2014年 ブラジルの労働事情

2015年1月23日 講演録

ブラジル中央統一労働組合(CUT)
副会長 カルメン・エレナ・フェレイラ・フォロ
全国社会保障労働者連盟(CNTSS)
副事務局長 マリア・アパレシダ・ドアマラル・ゴドイ・ヂファア

 

1. ブラジルの労働情勢(全般)

 ブラジルは、2014年に総選挙という大事なプロセスを終えたばかりである。このプロセスによって、この先数年間、国がどの方向に進むのかが定まった。この選挙においてCUTは、過去12年間に労働者にとって重要な勝利となった政策について、どのような立場をとってきたかで判断している。
 1990年代に、ブラジルにおける労働市場は、労働の柔軟化に向けた一連の政策、すなわち業務提供契約、有期契約もあるが、とりわけ問題なのは変動報酬の仕組みが導入されため、実質的に勤労所得が低下したことである。この期間の特徴として、失業率はかつてない水準まで上昇し、労働市場では不安定な労働形態が大幅に増加した。
 しかし、2003年以降、国の政策の方向性が変わったことにより、長期にわたる失業率の低下とフォーマル雇用の増加へと移行した。2008年11月までは、ブラジルの労働市場は極めて好調で、記録的な数のフォーマル雇用契約が達成されたことにより、就業率はさらに高まった。世界金融危機後、これらの伸びは鈍化が見られたものの、ブラジル政府の景気対策をはじめとした様々な要因により、上昇基調を続けてきた。
 失業に関する最新の数値は、調査が開始された2002年以降で最も低いレベルを記録している。国内の主要6地域における失業率は、2014年11月には4.6%へ低下した。失業率低下に最も貢献したのは商業とサービス部門である。もう一つのプラスの要因として、ブラジルでは依然としてインフォーマル労働の割合が高いものの、労働手帳に雇い主の署名を受けたフォーマル雇用が増大していることが挙げられる。一方で勤労者所得は、過去12ヵ月間で3%の伸びを示し、最低賃金は過去12年間の累積で、インフレ率を72.31%上回る上昇を示している。4820万人近くが最低賃金を基準(最低賃金で働く労働者数ではなく、最低賃金を基準にして賃金が決定される労働者数)とした収入を得ている。
 国の最低賃金政策は2015年1月から、月額724レアル(約2万8120円)から788レアル(約3万606円)へ8.8%引き上げた。しかし、この水準では家族で生活を維持することはできない。ナショナルセンターの調査機関である労組間社会経済調査・統計所(DIEESE)は、4人家族に必要な最低賃金として計3000レアル(約11万6520円)を目安として示している。
 ブラジル地理統計院(IBGE)の消費者物価指数によれば、平均インフレ率は6.55%となっており、ブラジル中央銀行の定める金利は11.75%である。IBGEの全国家計調査によれば、2014年の平均失業率は6.8%となり前年の7.1%を下回った。業種別に見た失業者は、機械工業に最も集中している。

2. 労働組合の直面する課題

 雇用の創出、実質賃金の上昇という点で、成果を獲得したにもかかわらず、いまだに低賃金の仕事が多く、労働異動率は高いままである。そして、雇用の不安定化、業務の外注化のほかにも労働者の健康・安全、性・人種・年齢に基づく強い差別意識という問題が残っている。ブラジルの黒人は人口の42%を占めるものの、その平均賃金は、非黒人より36.1%低い。また、この国の指導的地位を占める女性は9%、黒人は1%に過ぎない。皮膚の色及びジェンダーの違いを理由とした就職機会における、不平等と労働条件の格差を是正することは、我々の運動課題の中でも極めて重要な課題として位置付けて取り組んできた。                
 企業コストの削減を目的とした業務の外注化が無制限に伸びており、このため労働条件が大きく不安定化し、疾病の増大、低賃金といった問題が発生している。こうした問題に対して、CUTは連邦政府、連邦議会に、業務外注化を規制する法案を提出し、可決された。この法よって外注化は規制されることとなったものの、外注業務の労働者の賃金水準は、一般の労働者に比べて27%低い水準となっている。
 公務部門の団結権に関するILO第151号条約(公務における団結権の保護及び雇用条件の決定のための手続に関する条約)、そして正当な理由のない解雇の制限および高い労働異動率対策を扱うILO第158号条約(使用者の発意による雇用の終了に関する条約)を常に重要な運動と位置づけ、批准に向けた闘いを続けている。とりわけ民間企業において、職場内組織を立ち上げる上で組合が直面している困難は大きい。産業部門によっては、1年未満で離職する労働者の割合が50%前後と高くなっており、とくに資格の低い部門では、賃下げを目的とした労働異動が日常的に行われている。

3. 解決に向けた取組み

 ブラジルでは大きな労働問題を取り扱う際に、ナショナルセンターが非常に大きな役割を果たしてきた。連邦政府との幅広い交渉手続きと体制を構築し、議会で獲得した成果の拡大を妨げる法案の成立阻止を目指して大規模な動員をかけてきた。有色人種の労働者の労働市場における労働条件確保、特に若年女性労働者の労働条件の改善運動において、また、2008年にはナショナルセンター設立の条件として、代表率を定めることにも成功した。
 これまでさまざまな成果を獲得してきたが、現在、世界的に経済が停滞する中、労働者の条件を悪化させるための調整がなされている。これに対抗していくためには労働組合がより強く、より民主的で、より独立性を保ったものでなければいけない。
 こうした問題の解決のためには国際的な連携が不可欠である。国際的には、とりわけ中南米諸国に関しては、労働者階級を強化する形で様々な国の組合との協力関係拡大に努力をしてきた。一国あるいは一地域だけで達成された単独の成果では、時が経てば、他の国々または他の地域へ国際資本は逃避してしまい、この結果、労働市場は構造的に破壊されてしまうと確信しているからである。

4. その他

 ブラジルは組合結成に関するものを含めて、外国人に政治的な権利を全く与えていない南米唯一の国である。これらの労働力を奴隷に等しい状態に服させることに対する闘いは強化しているものの、さらに移民を守るための政策が必要である。
 政府との関係に関しては、ナショナルセンターは常に独立性を保つべきである。政府の政策が正当なものであれば受け入れるし、正当でなければ受け入れない。われわれは労働者の声を代表するリーダーなので、時には圧力をかけることも必要である。ただし、常に政治的対話の環境づくりはしなければならない。過去10年間、社会面、人権面で労働者は数多くの利益や権利を獲得してきた。しかし、これは労働組合だけで手に入れたのではなく、社会全体を動員することによって手に入れたのである。

労働組合の力(FS)
サンパウロ州金属労働組合
執行委員 アドリアーノ・ヂアシス・ラテリ
ヴァルジニャ商業労働組合
委員長 シベレ・クリスティナ・レモズ・ヂ・オリベイラ

 

1. ブラジルの労働情勢(全般)

 ブラジルは成長段階にあるため、雇用も増え、賃金も上昇している。インフレ以上に賃金が上がっているため、ある程度安定しているとも言える。問題点は、仕事が流動的で回転が早いために、労働者は1つの仕事に長く従事できない。こうした中で、失業率は5%となっている。労働手帳(労働手帳は、正規雇用を証明するもので、年金、社会福祉、医療サービスを受けるために必要となる)へ記入のある正規雇用も大幅に増えているが、完全雇用には至っていない。
 現在、フォーマルセクター労働者が51.1%、インフォーマルセクター労働者が48.9%であり、インフォーマルセクターで働く労働者のほとんどは労働手帳を持っていない。インフォーマルセクターとフォーマルセクターでは、賃金をはじめ大きな格差が生まれている。インフォーマルセクターの拡大は、政府の税収が減ることにつながっており、ブラジル政府は約9000億レアル(約34兆9560億円)の損失との試算もある。さらに、外国からの多くの労働者が非正規労働者として働いている。特に繊維分野では、ボリビア、ハイチなどからの労働者が多く、法的保障が何も受けられない中で働いている。
 工業分野では、労働者の流動性が高く、組織化されている労働者でさえ解雇されることがある。そのような中で、実質賃金引き上げ交渉が非常に難しくなっている。金属部門では空洞化の問題も大きい。部品などが安価で輸入され、ブラジルの製品との競争を保つのが難しくなっている。25年前、加工産業は、全体の25%を占めていたが、現在は15%に下がっており、サンパウロ州工業連盟によれば、雇用も減少している。2014年には4万~4万5000人の従業員が減少すると予測している。2014年12月からは輸入が輸出を上回り、12億米ドル(約1459億円)の貿易赤字になった。製造業分野は賃金が高く、質の良い正規雇用が多い産業なので、こうした問題は、労働者にとって大きな問題である。

2. 労働組合の直面する課題

 労働者の転職率が高く、組織率が下がっていることに加え、賃金交渉で大きな困難に直面している。FSが懸念しているのは、現在のブラジルの経済政策である。産業の空洞化がブラジルにとっては大きなマイナスになることを懸念している。現在、ブラジルの経済を支えているのは最低賃金の引き上げによる購買力の増加である。この最低賃金は、ナショナルセンター間の熱い議論の中でつくられたものであり、社会の実質の価値を保つことができる最低賃金である。
 政府がナショナルセンターと同じテーブルに着き、お互いに話し合うことは重要であり、民主的である。現在は、政府が作成した政策を労働組合に提示する形をとっている。政府の提示したパッケージの中には、今までの経済調整、補塡調整のために190億レアル(約7380億円)が必要であり、そのため、所得税の非課税限度の引き下げ、増税、労働者の権利削減などが含まれている。例えば、雇用保険を受給する権利が継続雇用6ヵ月から18ヵ月に変更になり、これにより26.5%の労働者が雇用保険の受給資格を失うことになる。また、疾病保障、遺族年金などもこの新しい改革により減額されることになった。

3. 解決に向けた取組み

 FSは以前から、経済政策の誤り、誤った政策が製造業に及ぼす悪影響について警告してきた。しかし、政府の怠慢により、わが国の工業生産と雇用が危機にさらされている。
 最低賃金の調整政策と労働者のために実質的な賃上げとなるような賃金闘争の継続的努力の結果、国内消費は加熱している。このことは、経済的には好ましい状況であるが、その消費需要は国産品ではなく輸入製品によって満たされるようになっており、ブラジル国民に提供されているべき何千という雇用が海外に流出している。
 政府は労働運動の声を聞き、経済政策を転換し、金利を下げ、生産や工場建設、新技術の導入などの設備投資を促すとともに、労働者の職業訓練に投資しなければならない。これこそが、国内製造業を刺激し、産業空洞化の流れを止め、外国製品と同等の条件で国内産品が競争できるための道である。

4. その他

 労働組合の大会参加者の減少に対する戦略として、労働組合の闘争について知らせるためにソーシャルメディアを活用することと同時に、従来からの方法である各職場を労働組合役員が巡回し、労働者と直に接する機会を増やすことも行なっている。

ブラジル一般労働組合(UGT)
パラナ州電話回線設置部門労働組合
副事務局長 ヴィートル・エンリケ・バティスタ・カルネロッチ
サンパウロ環境保全サービス労働組合
委員長 ファビオ・ペレイラ・ダ・クルス

1. ブラジルの労働情勢(全般)

 2014年の失業率は5%前後で推移しているが、労働力の資格・能力水準が低いままであるため、インフォーマル雇用が多くなっている。労働者は最低賃金を下回る賃金で、法定労働時間以上という非人間的な条件のもとで労働している者もいる。

2. 労働組合が直面する課題

 現在、大幅に増えているのが派遣労働と請負労働であるが、このような労働形態は法律で規制されていない。特に、電機通信分野では、労働力の90%以上が派遣、請負となっている。労働者の転職率が高く、労働者同士がお互いに知り合うことができず、労働組合活動が極めて難しい環境となっている。
 また、労働検察庁が労働組合の活動に直接介入する問題が起きている。例えば、労働組合が労働協約の中で会社側と組合費の徴収について決めたとしても、徴収された組合費を労働組合が引き出すことを禁じる判決が労働裁判所から出されたり、組合幹部の選挙結果に対して検察庁が介入したりすることが起きている。こうしたことが起きる背景には、組合員の一部が労働協約や組合の決定に反対し、労働検察庁に不服の申し立てを行なうことによって、介入を招くものである。
 ブラジルの法定労働時間は、1日8時間、週44時間となっているが、全国の都市清掃労働者(ゴミ収集、街路清掃、運転手)は肉体労働で厳しい環境にあることを考え、労働時間を現在の週44時間から、賃金削減なしに36時間に削減する闘争を進めている。

3. 解決に向けた取組み

 労働市場における改革、特に製造部門における労働力の流動性を低減していく改革が必要である。労働検察庁の介入に関しては、国際労働機関(ILO)へ提訴していく。
 労働時間に関しては、使用者団体との交渉でなかなか成果を上がらないため、連邦議会に法案を提出するという戦術転換をはかった。法案は下院のすべての委員会で承認を得ており、現在、上院で審議中である。我々は労働者の署名を集め、上院での承認を求め議員への圧力をかけている。

4. その他

 我々にとって最大の課題は、業務委託(アウトソーシング)である。労働組合は同一職務・同一権利・同一労働条件を主張しているが、使用者はすべての分野でアウトソ-シングを可能にすることを狙っている。2014年にアウトソーシングを拡大する法案が可決されそうになった時、ナショナルセンターは力を合わせて法案の可決阻止に向けて抗議行動を行なった。結果として、昨年は可決されなかったが、2015年にこの法案はもう一度議会に提出されることになっており、再びナショナルセンター間の連携と大規模な抗議行動が必要となる。

*1レアル=38.84円(2015年3月12日現在)
*1ドル=121.62円(2015年3月12日現在)