2015年 パレスチナの労働事情

2015年12月4日講演録

パレスチア労働組合総連盟(PGFTU)
ホーサム・アブアロブ(Mr.Husam M.A. Abualrob)

医療保険関連労働組合 執行委員長兼PGFTU中央委員会委員

アッザ・ジャベル(Ms.Azza M.H. Jaber)
ビーレ市役所労働組合 書記

 

1.労働情勢(ナショナルセンターの果たしてきた役割)

 パレスチナの労働組合運動の役割には、政治的な側面が大きな影響を与えている。労働組合は常にイスラエル当局による嫌がらせにさらされ、労働組合に所属している組合員は、常に逮捕の対象になってきた。そうした中にあっても、労働組合運動は労働者を守り労働者のための法律を実現するという闘いを通じ、大きな役割を果たしてきた。その中心的存在がパレスチア労働組合総連盟(PGFTU)である。
 PGFTUは1994年10月に設立された。現在の組織実勢は、石油化学、観光、保険、建築など様々な産業分野の組織、13組合による構成となっている。組合員総数は約19万9千人である。
 今日、PGFTUは労働者の環境をめぐって困難な現実に直面している。それは、パレスチナの使用者が法律を守らず、労働者が深刻な権利の侵害にさらされているからである。PGFTUの調査によれば、こうした権利侵害の中で、多数の労働災害の事例が記録され、残念なことに死亡に至る事例まで発生している。この解決には、労働関連法制が有効に機能しなければならず、真の革命、変化、革新が必要な状況となっている。 
 これまでPGFTUは、常に国内パレスチナの労働者の問題に対して責任を担い、労働者たちのために画期的なキャンペーンを展開し、その役割を果たしてきた。中でも特筆されるべきは、最低賃金法の制定という大きな成果である。また、労働災害に対する対策としての安全衛生法の適用についても、同様の役割を果たしてきた。さらに、通常労働組合運動の中で女性局といったものがアラブ世界各国でも設けられているが、パレスチナではそれをさらに一歩進め、ジェンダー局という名前をつけるところまで来るなど、女性の地位向上でもその役割を果たしてきている。

2.労働組合が直面する課題

 PGFTUが抱える大きな課題は、次の2つである。1つは、労働組合活動の最大の難題であり阻害要因であるイスラエルの占領問題に起因する労働問題であり、2つには、国内法制の不十分さであり、パレスチナの労働組合運動の支えになり得ていないことである。また、最低賃金法も適用がなされていないことである。特に以下では一つ目の課題を主に取り上げ、その実態、とりわけグリーンライン内(1948年以前のパレスチナ)で働く労働者たちの実態について言及をしておく。

(1)イスラエルの占領問題に起因する労働問題
 グリーンライン内(1948年以前のパレスチナ)で働く労働者たちは4つのグループに分けることができる。
 [1]イスラエル労働省からの正式の許可を得て働いている労働者
 このグループの労働者は組織化がされている。この人たちへの労働許可については、イスラエル労働省から直接出されることはない。まず、イスラエル側の使用者が、例えば労働者を10人必要とする場合、パレスチナ側の仲介者にそれを要請し、パレスチナ側の仲介者が10人集めてくる。次に、イスラエル側の使用者は、身元調査のようなことをこのパレスチナ人について行い、それを経て、イスラエル労働省から許可が下りるという流れになっている。結局のところ、パレスチナの労働者はイスラエルの政府、イスラエルの行政側とはなんら接触しない形である。
 この労働者がどのような働き方をしているかは次の通りである。まず、朝2時に起き、家を出て、パレスチナ自治政府(PA)の自治区からバスや車でイスラエルの検問所で検査を受ける。どういう検査かといえば、国境や空港での検査がはるかに楽なものに感じられるほど過酷なもので、ぐるぐるまわるマシンに乗せられ体のチェックが行われる。また、仕事の道具などは一切持ち込むことができず、弁当だけの持ち込みとなる。次に、そこからイスラエル側の車に乗って7時とか8時に職場にようやく着くという流れである。そして、仕事が終わって帰る頃は夕方である。
 真夜中に出かけ夜の始まりに帰宅する真に過酷な就労実態なのである。また、イスラエルの使用者は、自分の負担を減らすために、労働者を、例えば26日間働かせた場合でも、その保険は18日間で申請というようなことまで行っている。
 [2]特別の許可を得ている労働者
 1人の商人、商業経営者として許可を得た労働者、あるいは、仲介者を通じて商人としての許可を得た労働者がいる。グリーンライン内で働くこうした人たちは、残業手当、健康保険、労働災害保険などを得ることができず、なんの権利も享受することなく働いている。
 [3]許可なしでグリーンライン内で働く労働者
 PGFTUのみならずパレスチナ全体としても極めて深刻な問題なのが、許可なしでグリーンライン内で内緒で働く労働者である。こうした労働者は相当数いるとみられる。トラック等で侵入し、寒い山の中でビニールに身を包んで木の下で眠ることがあるという。しかし、見つかれば大変なひどい扱いを受け、牢屋に入れられたりもする。
 こうした労働者についての2つの悲惨な例を紹介しておく。1つは、建築現場で7階から落ちて亡くなり、そのままという例であり、いま一つは、目をけがしてしまい、イスラエルの使用者から自治区の方で一定の手続をして戻ってこいといわれたが、実際に自治区に帰った後は不法な労働ということで、戻って仕事をすることもできず、ほったらかしになってしまったという例である。なぜなら、イスラエルの使用者は法律によってパレスチナ人を許可なしで働かせた場合には、非常に高い罰金を科されるということが定められているからである。
 [4]入植地で働いている労働者
 入植地は西岸地区の中の町と町の間に建設されている。そうした場所で働く労働者は、パレスチナ側の法律もイスラエル側の法律も適用されない状態のもとに置かれている。

(2)国内法制の不十分さと最低賃金法の適用されていない問題
 もう一つの問題・課題は、国内の法律が不十分で、パレスチナの労働者の支えとなっておらず、また、最低賃金法もきちんと適用されていないことである。最低賃金は、月に400ドル(約4万9264円)と定められたものの、保育園や縫製工場といったところの労働者はもっと低い賃金しか得られておらず、きちんと適用されていない。

*1ドル=123.16円(2015年12月4日現在)