2010年 ブラジルの労働事情

2011年2月18日 講演録

労働組合の力(FS)/ブラジル
ヴァウテル ファブロ(Mr. Walter Fabro)

グアポレ市・靴・被服・部品産業労働組合委員長

マリア オウグスタ カイタノ ドス サントス マルケス(Ms. Maria Augusta Caitano dos Santos Marques)
ボトゥポランガ商業労働組合委員長

 

1.労働事情(全般)

 ブラジルの雇用情勢は、国内消費の拡大と為替レートの影響による国際競争力の向上に支えられ、最近2年間の経済成長が原動力となって良好な状態で推移している。最低賃金は2011年1月に改定され、月額545レアルに引き上げられることとなった。
 良好な経済状況にもかかわらず、労働者の技能不足が大きな問題となっている。この矛盾は、経済情勢の好転を契機に、産業分野では大きな技術的進歩を遂げる一方、公教育制度の改革が行われず、教育水準が過去10年間進歩していないことによる。現在の労働力は量的には豊富であるが、質的な問題を抱えており、高い賃金水準の雇用に対応できていない。国は長期にわたって、靴、被服等の高い専門知識を必要としない産業での雇用機会の創出を奨励してきたが、これらの産業ですら、より習熟度の高い労働者を求めるようになってきた。結果として労働組合は、労働者の能力向上について、より直接的に関与する必要に迫られている。

2.労働組合が現在直面している課題

 労働組合が直面する大きな課題の1つは、組合組織を支えるための資金調達の方法に関連するものである。1988年の新憲法以降、考え方が徐々に変化し、労働者が労働組合に対して訴訟を起こすなど、組合費の強制的な徴収問題が司法の場で論議されるようになっている。この状況は、闘争体制の強化をめざす労働組合にとっては深刻である。組合費徴収を目的として組織される組合も出現している。この新規組合は組織の理念が不明確であり、部門内の分断を企てる新しい下部組織を生み出している。国会では、労働組合の活動資金調達方法の法制化を目的とした法案が議論されているが、審議は進んでいない。

3.課題解決に向けた取り組み

 国会および国政レベルで大きな影響力を確保し、労働組合が考える具体的かつ効果的な政策を可能にする法律の制定に向けて努力している。また、国会での論議が停滞していることから、他の活動資金調達方法の導入を追求するとともに、組合活動の縮小を含む経費節減に取り組んでいる。

4.ナショナルセンターと政府との関係

 ブラジルでは、地域的な活動をする労働組合が、州レベルで活動する同じ職種の上部団体の連盟に加盟する。そして、各連盟が全国レベルで活動する同じ職種の上部団体である連合に加盟するという組織構造となっている。以前は、この連合が連邦政府に対してその職種の労働者を代表する組織となっていた。
 しかし、過去20年間で、ナショナルセンターという新たな組織形態ができ、多数の職種の労働組合、連盟、連合が参加し、幅広い労働者が結集している。このナショナルセンターが、雇用と所得の配分に関する社会政策、年金政策、最低賃金設定政策等、重要事項に関する政府との協議において労働者を代表する役割を果たすようになっている。
 現在、ブラジルには6つのナショナルセンターがある。CUT、FS、UGT、CTB、CGTBに加えて、もう1つ新しいナショナルセンターができた。国内的には、統合の必要性が提唱されているが、現実的には難しい状況である。ブラジルのナショナルセンターはイデオロギー的な均一性が高く、活動を行うときは1つになって運動している。このため、政府も交渉の相手として互いに認め合う関係となっている。

5.多国籍企業の進出と労使紛争の状況

 ブラジルのある多国籍企業では、国内最大のフランス系と米国系の2つのグループ企業において、長時間労働の問題に関して係争中である。このような紛争に対しては、すべての労働者を含めた共同闘争で取り組む必要があり、ナショナルセンターの指導の下に、労働時間を週40時間に減らすよう国会に対する啓蒙活動を行っている。

ブラジル一般労働組合(UGT)
モニカ ダ コスタ マタ ロマ(Ms. Monica da Costa Mata Roma)

リオデジャネイロ市商業労働組合教育局長兼UGT米州統合国際局次長

 

1.労働事情(全般)

 ブラジルは著しい発展を遂げている。労働者は労働の質的向上に努め、その結果として生活の向上を勝ち取り、重要な成果を達成している。経済状況も良好に推移しており、多くの新しい雇用機会が創出され、恵まれた状況にある。過去10年間に、電力と石油部門の発展に寄与した工業部門が特に多くの雇用機会を創出した。
 ネオ・リベラル派が政権の主流であった時代は、失業率が上昇し、労働法制の緩和も目立ったが、進歩主義の政権が始まって以来、失業率が大幅に低下し、7%台となっている。
 ブラジルの労働市場では熟練労働者が不足している。経験の少ない若者を、いかに労働市場に統合し、育てていくかが課題である。現在、雇用が十分に維持されていながら労働条件が全体的に低下している理由として、労働者自身にそれだけの知識と能力が備わっていないことが考えられる。

2.労働組合が現在直面している課題

 ブラジルの各労働組合が直面している共通の課題は、行政府の労働組合への強い干渉を可能にしている現行の労働法の問題である。労働組合の権利が法制化されていないことが、労働組合の企業内における労働者代表性を欠如させ、労使関係を不透明にしている。

3.課題解決に向けた取り組み

 UGTは、労働協約の締結等を通じた多岐にわたる活動により、労働者階級の種々の課題を解決すべく努力している。労働組合の総体としての政治的影響力を高めるために、複数のナショナルセンターが協調して闘争を行うこともしている。
 具体的には、次の3つの方面で政治的圧力をかけている。第1は、労働者の権利・義務に対する意識の向上、第2は経営者団体との協議を通じた個別および集団的な協議、第3は、市・州・連邦の各レベルでの評議会、労働委員会、労働グループを通じての行政との協議である。

4.ナショナルセンターと政府との関係

 前政権から引き継がれている進歩主義の政権下では、経営者と労働者が平等の立場でものを言うことが可能となっている。労働組合は、政府に働きかけ、公共政策の導入という成果を挙げた。ブラジルの労働法は、多くの場合、労働者が参加した三者協議を通じて制定されてきた。
 ナショナルセンターによっては、政治的傾向の強いものもあるが、UGTは政治的に特殊な傾向はない。労働者の利益を守る闘争を行う立場をとっており、政府に対して独立して批判・要求を行う団体である。

5.多国籍企業の進出と労使紛争の状況

 ブラジルで活動する多国籍企業の最大の問題は、ブラジルの政治・社会への現実的な対応と労働法の理解にある。政府が様々な税金を廃止したため外資が数多く参入しているが、問題となるのは、その多くが自国において適用している労働条件を、ブラジルでは適用していないということである。現在、ブラジルで唯一労働組合運動的に条件が備わっていると考えられるのは商業分野の外資系企業カルフールである。そこでは、ブラジルの労働法規がきちんと適用されている。