2015年 ブラジルの労働事情

2016年1月22日講演録

ブラジル中央統一労働組合(CUT)
ジョゼ・カルロス・ベラス・ドス・サントス(Mr. Jose Carlos Veras dos Santos)

ブラジル中央統一労働組合(CUT)ペルナンプーコ州会長

ホジレーネ・コレア・リマ(Ms. Rosilene Correa Lima)
ブラジリア連邦直轄区教員組合財政局長兼CUT執行委員

労働組合の力(FS)/ブラジル
エドアルド・デ・ソーザ(Mr. Eduardo de Souza)

ブルスケ金属・冶金・電気機器産業労働組合連合副会長

ブラジル一般労働組合(UGT)
クリスティアーネ・ド・ナシメント(Ms. Cristiane do Nascimento)

サンパウロ州電気通信労働組合副会長兼UGT中央執行委員

 

1.労働情勢(全般)-脅かされる労働者の生活-

(1)実質GDP(%)・インフレ率・最低賃金の動向
 現在のブラジルは、経済活動の停滞と持続的物価上昇により厳しい情勢にある。国内総生産(GDP)の成長率を見ると、2013年が2.3%、2014が年0.1%、2015年は見通しでマイナス2.5%である。また、インフレ率は、2013年が5.91%、2014年が6.41%、2015年は見通しで9.5%となっている。
 最低賃金は、2004年の労働組合による「最低賃金引き上げキャンペーン」などにより、現在まで継続的な引き上げに成功している。ちなみに1994年の水準は月額64.79レアル(約1830円)であったが、2014年は月額724レアル(約2万453円)にまで上昇した。

(2)高まる失業率と定着するアウトソーシング
 ブラジルの労働市場におけるフォーマルセクターの求人数は、政治と経済危機を理由として減少しており、2015年末の国内失業率は約9%である。さらに今年末には10%になると予測している。ブラジル経済は冷え込んできており、昨年は実質GDPが約3 %減となり、2016年はさらに大きな景気後退が予想されている。これは国民の生活の質に留まらず、雇用の質や賃金交渉にも影響を与えると考えられており、目下のところ労働組合運動にとって逆風が吹いている状況にある。  ブラジルの労働市場では、業務の外部委託(アウトソーシング)がさまざまな部門で浸透しており、さらに労働市場すべてをアウトソーシングの対象とする法案が国会で審議されている。現在、アウトソーシングで働く労働者は1300万人と推定され、労働組合運動の弱体化に繋がっている。

2.労働組合の直面する課題(全般)

(1)成長を始めたインフォーマルセクター
 インフォーマルセクターが失業問題の深刻化につれ成長してきた。ブラジル地理統計院(IBGE)によれば、インフォーマルセクター労働は、ブラジルの主要都市のすべての職種で約20%を占めるまでに至っており、ブラジル人の5人に1人が「労働手帳(注1)」への記載が得られない労働をしており、この数値は過去8年で最大である。
(注1)ブラジルでは労働に従事する場合、労働手帳の取得が義務付けられており、会社名、採用年月日、給与、役職等が記載される。労働手帳は、正規雇用を証明する重要な書類であり、将来年金を受給するときや社会保障を受ける際にも重要な記録となる。

(2)大きな問題となっている離職率の高さ
 離職率の高さも大きな問題になっている。世界最大手の人材紹介会社である米国企業のRobert Halfが実施した調査によれば、ブラジル企業の82%がこの問題を抱えており、各国企業の平均32%と比較して、大きな乖離がある。

(3)不足する専門技術者や熟練工
 2013年末に公表されたブラジル工業連盟の調査では、65%の企業で熟練工が不足している問題を抱えている結果であった。世界平均数値36%と比較して、これも深刻な問題である。この問題は、不登校率が24.3%に達する初等教育の段階から始まっている。すなわち、初等教育の時点から生徒の4人に1人が不登校になり、中等教育に進めず、その結果が労働者の質に跳ね返ってきている。

(4)真の時間短縮に向け問われる組合の取り組み
 1980年代の初めから、法律で48時間と定められていた労働時間を、賃金が削減されることなく短縮することを求め、集中的に労働者を動員する取り組みが行われてきた。その結果、分野によっては、ストライキやその後の団体協約を通じて労働時間短縮が図られた。しかしその内容は、45時間あるいは40時間と、それぞれの企業で違っていた。そうした経過の中で、1988年に法律の改正が行われ、法定労働時間は週44時間と新憲法に定められ、今日まで有効となっている。
 この取り組みの成果は評価されるものであるが、実際の労働時間は、法定労働時間を大きく上回っている。通勤の時間も入れれば、個々人が労働に費やす時間は1日12時間を越えることもある。

3.各ナショナルセンターの課題と取り組み


【CUT】組合の団結と連携で危機の時代を乗り越える

(1)重い役割責任のあるCUT
 ブラジルはいま危機的な社会情勢の中にある。その結果、これまで社会的、経済的に勝ち取ってきた多くのものが脅かされる状況になっている。
 その中で労働組合運動は、労働者たちの代表として非常に大きな責任を担わなければならない。CUTはブラジル最大の労働組合であり、世界でも5番目に大きなナショナルセンターである。その重い役割責任を認識し、他のナショナルセンターと連携し、今までつくり上げてきた法律などを守る闘いに挑んでいる。

(2)大規模動員により果敢に闘う教員労働組合
 CUT加盟の教員労働組合にとって最も大きなチャレンジは、組織を拡大し、民主主義を大事にし、後戻りさせないことである。アウトソーシング化への動きに対して、大きく反対の旗を揚げ、賃金を上げる闘いに果敢に挑んでいきたいと考えている。
 一例を挙げれば、ブラジリア連邦区は、他の州に比べて賃金が高い。しかし、ブラジリア連邦区の教員は、他の公務員に比べて、最も低い賃金になっている。さらに州知事の法律不履行による賃金削減の問題を抱えていることから、1万人の教員を集めて大会を挙行した。ブラジリア連邦区の教員労働組合の組合員は80%が教員で、そのうち3万5000人が現職、残りの1万1000人が退職した教員で構成されている。ブラジルでは、退職してからも組合員として一緒に闘いに挑んでいる。この賃金削減問題については、いまだ解決していないことから、2016年に向けてさらに新たなストライキを構えていく予定である。

【FS】重視すべき統一共同戦線-だが、是々非々の対応もあり

(1)意見が分かれるアウトソーシング問題
 現在ブラジルは、不況のため問題は増えるばかりである。そうしたことから、従来からの闘いの習わしとする、各ナショナルセンターが統一して共同戦線を張ることを推進したいと考えている。しかし、この問題をめぐっては、各ナショナルセンターで方針の相違があり、統一して行動するのが難しい状況になっている。FSも交渉の余地があると考えており、許可するところは許可し、妥協するところは妥協する、というスタンスに立っている。なぜそのような考えに立つかというと、現在4740万人が正規雇用者として労働手帳を保有しているが、そのうちの1270万人の労働者と無視できないほどの労働者がアウトソーシングに属しているからである。

(2)統一共同戦線の重要性
 インフォーマルセクター労働者は、労働環境が非常に劣悪で、さまざまなナショナルセンターが力を合わせて労働環境の改善に努めるためのアプローチを行っていこうと考えている。 
 このようにFSは、是々非々ながら、統一共同戦線の重要性を認識し、さまざまな活動を行っている。とりわけ社会保障改革においては、さまざまな社会保障係数の撤廃という動きに、断固阻止して年金総額が減らないための取り組みや、汚職に関与した企業への処罰を定めた法律の成立(『汚職防止法』は2015年度に暫定法として承認)への取り組みなど、さまざまな活動に尽力している。

【UGT】硬軟取りまぜた巧みな労働組合の取り組み

(1)電気通信分野に発生した解雇問題
 困難な状況下にあるブラジルの中で、電気通信分野では解雇が多くなっている。そのために、UGT加盟のサンパウロ州電気通信労働組合は、安定雇用のための取り組みや、労働者の再雇用に向けた人材育成の取り組み、さらには求人案内データベースなどを作成し、労働者の登録やその中で新しい企業を紹介できるような取り組みを行っている。また、解雇を行わない企業に、税制上の優遇措置を講じる協議にも参加している。

(2)多国籍企業との合併で生じた解雇問題
 多国籍企業との合併が行われ、ここでも解雇が発生している。例えばスペインの「テレフォニカ・スペイン」は、すでにブラジルの2つの大きな会社を買収しており、「クラロ・メキシカーナ」と「インプランテオ」と「ネット」の3社は大合併を行っている。このような合併とともに、多くの正規雇用者の解雇も行われた。しかも、その代替としてアウトソーシングに切り替えることをしている。その結果、賃金等の労働条件が悪くなり、労働者に厳しいしわ寄せがくる結果となっている。
 そうした中で労働組合は、合併に伴う大量解雇を阻止するために、労働者の雇用を最低1年間は確保する労使協定を結ぶなど、労働者の雇用確保に尽力している。しかし、労使間で合意に至らないケースもあり、その場合はストライキと法律に訴える作戦をとっている。

(3)テレコミュニケーションセクターでウエイトを増すアウトソーシング
 テレコミュニケーションセクターでは、アウトソーシングの数が正規雇用の2倍から3倍になっている。そこで労働組合は、企業との話し合いの中で、現在アウトソーシングとして働いている労働者を、正規雇用に転換することで決着させた。数字的にはまだ大きくはないが、ある程度の成果があったと自負している。

(4)アウトソーシングの低い労働条件
 アウトソーシングで働いている労働者の低い労働条件が問題となっている。そこで派遣労働者の給与アップキャンペーンを行っている。こうした労働条件の改善が主眼ではあるものの、同時に派遣労働者の組織化に向けて労働組合に対する理解促進活動も実施している

(5)必要に迫られる労働組合幹部の育成
 労働組合幹部の人材育成が喫緊の課題である。このため、労働組合が設立した労働・社会研究所(DIEESE)で、大学レベルの教育を行うことになった。賢い労働者、労働組合のリーダーを育成する高等教育ができる道を拓いたことになる。

 以上のように、UGTは傘下の労働組合と団結し、他のナショナルセンターとも協力し、厳しい環境の中で、さまざまな問題・課題に果敢に挑戦し、労働者の負託に応えていく。

*1レアル=28.25円(2016年2月24日現在)