2012年 ブラジルの労働事情

2012年10月19日 講演録

ブラジル中央統一労働組合(CUT)
ジャンジラ・マスエ・ウエハラ・アウベス

中央執行委員

 

1. ブラジルの労働情勢(全般)

 1990年代にブラジルは相次ぐ新自由主義的政権によって引き起こされた深刻な危機に直面していた。11年前にCUT出身のルーラ大統領が選出されて以降、過去20年間のネオリベラリズムの政治に終止符が打たれた。1999年から2009年の間にブラジルではフォーマル労働者数が伸び、労働市場には1500万人の労働者が新規参入し、2009年にフォーマル化された雇用は4120万人に達した。2000年代に国内総生産(GDP)は年平均3.4%の成長を示し、雇用総数の平均増加率は年5.1%となり、2004年から2007年までのGDPの伸びに対応したフォーマル労働市場の力強い成長が明らかになっている。
 2008年9月頃に広がり始めた国際金融危機はブラジル経済にも影響を与え、その結果はフォーマル労働市場にも現れた。危機に立ち向かうために連邦政府が採用した景気対策はこの国の経済活動の後退を防ぐことはできなかったものの、フォーマル労働市場への影響を減らすことには成功し、雇用増加の速度は低下したが、それでもなお、かなりの率で増加した。
 失業者数の減少は労働組合の交渉結果に改善をもたらした。
 ブラジルのフォーマル労働者の実質平均報酬額は2000年代に7.8%の伸びを示した。伸びが最も高かったのは2005年から2009年の期間で、約12.9%の平均所得の増加が見られた。この増加の主たる要因は最低賃金引き上げ政策である。しかしながら、ブラジルの労働者の平均報酬額は約787ドル(約6万1500円)と低いままで、地域間格差および男女格差が依然として存在する。
 近年のフォーマル労働市場の改善にもかかわらず、大きな課題と不平等が依然残っており、活発な取り組みが求められている。これには、ブラジルの労働市場の特徴である転職率の高さ、雇用の質が低い職種が圧倒的多数を占めること、標準的な給与支払い契約の対象外で社会的保護や社会保障も得られないインフォーマル労働者の存在が挙げられる。

2. 労働組合が直面する課題

 さまざまな課題の中で、組合(CUT)は以下の3点を特記する。
a) 労使関係を民主化させ安定性を図る-歴史的にブラジルの労使関係の基盤にはまったく民主制が存在せず、横暴、嫌がらせ、尊重の欠如が中心的になっている。
b) 業務外注(アウトソーシング)-現在、あらゆる産業部門、経済部門でアウトソーシングが行なわれており、労使関係および労働条件不安定化の主たる要因となっている。利潤の拡大、労働組合つぶし、労働者の権利を剥奪する企業が用いるアウトソーシングは、高い転職率、職場内差別、嫌がらせ、労働災害の発生につながる可能性がある。
c) 公共部門における団体交渉-ブラジルの行政部門では立憲当局と公務員組合組織との間に実効的な交渉の道がほとんど存在しない。
 ブラジルの労働者の生活を良くするためには、国内の生産性を上げなければいけない。そのためには、構造改革が必要である。例えば、港、鉄道、空港、道路舗装など経済インフラ整備をしなければならない。また、国内の産業の拡大も必要である。しかし、実際には多国籍企業がブラジルに進出し、帝国主義的な活動を行ない、ブラジルから富を搾取するということが起きている。産業を国営化することも必要である。私たちが望んでいることは、多国籍企業が進出するときには国内に技術移転を行ない、その中でブラジルも成長できるようにすることで、よりブラジルも他の先進国と同じ立場になることができる。通貨レアル高によりブラジルの生産品の輸出が難しくなるという為替の問題もある。さらに、教育・保健・公衆衛生の分野を改善していくことが重要である。

3. 課題解決のための取り組み

 第一に、ルーラ大統領がスタートさせた大衆政策を継続すること。現在のジルマ・ルセフ大統領も政策を継承しており、労働者階級にとって良いシナリオを作っていくことである。労働組合は政府を支持しているが、現在ブラジルは連立政権であり、政策策定の中でいろいろな対立がある。中には保守的な政党もあり、ネオリベラルな考えもまだ政治の中にある。政府や他のナショナルセンターにも質の高い政策提言を行なっていく。政策実現のためには、すべての労働者の動員が必要である。
 職場から労使関係の民主化を進めることはCUTにとって必要不可欠な課題である。そのためには、基本的な権利、社会的保護、良質の雇用の創出を保障することをめざす公共政策の規制機関としての国家の役割の強化が前提となる。
 私たちは尊厳ある労働の保障に向け、労働者がその条件にかかわらず権利の平等を享受できるよう行動および取り組みを展開しており、既にさまざまな闘いを実施してきた。一例として、アウトソーシングの規制に向けた立法提案と、保守派および反組合派によって提案されている労働不安定化の合法化に反対する闘いの強化が挙げられる。CUTの方針は直接雇用労働者の権利をアウトソーシング先の労働者にも拡大する条項を労働協約に挿入し、CUTに加盟する単組、産別、連合体を通じて主要産業での労働者の声を代表できるようにすることである。
 労使関係不安定化反対闘争の中で重要な出来事としてILO第158号条約批准推進キャンペーンがある。これは最低賃金で採用し理由なく解雇することがもたらす高い転職率と、賃金引き下げに終止符を打つための歴史的な権利回復運動である。国会通過に向けまだ課題が存在するものの、ブラジルの組合運動、とりわけCUTとその加盟組織による活動は、統一賃金キャンペーンと共に、CUTの定める基本戦略の一つである権利の維持と拡充に向けた闘いにおいて重要な役割を果たしている。CUTは2014年のワールドカップおよび2016年のオリンピックにおいて権利侵害が起こらないようにするための活動調整も行なっており、国際労働組合総連合(ITUC)およびITUC米州地域組織(ITUC-TUCA)と共に「クリーン・ゲーム!」キャンペーンを実施している。
 公的部門に関しては、ILO第151号条約批准を通じて公務員の団体交渉権を巡る闘いで勝利したが、その施行のための期間が既に経過している。したがってCUTは、統一データベースによる連邦構成単位ごとの団体交渉の即時導入、あらゆる公共行政機関、独立採算国営企業、社会事業団における平等報酬キャリアプラン、一元的法制度の導入、公共労働者の健康保護政策の導入を通じたILO第151号条約の施行に向けた闘いを展開している。

4. 政府との関係

 ルーラ政権の開始した人民民主主義事業の継続が労働者階級にとってより好ましい状況のための至上命題であると考える。8年間にわたるルーラ政権を経てもなおブラジルにおいては支配的な階級の中核である金融資本が持つ影響力が強いことは明らかである。経済政策の変更に向けた私たちの要求にもかかわらず、高金利、黒字第一、為替レート引き上げの新自由主義論理が維持され、CUTが擁護する金利の統制と実質的な引き下げを保障する総合的な課税改革を含む国家開発プロジェクトの実行を困難にしている。
 ジルマ・ルセフ政権の大きな成果は金融資本力との対決とその削減である。公立銀行を用いて政府が金利引き下げ政策をとったことにより、民間金融機関も金利を引き下げざるを得なくなった。雇用擁護、国家開発、資本に対する新たな国際規制の構築がCUTのめざす目標となっている。

5. 多国籍企業の進出状況と労使紛争

 多国籍企業の存在が大きくなっていることはブラジルがグローバル化の中に取り込まれていることを示している。とりわけ、金融システム、小売業、化学、食品、電気通信、エネルギーなどの部門に進出する外国資本の速度と規模には特筆すべきものがある。
 国際コンサルタント会社のKPMG社の最新「合併・買収調査」結果によれば、2012年上半期に167社のブラジル資本企業が、外国資本が過半数を占める企業に買収された。買収された企業のうち、21社が対事業所サービス、17社が情報技術、10社が化学製品・医薬品、9社が食品・飲料・たばこ、8社が電気通信・メディア、7社が電子製品、7社が鉱業、6社が化学・石油化学製品、3社がエネルギー、4社が工学製品、3社が不動産、2社が石油・ガス、2社が金融機関、1社が砂糖とエタノール、7社が出版編集、2社が教育、5社がショッピングセンター、1社が衛生、1社が運輸、2社が小売店舗、2社が冶金・製鉄、4社が建設・建設資材、2社が港湾・空港サービス、2社が自動車部品、1社がホテル、5社が航空、2社が肥料、3社が梱包、2社が車両組立、18社がインターネット業務に従事し、8社が業種不明となってい。
 かつて国内企業であって近年外国資本の管理下に移った企業数は1167社に及ぶ。大手国際企業500社中420社がブラジルに存在し、一般的にそれぞれの業種において主導的な地位を占めている。このような外国からの投資は国内生産を拡大するような工場新設に向けられておらず、既存工場の買収に向けられ、生産能力の拡大はまったくまたはほとんど期待できない。ブラジルはブラジルの生産能力を増大させるだけでなく、生産連鎖の密度を高め高度新技術を移転し、国営企業がこの過程により積極的に参加できるようにし、国内の中産階級を再び創出し、それによって産業労働者階級を大いに拡大するような外国投資誘致政策を策定し、適用する必要がある。
 労使紛争に関しては、結社の自由、団体交渉、児童労働および奴隷労働の禁止といった労働の基本的な権利の侵害が見られる。企業の生産連鎖を分析するにつれ、こういった侵害の起こっている頻度も深刻さも増す。多国籍企業の下請けプロセスがより奥深く、より分散するにつれ、深刻な紛争と侵害に出会う可能性が高まる。

ブラジル労働者の力(FS)
アントニオ・ドゥソウザ・ハマリオ・ジュニオ

サンパウロ市建設土木労働組合執行委員

 

1. ブラジルの労働情勢(全般)

 一般的に言って、非公式(インフォーマル)部門の縮小していく速度は低下してきている。しかしながら、ナショナルセンターの活動により、ほとんどの産業部門で賃上げを達成し、また、統合労働法(CLT)を尊重させることができている。

2. 労働組合が直面する課題

 2008年に労働雇用省第186号省令が出された。この省令の目的は、すでに労働組合の存在する地域レベルの組織内に新たに別の職業別組合を設立することができるようにすることであり、労働組合の分割をもくろんでいる。その結果、既存の労働組合においては、組織力と団結力が低下し、新たな労働組合と共に弱体化し、経営者に対する交渉力を失うところも出てきた。
 また、政府が「組合税」の制度を廃止しようとしていることも労働者の力をそぎ、財政基盤を弱体化する動きである。〈これに対する見解はナショナルセンターにより異なる。〉

3. 解決に向けた取り組み

 ナショナルセンターは一致して第186号省令の廃止を求めて活動を行ない、各拠点において議員と協力して働きかけている。現在、この省令が無効となる新条例案が議会を通過する見込みであるが、施行がいつになるかは未定である。
 これまで取り組んできた活動の1つの成果として、共済基金であるFGTS基金がある。1966年にできたこの基金は、純資産が1500億米ドルに相当し、労働者が自ら運営し、家の購入補助、インフラ整備、公衆衛生などに使われている。労働者を取り巻く環境を改善することに役立っている。
 ブラジルの最低賃金は月311米ドルだが、サンパウロ市内の土木建設関係労働者の最低賃金を月700米ドルに引き上げることに成功した。

4. 政府との関係

 常に対話を促進し、良好な関係の円滑化をめざす関係である。ジルマ・ルセフ政権では、労働者の声を反映させるために抗議活動を組織せざるを得ないこともある。労働者の声にもっと耳を傾けたルーラ政権の路線を維持するよう要求している。

5. 多国籍企業の進出状況と労使紛争

 基本的に、多国籍企業はブラジルの法令などを遵守している。しかし、金融危機の際には、解雇や賃下げが行なわれた。多国籍企業が労働者にとって、雇用の安定性や成長を表すものではなくなった。

ブラジル一般同盟(UGT)
パウロ・セザール・ホッシ

政治・教育訓練担当執行委員
UGTパラナ州会長

 

1. ブラジルの労働情勢(全般)

 2011年にブラジルでは224万2,000人分のフォーマル雇用が創出された。これは2010年と比較すると21.63%減である。ブラジルにおける雇用減少のあらわれであり、主たる原因は世界経済危機である。
 一つの良いニュースは、ブラジルの労働者の平均月給が2.93%増の1902.13レアル(1000米ドル、約7万3200円)になったことである。この引き上げは賃金引き上げを求める活動と労働組合の団体交渉を通じて可能になった。
 入手したばかりの労働省のデータによると、ブラジルの新規雇用創出は15万人であった。この数字は昨年9月と比較すると28%減少している。最も雇用を創出している分野は第2次産業で、これはジルマ・ルセフ政権が行なった金利削減政策や産業奨励政策がうまく機能しているあらわれと見ている。

2. 労働組合が直面する課題

 公共部門の労働組合運動は、ルーラ大統領政権とは異なり、ジルマ・ルセフ大統領政権との対話の欠如という困難に直面している。ブラジルは今日に至るまで公務員のスト権を扱うILO第151号条約を批准していない。
 もう一つの問題は、経営側から助成を受けて創設された労働組合の問題である。第186号省令により、労働者を代表せずに組合税の配分を得るためだけに新しい労働組合が作られることがあり、これが労働組合運動を大きく弱体化させている。
 ブラジルの労働組合運動はディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を擁護している。この国にはまだ多くの奴隷労働と心理的嫌がらせおよび性的嫌がらせが存在する。

3. 解決に向けた取り組み

 労働組合運動は一致してILO第151号条約の批准を要求している。また、賃金の引き下げなしに、現在の週44時間労働を40時間へ短縮する取り組みを行なっている。
 依然として世界屈指の高さにあるブラジル連邦政府金利の引き下げ、減税および経済・社会開発奨励策も求めている。

4. 政府との関係

 UGTは政府(連邦、州)とは独立した関係を有する。新規雇用の創出とわが国の発展をめざす政策であれば支持し、政府のあらゆるフォーラムおよび評議会、三者構成の評議会などに積極的に参加している。

5. 多国籍企業の進出状況と労使紛争

  ブラジルの経済成長に伴い、進出する多国籍企業の数が増えた。これらの企業との労使紛争は一般的には、賃金引き上げ、1日の労働時間短縮をめぐり、また労働組合の弱体化などの不当労働行為である。
 自動車産業では労働組合がこれらの権利を求めてさまざまな動員活動を行なっている。一例としてブラジル南部のクリチバ市で発生した事例を挙げることができる。労働者が企業(アウディとルノー)の利潤および利益の分配を求めてストを行ない、成功を収めた。