2017年 ブラジルの労働事情

2017年11月29日講演録

ブラジル中央統一労働組合(CUT)
ジャンジーラ マシュー ウエハラ アルベス
(Ms. Jandyra Massue Uehara Alves)

ブラジル中央統一労働組合(CUT) 社会政策人権局長

ジェシー アフォンソ メロ(Mr. Jacy Afonso Melo)
銀行労組連盟 人材育成局長

マリア アパレシダ ファリア(Ms. Maria Aparecida Faria)
ブラジル中央統一労働組合(CUT) 社会保障・医療政策局長

※報告はジャンジーラ マシュー ウエハラ アルベス氏が行った。

 

1.ブラジルが現在直面している危機的状況と課題

 ブラジル中央統一労働組合(CUT)は今年8月に臨時総会を実施し、政治的な現状、今後の戦略や活動計画について討議した。本日は、この臨時総会で話し合われたことに基づいて、現在のブラジルが直面している様々な危機的状況と今後の取り組み課題について報告する。

【2003年ルーラ政権誕生と成果】

 ブラジルでは2003年にルーラ政権が誕生した。この政権は労働組合、そしてリベラル派を代表する政権として初めて誕生したものである。この2003年から2010年までの2期間に、ルーラ政権は非常に建設的な政策をいくつも打ち出した。例えば、最低賃金についてはインフレ率を76%も上回る引き上げを行い、企業との間の賃金交渉では95%の交渉がインフレ率を上回る引き上げを獲得している。こうした中で、消費が大きく拡大し貧困の削減においても大きな成果をあげ、ブラジルは国連のハンガーマップから脱出することが出来たのである。また、この時期には、船舶、石油、天然ガス関連、建設、自動車など様々な工業分野も復活した。このルーラ政権から次のルセフ政権にかけておよそ2,000万人の新しい雇用が創出され、失業率は史上最低の4.3%まで減少している。

【ルセフ大統領の罷免とテメル政権の誕生】

 2010年にルーラ政権を引き継いだルセフ政権が誕生すると、世界的な金融危機の影響がブラジルでも感じられるようになった。この時期、ルセフ政権は工業分野に非常に高額の補助金を出し、工業の奨励を図っていたが、経営者層はその補助金を再投資に使用しなかった(私達は「企業による投資のサボタージュ」と呼んでいる)。そして、これら支配層の反感は政治にも向けられるようになり、労働者党による政権との共存を拒むようになってきた。それまで、労働者党は中道右派の各党と連立を組んでいたが、この連立が緩み始め、解体へと向かったのである。このような経過を辿った末にルセフ大統領は、法律が定める背任罪に該当する事実が無いにもかかわらず2016年に罷免され、現テメル大統領による政権が誕生することになったのである。

2. テメル政権が導入してきた新たな政策と問題点

 テメル政権が行っている新しい政策の数々は全て労働者の要求や必要性に反するものである。いくつかの事例を紹介しよう。
その一つは、超深海油田、プレサル油田の外国企業への譲渡である。
 二つ目は、政府が今後20年間に亘って保健、医療、教育、住宅、公衆衛生、インフラなどの社会的な投資は一切行わず、凍結すると発表したことである。
政府はこの凍結によってこうした全ての分野において民営化することをもくろんでいる。
 三つめは、派遣労働を全ての分野で許可することにしたことである。また、新法では有期雇用の期間を引き延ばし、正規雇用への転換をしにくくしている。
 四つ目は、今年(2017年)に行った労働法の改正である。現政権はこれまでの労働法の条文について100カ所以上の改正を行った(主な改正点と問題点は次の通りである)。

【労働法改正の問題点】

  • a)「断続的雇用」(ゼロ時間契約)の拡大
     これは、労働者を自営業者として時間給で契約するものであり、労働者は実労働時間に対する支払いしか受けられないことになるため、年金受給に必要な労働時間の算出が不可能となる。また、健康保険や勤続期間保障基金など、月給をベースに算出される社会保険料の徴収も不可能になる。
  • b)労使協定が法律に優先
     改正前の法では、労使協定が法律に優先するのは協定内容が法規定を上回る場合のみであったが、改正後は、労働者の権利の削減が現行法に優先して行えることになる。
  • c)妊娠中や授乳中の女性の労働
     妊娠中や授乳中の女性について、医師の承認があれば健康を害する恐れのある職場においても就労を許可することになり、これは女性に対する最も重大な暴力的措置だといえる。

3. 私たちが模索する解決策(CUTの戦略)

 まず、最大限に抵抗するということだ。そのために現在、それぞれの組合(単組)において組織化を強める取り組みを行っている。そして、労組内だけではなく、他の社会的な運動との連携を強める必要があると考えている。例えば、農村部の土地なし労働者運動、ホームレス労働者運動、女性の運動グループ、黒人の人権を擁護するグループなどの社会運動との連携である。
 そして、選挙に関する政策としては、来年(2018年)に行われる大統領選挙にルーラ元大統領の立候補を可能とすることで、国内に民主主義的秩序を取り戻したいと考えている。(ルーラ元大統領は最近の世論調査において40%以上の高い支持を得ている。)
 また、現政権が導入した諸政策、とりわけ派遣労働および労働法についての改正を無効にする取り組みを行う。現在、ブラジル中央統一労働組合(CUT)では法改正の無効を訴えるキャンペーンを広範囲にわたって展開中である。
 そして、憲法制定議会の招集を訴え、この憲法制定議会において農地改革、政治改革、税制改革などの問題を改めて議論のうえ、ブラジルが再び成長と公正と平和な社会を歩んでいけるようにするのが私たちの戦略であり、目標である。

2017年10月20日 講演録

ブラジル中央統一労働組合(CUT)
ドウグラス デ アルメイダ クニャ(Mr.Ⅾouglas de Almeida Cunha)

連邦区専門検査委員会および関連団体労働組合 委員長

マリア アドリアナ オリベイラ(Ms.Maria Adriana Oliveira)
マラニャン州委員長

労働組合の力(FS)
マリア イザベル ガルシア(Ms.Maria Izabel Garcia)

リオグランデ・ド・スル州ヴィアマン市職員労働組合 事務局長兼委員長

マリア エウジレネ ノゲイラ(Ms.Maria Euzilene Nogueira)
サンパウロ州モジ・ダス・クルーゼス市金属加工労働組合 委員長

ブラジル一般労働組合(UGT)
パスコスキ ネウシル(Mr.Paskoski Neucir)

フロリアノポリス市清掃業者労働組合 委員長

 

 各ナショナルセンターを代表して下記の3名がレクチャーした。

  • ・ブラジル中央統一労働組合(CUT):ドウグラス デ アルメイダ クニャ
  • ・労働組合の力(FS):マリア イザベル ガルシア
  • ・ブラジル一般労働組合(UGT):パスコスキ ネウシル

1.労働情勢

 実質GDPは、2015年が△3.8%、2016年が△3.6%である。
 物価上昇率は、2015年が9.0%、2016年が8.7%となっている。
 最低賃金(月額)は、2015年が788レアル、2016年が880レアル、2017年が937レアルである。なお、直近の為替レートは1ドル=3.17レアル相当となっている。
 法定労働時間は、1日8時間、週44時間である。
(実質GDPおよび物価上昇率は、「IMF-World Economic Outlook Databases」を参照した)

2. 2017年労働法改正に至る歴史的経緯と問題点

① 今日に至る歴史的経過

 ブラジル政府は1943年に統合労働法の公布を行った。この法律は労働関係の基準を定めた複数の法律をまとめたものであり、以降いくつかの小さな改正を経ながら今年(2017年)
まで有効であった。
 この間、2003年に初めての民主的、かつ、大衆の支持を受けた政府が誕生した〔※2003年1月、「貧困の解決」と「経済成長の回復」を掲げたルーラ大統領の労働者党(PT)政権が誕生し、2011年のルセフ大統領政権に引き継がれる〕。この政権は、国内の飢餓の根絶を目的とした「飢餓ゼロ」プログラムや貧困層の子供たちの就学支援を目的とした「ボルサ・ファミリア」という世帯給付プログラムに取り組み、大きな成果をあげている。また、当時の政府は経済を強化しつつ労働関係の改善を目指す政策も実施した。この間、失業率は低下し、インフレ率を上回る最低賃金の設定など大きな成果をあげてきた。これらの政策は2008年の世界金融危機と重なるものの、国民所得の向上と国内消費に支えられて、国は難なく危機を乗り越えることが出来た。
 また、新しい企業や起業家を誕生させ、中小企業の数が増加し、国内市場での競争を刺激した。こうした政策は一方で、古くからの寡占大企業や大地主層の反感を買い、かれらは連邦議会議員を増やすための運動を展開し、何の確たる証拠がないにもかかわらず、ルセフ大統領を弾劾し罷免に追い込んだことは周知のとおりである。
 この後に誕生した現政府が行っている主な措置(政策)は次の通りである。

  • 〇保険・医療・教育分野予算の削減、公務員の賃金凍結
  • 〇労働者の権利を剥奪し、法を改正し、国内で適用されているILO条約の破棄
  • 〇社会保障制度の改悪
  • 〇最低賃金の削減
  • 〇農村部の労働者の仕事に対し、賃金ではなく食料品だけを受け取れるような法案の提出
  • 〇2017年10月には奴隷労働の定義を変更する通達1129号を出す

② 2017年労働法改正の問題点

 今度公布される統合労働法では、今までの法律が事実上無くなってしまう。いくつかの事例を挙げておこう。
 例えば、最低賃金法に関しては、事実上最低賃金以下で働くことが可能になってしまう。それは、一人の労働者が雇用主と個別に雇用契約をすることが可能になるからである。また現行法では、妊婦は不健康な職場で働くことが禁じられているが、新しい法律が公布されると、どこで働いてもいいことになる。派遣法も緩和され、現行法では教師の派遣は禁じられていたが、教師の派遣も可能になるのである。
 労働組合のナショナルセンターの財政にも大きな影響がある。これまでは、すべての労働者の賃金の1日分が自動的に労働組合活動費として納付されていたが、これが個々の労働者が労働組合に参与することが条件となるからである。

③ 労働組合の統一行動

 こうした情勢の中で、現在、ブラジルは全てのナショナルセンターが相互の違いを超えて統一した行動を展開している。3月8日には女性のためのデモが行われた。3月15日には全国的なデモ、4月28日にはすべての産業別労働組合が参加したデモが行われ、地下鉄・バス・公務員・銀行・商業などで働く労働者も参加し、ブラジル全体がストップしたとも言える行動だった。そして5月24日にも10万人の労働者の参加による全国的デモを行っている。
 私たちは、祖先たちが長い間努力を重ねながら勝ち取ってきた権利の略奪ともいえる新労働法を許すことができない。全ての労働者が一つになって権利を守らなければならないと考えている。