成団体として受賞者となった。人口約1000万のチュニジアは、1956年にフランスの植民地から独立した。UGTTは、独立前の1946年に結成され、結成当初は植民地解放闘争に参加した経緯があり、政治経済社会の全般的な問題に取り組んできた。全国的な労働運動を展開するなかで、労働組合に対する政府の介入が度々あった。UGTTは、抗議集会やゼネストを全国各地で敢行して対抗した。「ジャスミン革命」では、独立闘争と同様に重要な役割を果した。野党指導者の暗殺事件が起きているチュニジアでは、労働組合指導者も常に殺害の脅威を受けている。このような厳しい環境の中で民主化運動をすすめてきたUGTTには、2012年AFL-CIOジョージミニー・レーンカークランド人権賞が、バーレーンの2つのナショナルセンターと共に授与されている。
 欧州労連(ETUC)のルカ・ヴィセンティーニ書記長は、「このノーベル平和賞はUGTTが受賞の栄誉に十分値する組織であることを認めたものです。チュニジアだけでなく、北アフリカ、アラブ諸国、欧州はもとより、世界で労働組合には社会対話を推進する極めて重要な役割がある。労使の協調行動が成功をもたらした要因でもあった。チュニジアにおける最近のテロ事件をみると、国の民主的発展に労働組合は従前以上に参画を強めるとともに、その役割を発揮していかなければならない。欧州労連は、UGTTと密接な協力を通じ、チュニジアの民主化移行期において連帯活動を行ってきた。このノーベル平和賞は、民主主義と社会における労働組合の重要な役割を認めたものである。」と歓迎のコメントを発表した。欧州労連は、先ごろパリで大会を開催したが、UGTTのフセイン・アバシ書記長は、来賓として連帯の挨拶をしている。欧州労連は、「欧州・地中海パートナーシップ(Euromed)」の枠組みのなかでも、UGTTとともに欧州と南部地中海沿岸諸国間における労働組合の協力事業を推進している。
 UGTTは、主に農業、繊維、保険、教育、公務、観光、工業、運輸の分野の41産業別組織から成り、組織人員は約65万人。女性組合員が約半数を占める。地域的、国際的連帯活動にも積極的で国際労働組合総連合(ITUC)、ITUCアフリカ地域組織(ITUC-Africa)、アフリカ労働組合統一機構(OATUU)、マグレブ諸国労働組合連盟(USTMA)に加盟している。
 JILAFでは、11月29日~12月12日の日程でチュニジアUGTTをはじめとする中東・アフリカ北部チーム(7カ国・10名)を招へいする。12月4日には、このチームに参加した各国の労働組合リーダーによる「労働事情を聴く会」を開催(予定)する。

欧州労連大会と難民危機

 9月28日~10月2日、第13回欧州労働組合連盟(ETUC)大会が、欧州の39カ国90組合と、10の国際産業別組織(GUF)欧州地域組織から500人の代議員が出席して、パリで開催された。
 開会式にはフランスのフランソワ・オランド大統領、パリ市長アンヌ・イダルゴ女史、ジャン=クロード・ユンケル欧州委員会委員長、マルティン・シュルツ欧州議会議長が来賓として出席、スピーチを行った。大会では、パリ宣言と行動計画さらに6本の緊急決議を採択されたが、その一つ「難民危機」についても論議され、緊急決議「欧州における難民危機」が採択された。

「欧州における難民危機」概要

 「欧州では自国の戦乱から安住の地を求めて国境を越え、欧州に流入する人々の数が大規模に増大している。亡命希望者の多くは、平和で人間的な環境を探すために子どもや家族の命さえかけて移動している。ETUCは、人命と人間としての尊厳を守らなければならないと考える。ポピュリストや、外国人を嫌悪するような姿勢には反対する。地中海を横断するなかで、命を失っている亡命希望者もいる。人道的な立場から、捜索救助活動を続けるよう欧州委員会に要請する。難民が最初に到着している国々は、緊縮経済政策を余儀なくされている国々であり、二重の難題に直面している。人間の命と、その尊厳は尊重されなければならないという、欧州の核心的な価値観は実行に移されなければならない。EUメンバー国は、それぞれが相応の難民受け入れに、真摯に協力しなければならない。欧州関係機関の指導のもとに、建設的な連帯精神をもって対処しなければならない。しかるに、亡命希望者の受け入れについて、共通の対策から逸脱した政府がある。ETUCはこれを厳しく非難する。
 亡命希望者の出身国の開発など、さらに効果的な協力を要請する。民主的経済的開発の推進が、大規模な人々の移動原因を除去することとなる。EUは、この推進に果たすべき役割がある。すべての人が安全と経済的保障、宗教的政治的自由、良質な医療サービスへのアクセス、良質な教育を受ける権利がある。
 いかなる形態であろうとも、不寛容に対しては、欧州の6千万の労働組合員、労働運動はその防波堤となる。
 人道的危機に対しては、人道的な対応を引き続き求めていく。欧州労連は、この欧州の危機の取り組みに当たって、国際労働組合総連合(ITUC)とも協力をすすめていく。この難民危機は、欧州だけでなくグローバルな問題でもある。」

 今大会で、フランス出身で2011年からETUC書記長として活躍していた、ベルナネット・セゴール女史が退任し、イタリア労働同盟(UIL)出身で2011年からETUC本部専従だったルカ・ヴィセンティーニ氏が新書記長に選出された。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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