2005年 カナダの労働事情

2005年1月21日 講演録

モーリーン・ダイアン・ショウ
カナダ労働会議(CLC)・副会長

ダグ・アルン・ジョーンズ
全米鉄鋼労組(USWA)・ローカル委員長

 

(ダグ・アルン・ジョーンズ)

 最近、未曾有の自然災害があったことは記憶に新しいことであります。労働組合運動の中でのことわざがあります。それは、1人が受けた被害はすべての人の被害であるということです。これは自然災害についても言えることだと思います。12月26日の大災害、これまでにない形で地球全体が支援に立ち上がりました。グローバルな出来事に対する認識が高まっている時代に、こういう会合は非常に重要な役割を果たします。共通の理解、共通の戦略をもって、働く人たちを代表することができるのであります。きょうは、カナダの労働組合運動と将来の課題をお話しさせていただきます。

カナダ労働会議(CLC)の概要

 まずカナダの労働運動の概要をご紹介します。カナダ労働会議(CLC)は、カナダ最大の民主的な、そして大衆の組織であります。組織人員は300万人で、60の加盟組織があります。加盟組織には米国の労組のカナダ組織も含めております。CLCはさまざまなサービスを提供しておりまして、これを英語、フランス語の両方で提供しております。加盟組織は民間、公務の両部門でありまして、製造、サービス、そして専門職などをカバーしています。
 私は全米鉄鋼労組のブリティッシュ・コロンビア州にありますトゥレールのローカルの執行委員長で、以前は29年間消防士をやっておりました。なぜ組合の委員長になったのかと聞かれるのですが、私は新しいことに挑戦したかった、そういう理由でこの仕事についたわけであります。

(モーリーン・ダイアン・ショウ)

 私は、全カナダ大学教員労組の会長に最近なりました。私はパートタイマーとしての教師経験と、フルタイムの教師の経験もあります。専門は英語でありまして、組合活動をしていないときは教鞭をとっております。大変楽しい仕事です。また、私ども官公部門であろうと、民間部門であろうと、大きな課題がたくさん山積していると考えております。

(ダグ・アルン・ジョーンズ)

 CLCの構造、これはAFL-CIO、連合と似ております。ナショナルセンターがありまして、CLCはカナダ全土の10州、3つの領土をまとめております。市町村のレベルでは137の地方協議会に分かれておりまして、全国津々浦々に根をおろして、あらゆる側面、経済、社会、政治の分野に参加しております。
 カナダは、G7諸国の中で組織率が2番目に高い国です。3人に1人の労働者が組合員であります。とくに官公部門は女性がたくさんいて、組織率も伸びています。病院で働く者、看護婦、教師、そして一般事務といった職種が含まれております。
 CLCは、定期的に独自の世論調査を行っております。その中で、組合員そして一般の視点を分析しようとしています。一般の国民が、労働組合の役割を高く評価しているのはうれしいことであります。若い人たちも労働組合に対してオープンで、また、組合員にもなっております。
 だからといいまして、私どもは組織率が高いことに甘んじているわけではありません。労働組合は、新しい方向性、新しいニーズに対応しようと取り組んでおります。若い人たち、原住民の労働者、マイノリティーの労働者、パートタイムの労働者、こういった人々に対して、新しい取り組みを行っております。やるべきことは多く、社会的、政治的な取り組みに対する、より広い、より深いサポートを取りつけることが必要です。

CLCの政治活動

 2002年にCLCの全国大会が行われ、政治活動での大きな転換点となりました。CLCは、民主的な参加が可能な政治文化を構築することを目指しています。課題は、この広いカナダの労働者の政治、経済の知識を深めることであります。組合は数と影響力という武器を持っておりますので、これを駆使して労働者の課題を選挙のテーマにすることができます。私どもの目標は、いかなる政党、政治家といえども、労働者の課題を無視することができないようにすることです。そのためには、組合員、その家族の生活にかかわる課題に取り組んでいかなければなりません。労働組合は、職場において、経営者が私どもの問題に耳を傾けさせることに成功してまいりました。今度は、政治家が私どもの声を聞くようにしていかなければなりません。
 国政選挙が春にありました。選挙運動期間中に、CLCは「ベターチョイス「よりよ」、い選択」というキャンペーンを打ち出しました。労働組合は社会民主党を支持しております。これは新しい政党です。しかし、組合員に対して、だれを選べということは言いませんでした。むしろ、選択肢を提示して、組合員であろうとなかろうと、私たちには選択する力があるんだということを言いました。労働者、市民が利益を得るため、よりよい選択肢に沿って選べるんだと言いました。組合員から組合員へと職場でのキャンペーンを展開させまして、また社会におきましても、生活に関する幾つかの課題を提示いたしました。そして、基本的な問題は何かと言い、またCLCのウェブサイトのアドレスをそこに書きまして、詳細はそこを見るようにといたしました。このキャンペーンによる啓発活動は、ラジオ、広告や野外広告を通しても行いました。
 選挙の結果、明らかに私どものメッセージが広く伝わっておりました。国民は、右翼の保守党に反対でした。そして、与党の自由党はキャンペーンがなかなかうまくいかないということで必死になり、労働組合に対する政策を幾つか採択いたしました。一方で新しい社会民主党は16%と得票を伸ばしております。社会民主党政権においては、革新的な改革を求める労働組合の政策を実現させる絶好な機会であると、我々は考えております。私どもの政治活動、ロビー活動は、この政権が労働者のための政治を展開するようにさせることであります。「ベターチョイス」というキャンペーンの中で問題を提起しております。これらは何かといいますと、雇用創出、公正な貿易、そして雇用保険、訓練、年金、退職後の所得保障、そして育児が重要な課題として提示されております。残念ながら、政府は、過去20年間にわたって、産業の発展、雇用創出をほとんど市場に任せておりました。政府は貿易の自由化、法人税の引き下げ、社会保障費の大幅削減という間違った取り組みをやってきました。労働者の経済・社会保障の充実が必要となっております。
 1990年代は、失われた10年と言われております。経済成長は最低の水準でありましたし、また失業は1930年の大恐慌以来、最悪の水準に達しています。カナダの世帯所得も、インフレによって減っておりました。こうしたために、労働者は非常に将来が暗いものとなりました。
 CLCは毎年、カナダ労働者のQOLレポートをつくっております。その中から幾つかご紹介したいと思います。常用労働者の10人に1人が貧困水準の賃金しか得ていない、また、5人に1人のカナダ人が失業を恐怖と思っております。これは民営化、またサービスの外注化によるものであります。25歳から64歳のカナダ人の4人に1人はパート、あるいは自営の仕事にしかつけない、25歳以下のカナダ人の14%が失業しております。そして女性、若い人たちは非常に条件が悪いと言わざるを得ません。カナダは産業戦略を必要としております。そして、期間の定めのないフルタイムの仕事を創出することが必要であります。そうすることによって生活水準を上げて、購買力を高めていくことが必要とされています。
 過去2年間で、製造部門では10万の職が失われております。アメリカの経済に比べてカナダが10分の1ということを考えますと、大変大きな数字であります。カナダの労働組合運動は、全国的な産業戦略を求めております。それは、抽象的なイデオロギーではなく、常識に基づいたものを求めております。高い生産性の民間部門がなければ、いい仕事はないと考えております。しかし、豊かさ、高い生活水準を実現するためには、官公部門も強くなって、民間の活力をサポートしなければなりません。

(モーリーン・ダイアン・ショウ)

教育、社会保障をめぐる課題

 カナダの労働運動が直面している大きな別の課題は、知識経済に変わっていかなければいけないということです。日本、米国、そしてカナダとも同じような現象を抱えていると思います。非熟練的な仕事は、途上国に移行するということです。サービス部門でも製造部門でも、同じようなことが起きているわけです。
 また、非常に明確なことは、教育とか研修が、新しい知識経済を確立するためには非常に重要だということです。残念なことに、カナダの雇用主、政府は、こういう非常に重要な技能訓練、あるいは教育という部分を無視しているわけです。特に、就学前の教育、あるいは識字教育とか、新しい移民のための言語・技能教育、研修に対する資金を全部無視しているわけです。政府にとって、生涯教育・技能研修は重要であります。技術の複雑性、それから技能の要件が難しくなっているわけです。雇用主は研修を受けた労働者を求めている、そして我々のほうは訓練が必要だということです。
 カナダそのものが非常に大きな技能の低下を抱えているということでもあります。我々の国、州の政府が、技能の不足に悩んでいるわけです。しかし、国、自治体は、それぞれの管轄権の問題でお互いに争い合っています。その結果、個人の労働者にこうした訓練のコストや責任がかかってしまっています。例えば、大学での授業費、これは過去10年間の間に185%も上昇してしまいました。その結果、学生はいろんな形で借金をし、それによって教育費を賄っています。卒業までに大体2万ドルぐらいかかってしまうということが言われております。
 我々CLCは、訓練、研修を失業保険のプログラムに合体させるべきだということを主張しています。しかし残念なことに、政府はこういうプログラムをやめようと考えているわけです。給付が減りまして、今失業している3分の1の人だけが失業保険の資格を得ています。その結果、非常に大きな余剰金が発生しています。そして、法人のための減税、あるいは豊かな人たちの減税に資金が向けられているわけです。
 また、CLCは、あらゆる種類の教育を増やさなければいけないと、資金を求めています。公的なシステムが必要である、これが十分に支援されなければいけないと思っています。政府が責任を放棄することによって出てきた、悲しむべき結果が、社会サービスの制度に見られます。
 例えば保育、育児の部門ですが、保育、育児を行う施設は不十分で、多くの無認可の民間施設で子どもを預かっており、子どもたちに犠牲を強いている結果となっています。より良い育児、保育を求めても、費用が高く、それは不可能な状況にあり、このことが国の経済発展の障害になっております。労働組合は政府に対して、この問題に対する政策を打ち出すことを強く要請しています。
 同じように医療に関しても、公的医療サービスの充実を望んでいますが、いわゆるネオコン、保守のグループからは強い反対を受けています。
 また、私的・公的な年金制度。これは我々の国が、退職後でも非常に大きな威厳を持って、そして心配なく暮らせるという、国の繁栄を支える基礎であります。カナダの労働者は、実際に退職したときには貧しくなるんじゃないかという心配をしているわけです。こうした国民皆保険の公的年金基金の保障、あるいは給付レベルを上げなければいけない。
 また、私的年金についても改善が必要であります。カナダのさまざまな倒産法によって、雇用主が年金の義務を簡単に放棄してしまっています。ですから、CLCは、この破産法を変えなければいけない。それによって、まず労働者、それから年金受給者に対して、倒産した後でも支払い義務があるということを基礎としなければなりません。

グローバル化に対する取り組み

 組合員に対しての教育とか、あるいは政治的な行動は、いろんな形で行われております。教育活動として、彼らに対して全面的な、企業のグローバル化の影響、それから規制のない自由貿易というものの真の意味を理解させるということです。例えば、企業のグローバル化の影響においての経済・社会の問題を別個に語ることは難しいわけです。グローバル化、自由貿易、人々はいろんなことを心配しているわけです。どういう方向に我々は行くんだろうかという懸念を表明しております。
 先進国の中でカナダほど、自由貿易やグローバル化の波にさらされている国はないと思います。1988年には米加自由貿易協定が締結され、FTAの時代に入りました。日本の労働者、あるいはアジア太平洋の国の人々も同じような動きがあると思います。経済の統合という動きが生まれてきているわけです。おそらく我々の経験は、皆さんにとっても非常に有益なものではないかと考えております。
 カナダの問題は、米国の市場依存が強いということであります。我々の輸出の4分の3は、アメリカに送られております。しかしカナダ人、そして政府は、米国が非常に強い保護主義的な動きを示すということを重々わかっているわけです。この問題について、ダグがさまざまな話をしてくださると思います。
 ビジネスのエリートの人たち、それから80年代の保守政権は、FTAがアメリカの市場に優先的なアクセスを確保する方法だと思ったわけです。自由化された市場というのは全体の繁栄につながる。外国市場に対してのアクセスは一番いいんだと。そして、高い所得が労働者に与えられ、それによってよりよい社会保障が与えられる。しかしこれは、事実ではなかったわけです。
 もちろん貿易関係を米国と持つことに反対していたわけではありません。我々が心配したのは、FTAが我々の主権能力に対して一定の制限を加えるんじゃないか、カナダの国益に関しての社会経済政策を法制化することが制約されるんじゃないかということです。それからもう一つ、貿易の紛争を解決するいろんな合意を、実際に効果的にモニターするメカニズムが欠如するのではないか。それからまた、経済の統合の恩恵がきちんと共有されないのではないか、そういう2カ国関係という平等なものがあるんだろうかということです。
 FTAについては、いろんな異なる問題があります。十分な時間はありませんけれども、皆さんにとって最も心配なFTAの問題は、FTAというのは非常に問題の多いような2国間、そして他国間の貿易のさまざまな一連の合意の交渉というものを、さまざまな形で正当化してしまうのではないかということです。
 例えば、NAFTAは、米州自由貿易協定、これは南北米州を含むもので、今交渉中でありますけど、このモデルとなっています。しかし、現在のカナダ国内の経済は、統合された北米経済の一環に組み込まれております。労働者にとって、あるいはコミュニティーにとって、必ずしも恩恵があるものばかりではないわけです。また、我々の製造活動の大きな部分が米国に移っている。そして、我が国で消費されていない部分が増えているということです。
 ですから、WTOが95年に創設されましたけれども、これによって企業のネオコンサバティブな理念が勝利して、政府の経済・社会の役割をなるべく減らす方向へと進んでいます。経済・社会の運命は、市場の力、自由な動きに任されたわけです。反対していかなければいけないと思います。
 カナダでは、特に労組の人はそうでありますけれども、いわゆるFTAが、メカニズムとして企業の権利を、国民の利益を犠牲にする形で高めていくことを危惧しているわけです。我々の課題は、AFL-CIOと連合のものと同じであります。貿易政策、協定がやはり労働者の利益になり、彼らの家族の利益になる、これが世界中の多くの国で保障されるということです。カナダの労働者は、決して貿易に反対しているわけではありません。我々は、貿易に依存している国であります。我々は、新しいより密接なグローバルな経済、社会、文化的なきずなの中で住んでいるということは理解したうえで、求めているのは公正な貿易だということです。公正な貿易によって、労働者が十分恩恵を得ることができる、またその家族が恩恵を得ることができる、コミュニティーも恩恵を受けられるということです。
 公正貿易は、新しいグローバルな機構で、これが開かれた形で透明性のあるもの、そして労働者、コミュニティー、環境の間の、商業的、経済的な利益の均衡をとるものであります。公正貿易によって各国政府の能力を高め、それによって経済・社会的な状況、公益を考えて法制化などの手段で規制する能力を与えるべきだと思います。そしてまた、ほかの国の人々の公益も高める。また、それによって人権とか労働組合権、あるいは環境の権利を促進しなければいけないということです。これらが後回しになってはいけないわけです。
 カナダは、いつも貿易国でありました。我々は、多くの天然資源を有しております。また、わずかな人口です。そういう状況ですので、貿易に依存するところが大きいわけです。国際貿易によって非常にプラスの影響がある、我々全員の福祉を高めるものだとわかっているわけです。しかし、重要なことは、すべて我々、特にこの部屋にいる我々がやらなければいけないことは、将来の貿易の課題に我々が影響を与えるのであって、WTOではないということであります。
 最後になりますけども、カナダの労働運動は強い決意と希望を持って多くの課題に積極的に取り組んでいこうと考えております。皆様、男女ともこの労働者たち、組合に入っていても入っていなくても、我々は労働者としてのメッセージを持っているわけです。どこにいようと、どこで仕事をしようと、生活水準を改善したいと希求しているわけです。人権を守りたいという気持ちが強いことも知っております。医療へのアクセスをみずから、そして家族、高齢者、子供に対して守りたい。社会保障へのアクセスを維持したい。また、教育に対してのアクセスを維持したいと思っているわけです。非常に高い質の、整合性のある教育、また、退職後の非常によい年金制度を持つことによって、保護が欲しい。こういう気持ちは、組合に入ろうと入るまいと強く思っている。そして、労働運動がこれを促進するのです。
 米国と同じように、カナダは富のある国で、人材、そして十分な資源を持って、生活水準、あるいは生活の質が降下するサイクルをとめることが必要だと考えております。我々としては、お互いに底辺への競争という動きをくいとめなければいけない。我々全体を高める努力が必要なわけです。労働運動は、一つの大衆的な先進的なグローバルな運動でありまして、これによってネオコン的な動きに対抗しているわけです。
 最初に、1人に対しての問題というのは、すべての人に対しての痛みであると申し上げました。グローバルな連帯が、非常に求められているわけです。組合員は、こうした課題に成功裏に打ち勝つことができる力を持っている。そして、皆さんも私たちと同じように、世界を組合員にとってよりよい場所にしていく、そしてすべての労働者にとってよりよい場所にしていくという決意を持っていると思います。