2012年 ヨルダンの労働事情

2013年1月25日 講演録

ヨルダン労働組合総同盟(GFJTU)
ハンマーム マーズィン アルマイタ(Mr. Hamam Mazen ALMAIA)

地方公務員連盟委員長

 

1.労働情勢(全般)

 ヨルダンは経済危機の始まった当初から、債務の拡大や財政赤字の拡大など、さまざまな問題に直面している。そのため、国民全般、特に労働者がその影響を受けている。物価の上昇に賃金が追いつかず、購買力は低下している。
 ヨルダン労働組合総同盟(GFJTU)は、政府に対して繰り返し、賃金全般の見直しと、インフレ対策を求めてきた。また最低賃金を、米ドル換算で400ドルに引き上げるように要求してきた。しかし、政労使三者委員会の合意は、最低賃金の引き上げを270ドルに留めるものであり、GFJTUは今なお最低賃金の引き上げを要求しているところである。
 そして2011年初め、アラブの春の始まったころに、政治や経済の改革を要求する抗議デモやストライキが始まった。社会的な公正を確保することの必要性、富を公正に分配すべきことなど、労働者に関する様々な問題が提起された。
 ヨルダンの労働力人口は約140万人に上り、そのうち民営部門の労働者が約60万人である。ヨルダンでは、外国人労働者の割合が高いことがあって、労働省ではこれに歯止めをかける政策の策定に取りかかっている。そのために、国家戦略が打ち出されて、労働組合もその取り組みに参加している。
 ヨルダンの労働法は、労使やその他各方面の合意を得て、2010年に改正が行なわれ、移民労働者、農業部門の労働者や家庭内使用人も労働組合に加入することが認められた。団体交渉に関する条項など、数多くの改正が行なわれ、社会保障法についても改正が行なわれた。そこには、出産保険、失業保険、健康保険などが追加されて、現在議会の承認を待っている状態である。
 GFJTUでは臨時大会を開催して、国内の情勢の変化に適応すべく、内部規則の改正を行なった。現在は、労働組合が組織化されていない部門における組織化の取り組みに力を入れている。またGFJTUは、ディーセントワークの実現に向けて、6月に開かれた雇用に関する国家戦略策定の協議に参加した。2週間前には、労働省が雇用のための新たな戦略を打ち出したが、その中では1万8000人の雇用が創出されることが期待されている。

2.労働組合が現在直面している課題及びその解決に向けた取り組み

 労働組合が現在直面している問題は、賃金問題、失業問題、労働組合の組織化の問題、経済状況の悪化への対応などの問題がある。こうした課題の解決に向けて、労働組合は政府と労働者同士でも、継続的な社会対話を行なっていく。

3.ナショナルセンターと政府との関係

 ナショナルセンターと政府の関係については、常に移り変わるもので、非常に良い時も悪い時もある。

4.多国籍企業の進出状況について、また、多国籍企業における労使紛争について

 ヨルダンには多くの多国籍企業が進出している。特に繊維業界に多く、労使紛争もしばしば起こっている。繊維産業の労働組合では、団体交渉を行なうことで、紛争の多くを解決してきている。

5.民主化運動の情勢について

 中東・アフリカ北部地域は、いわゆる「アラブの春」と呼ばれる革命蜂起などが各国で起きている。こうした動きは長年にわたる不正、抑圧、そして社会的な公正の欠如、経済状況の悪化などが原因となっている。ヨルダンは、地勢学的に常に緊張した地域に取り囲まれている。シリア、イラク、そしてパレスチナの西岸地区はイスラエルの占領下に置かれており、イスラエルはこうした対立を常にあおり立てている。ヨルダンは、中東・アフリカ北部地域の情勢を常に客観的に論じていく必要がある。民主化運動を裏切り者扱いしてはいけないし、また一方でハーシム家の王政を脅かし、否定するようなことも避けるべきである。ヨルダンの王政は、この国の一体性を長きにわたって維持してきた存在だからである。
 ヨルダンは非常に多様な氏族、民族による国家であり、多様な要素が互いに共存し、婚姻や共同の生活などを通じて苦楽を共にする中で、混在しながら人々は暮らしている。このような状況から考えても、ハシミテ王政は多様なヨルダン国内の多くの要素を取りまとめる唯一の存在だと考える。
 「ヨルダンの春」については、その多くは経済的な要求である。それは、各省庁や王室関係の施設の前での集会、座り込みや、毎週金曜日ないし金曜日礼拝の後に行なわれるデモ行進などの行動となって表れた。また、承認されたばかりの教員組合はストライキを決行した。しかし重要なことは、ヨルダン治安当局が平和的で穏やかな対応をしていることである。他のアラブ諸国で見られるような状況とは違い、暴力で解決を図ることはない。

6.民主化運動の課題について

 ヨルダンの現在の経済状況は非常に深刻であり、ヨルダン国民にとって耐えがたいものになっている。第一の原因は、その国土にある。これは、政府にも国民にも取る術はない。ヨルダンには天然資源が十分ではなく、中でも生活に欠かせない水資源も足りない。第二の原因は、アラブ諸国からの移民労働者の問題である。戦争あるいは治安状況などにより、イラクや隣国のエジプトから多くの労働者が入ってくる。
 2012年10月5日、ヨルダンで大規模な集会・デモが行なわれた。イスラム主義運動を展開するグループが組織したものであったが、最終的にその規模は数万人に膨らんだ。この運動の中で、ヨルダン国民が一致して掲げた要求は[1]国民こそが権力の源泉である[2]国民救済政府を組織して改革を進める[3]憲法の改正によって国民に権力と権利を取り戻す[4]公正な選挙法の策定。治安当局の介入のない公正な選挙[5]政治活動への権力の介入の排除[6]選挙で選ばれた議員による議会[7]汚職対策。汚職に対する公平な刑罰(汚職に関与した者には、その地位に関わらず、刑罰を与えること)[8]国庫から略取された国民財産の奪回[9]国民は臣民ではない、そして権利は施しではない――であった。
 こうした国民運動は、ヨルダンの国民が権利を取り戻し、尊厳ある生活を送れるようにすることを求めている。