2014年 チリの労働事情

2015年1月23日 講演録

チリ中央統一労働組合(CUT)
テムコ病院看護師労働組合
委員長 カルロス・セプルヴェダ・ヴェルガラ
全国チリ税関労働組合
財政担当 ヴァルテル・クビジョス・ヴェガ

 

1. チリの労働情勢(全般)

 1990年から2012年までの間に、国民1人当たりの国内総生産(GDP)が4倍になったことから、国際通貨基金(IMF)はこれを「チリの奇跡」と呼んでいる。世界銀行は2012年の1人当たりGDPを2万2655ドル(約275万6301円)と推計し、チリを「高所得」国のカテゴリーに入れた。しかしながら、これはチリの労働者の現実を必ずしも反映していないと言わざるを得ない。大多数の人々の生活実態と労働実態が表すものは、雇用の質に関する深刻な問題であり、雇用はますますインフォーマル化、不安定化が進んでいる。
 チリにおいて最も労働組合運動が進んだのは1970年から73年の人民統合運動、アジェンデ大統領が採用した政策により労働運動が盛んになった時期である。労働者階級にとって幸せな時代はアメリカの介入によって終わり、その後、18年間独裁政権が続き、その間にワシントンコンセンサスの影響を大きく受けた憲法、ネオリベラル的な影響のある労働法が制定された。いまだにチリの労働組合活動はこの憲法、労働法が適用されている。
 失業率は6.1%で、女性、若者の失業率がより高くなっている。問題は失業率だけではなく、雇用の質である。社会保険、医療保険、失業保険のある無期限雇用契約を持つ雇用は56.2%で、40%が下請け、派遣など保障のない雇用である。また、就労者の30%は自営業である。
 チリには2つの大きな労働関係法規がある。1つは、公務員労働者を対象とする行政内規で、もう1つは、民間労働者を対象とする労働法である。チリの就労者の40%に相当する人たちはこのどちらの法律の保護も受けておらず、団体交渉の権利もない。
 労働時間に関しては、労働法では週5日以上6日以内で45時間以内となっている。現在の最低賃金は米ドル換算で月額367ドル(約4万4635円)である。チリ中央統一労働組合(CUT)は、最低賃金の引き上げをテーマに政府と交渉を続けてきた。2018年までに最低賃金を含む労働法の改定が我々の目標である。

2. 労働組合の直面する課題

 現在、労働環境がますます不安定になり、労働条件も劣悪化している。その中で、組織率は14.8%と非常に低い。日本と同様に、労働組合に加入するのは大企業の労働者が多いが、大企業の雇用が縮小しているため、加入率も縮小している。労働組合に加入していない労働者は、大多数が中小企業の労働者で、全従業員の80%を占める。このような事情から、労働組合が存在するのは全企業の7.8%のみで、労働組合が存在していたとしても、その68%はいずれのナショナルセンターにも属していない。

3. 解決に向けた取組み

 2003年にナショナルセンターの呼びかけにより、ゼネストが行なわれたことをきっかけに、CUTの活動は大きく飛躍した。2008年には、チリに根強く残る独裁時代の制度を改革する目的で、15項目のテーマを話し合うための社会対話プラットフォームが設置された。
 2013年には、新しい大統領選挙のための政治プラットフォームもつくった。この動きは、現在のミシェル・バチェレ大統領の耳にもしっかり届いている。この中で、労働に関する3つの重要な提案がある。1つは、ピノチェト独裁時代につくられた労働法の改正。2つ目は、新しい社会保障制度の確立。年金制度を改革し、年金額を協議、決定するための政労使三者構成の審議会を設置することを提案している。3つ目は税制改革である。これに関しては一定の進展があり、高所得者の税率を引き上げ、法人税を上げるという目玉となる改革が進んでいる。
 また、2015年の大きなニュースは、労働法の改正議論が始まることで、この改正は私たちにとっても歓迎すべきことだと考えている。しかし、これですべてが変わるわけではない。
 最後に、良心を持つ労働者の団結によってのみ、さまざまな法が改正され、状況が改善されるという例を1つ挙げたい。
 3年前に銅労働者連合が請負契約に関する慣習を変えることに成功した。チリでは法律でストライキが禁止されているにもかかわらず、2014年に港湾労働者が大規模なストライキを打った。このストライキによる成果として、40年ぶりに港湾労働者を守る法律が復活した。この『港湾労働者保護法』は短期法ではあるが、このストライキによって結実したものである。
 これからも独裁時代の遺物であるさまざまな労働者を苦しめる法律制度などと闘い、改善のための運動を進めていく。

4. その他

 チリの現在の大統領は中庸左派といえる非常に進歩的政策をとっている。労働組合と政府との関係の間合いをどのようにとるべきか、どこまで関係を深めるべきか常に考える必要がある。

*1ドル=121.62円(2015年3月12日現在)