2009年 ブラジルの労働事情

2009年9月4日 講演録

ブラジル中央統一労働組合(CUT)
ヘジャーニ・グイマラエス・ピタンガ(Ms. Rejane Guimares Pitanga)

CUTブラジリア州会長

 

 ブラジルにおける問題点として、[1]インフォーマルセクターで働く労働者・非公式労働者*1の問題[2]アウトソーシング問題[3]労働時間短縮問題などがあげられる。
 インフォーマルセクターで働く労働者たちの多くは女性や黒人で、経済危機によって大きな影響を受け、雇用情勢は非常に不安定な状況下にある。失業率も現在10%台にまでに上昇し、深刻な問題となっている。こうした問題に対して、ナショナルセンターが協力して対策を講じている。
 ブラジルの人口は、約1億8,400万人、経済活動人口は8,200万人、そのうち4,200万人が非公式労働者である。非公式労働者は、ブラジルの労働法が不十分ながらも保証している権利すら享受できずにいる。労働者の集団的権利の保護が不十分であることに加え、多数の労働者が非公式労働者であることが労働組合活動に大きな困難をもたらしている。
 アウトソーシング(公的部門労働者も含む)は、企業コストを引き下げるための手段であり、その結果として賃金が低下している(平均500レアル又は267.80米ドル)。従業員代替率が極めて高く、多くの場合労働者の最低限の権利すら保障されない。現在、われわれは国会でこの問題を取り上げている。
 CUTは、他のナショナルセンターと協力して労働者の生活向上のためにさまざまな問題提起と働きかけを行っている。特にILO条約の151号(公的部門の団体交渉権)と158号(不法解雇の禁止)を批准するよう強く働きかけている。公的部門において、1988年憲法が労働組合の設立とストライキの権利を定めているにも拘らず、労働法が団体交渉に関する原則を定めていないため、民間部門および公共サービス部門の労働者が団体交渉を開始するための武器としてストライキを行うのが通例となっている。
 また、158号の批准は雇用の保護・安定を保障するメカニズムを労働市場に構築するための極めて重要な要素である。
 労働時間短縮問題は、週44時間から40時間への削減である。それによって、200万人の新規雇用が創出されると見込まれている。われわれは、政治家に圧力をかけるためにそれぞれの州でも行動している。10月7日にディーセントワークと労働時間短縮の2つをテーマに大規模な行動を起こす予定である。
 さらに [1]金利の引き下げ [2]男女平等、障害者への雇用の機会の提供 [3]環境問題と持続可能な開発 [4]若者対策 [5]人種差別撤廃なども要求している。
 今年8月CUTの大会で、今後それぞれの州で労働者を結集し、要求の内容を詳しく話し合いながら、行動を固めていくべきとの方針を打ち出した。
 2010年10月には大統領選挙が行われる。ルーラ現大統領は3選禁止規定のためこの選挙に立候補できない。今度の選挙はイデオロギーが非常に重視されており、われわれはこれから力を結集して働きかけを強めていかねばならない。

*1【非公式労働者】:ブラジルでは労働に従事する場合、「労働手帳」の取得が義務付けられており、それによって労使関係が立証されることになる。「労働手帳」は、正規雇用を証明する重要な書類であり、厚生年金、社会福祉、医療サービスなどを受け取る際にも重要な記録となる。現在は、社会福祉手帳と一緒になり、“労働及び社会福祉手帳”となっている。労働手帳を取得している正規雇用の労働者とその手帳を取得できずに働く非公式労働者とに区分される。

労働組合の力(FS)/ブラジル
マルコス ペリオト (Mr.Marcos Perioto) 

FS 政治・経済担当

 

 今日のブラジルにおける労働情勢は、富の極度な集中、甚だしい労働搾取、高い失業率など、多くの人々が不安定な労働状況下にある。これらはブラジルの資本主義の拡大から生じた負の遺産といえるものだ。ブラジルには労働市場に応じていくつかの構造的特徴がある。[1]低賃金、[2]労働者の入れ替えが頻繁に行われること、[3]長時間労働、[4]公式契約のない不安定な労働者の存在などである。低賃金は、労働市場の形成や労働者の組織化の困難さ、長期に及ぶ国による賃金統制、90年代中頃からの著しく高いインフレなどの要因による。90年代は資本主義の影響力が非常に強く、労働者はただ使われるだけで、きちんと労働条件が守られていない状態にあった。現在、雇用状況をどのように改善していくべきかを考えているところである。その一方で、2004年から賃金は上昇し、2005年~2008年の団体交渉の結果としてインフレ率を上回る賃上げを獲得することができた。
 もう一つの非常に大きな問題として、労働者の入れ替えが頻繁に行われていることがあげられる。その結果、せっかく団体交渉で得た権利を失い、労働者は解雇されてしまう。年間40%の労働者が入れ替わっている。
 2007年は、1,400万人が雇用されると同時に1,200万人が解雇された。そこでわれわれは、理由なしに解雇できないようILO185号条約の批准を強く望んでいる。FSとしては大量の失業者を出さないように法律をもっと広範囲に適用させなければいけないと考えている。全解雇者の約60%が正当な理由が無く、または理由不明のまま解雇されている。労働者の解雇が容易なため、企業は給与の高い労働者を解雇し、低い給与で新しい労働者を雇って、人件費を削減する従業員入れ替えメカニズムを利用している。それゆえ、労使間の話し合いの義務づけ、使用者側に対する罰則規制が必要だと考えている。
 ここで大切なことは、4つのナショナルセンターが4年前から統一目標として掲げているテーマについて、一緒に行動したことである。それぞれの労働組合が、同じ方向に向けて一緒に結集しようという立場をとっている。一つの例は、すべてのナショナルセンターが合意して作った統一アジェンダを2007年に幾つかのテーマに分けて作りあげたことである。5年前からすべてのナショナルセンターが統一して多くの訴えを行い、ナショナルセンターが公式に認められる権利を勝ち取った。また、男女平等ディーセントワーク、賃上げなどの要求を現在行っているところである。
 2009年の経済危機に際しても、デモ行進、議員への働きかけを行ったり、シンポジウムを開催するなど、さまざまな活動を合同で行っている。
 われわれが望んでいるのは、政治と労働者、労働組合との対話が民主的な形で行われることである。

ブラジル一般労働組合(UGT)
ジャン カルロ リベイロ ロチャ (Mr. Jean Carlo Ribeiro Rocha)

サービス産業労働組合 書記長兼UGT執行委員

 

 ブラジルでは2008年に145万人の雇用が創出され、前年比5%増加した。労働者が平等に受ける各種恩恵の中で、われわれが特に重要だと考えているのは第13の賃金*1、有給休暇、FGTS*2(雇用契約期間の給与積立金)である。労働者は、FGTSと失業保険の手当を受け取ることができる。
 2008年には正規労働者が3,041万人、失業率は7.6%であった。今年の3月には、経済危機の影響を受けて失業率が9%に上昇し、失業問題や経済危機を乗り越えるためにナショナルセンターは、政府にいくつかの提案を行った。そのうち主なものは以下の通りである。

  1. FGTSにある980億レアル(1レアル= 51.8137円、09年11月18日現在)の積立金の解除。
  2. BNDES(Banco National de Desenvolivimento Economico e Social=国立経済社会開発銀行)への1,000億レアルの追加投入。ペトロブラス(ブラジル国営石油公社)や成長加速プログラム(PAC=Programa de Aceleração do Crescimento)以外に、ガス・エネルギー部門、資本財、インフラ部門への優先的投資。
  3. 自動車業界に対する工業製品税(IPI)の減税。免税リストに建設資材、防水剤、セラミックコーティング、冷蔵庫、レンジ、洗濯機、小型タンク等を追加。
  4. 国家通貨委員会(CMN)による農業ビジネスへの126億レアルの追加融資。
  5. 失業保険対策として新たに21万人以上の求職者のために雇用保険料を特別支給。
 オートメーション化により、いくつかの分野で雇用が減少し、サービス分野では雇用が増加した。現在われわれが重視しているのは、労働者が今まで獲得してきた権利を維持することである。多くの労働者は、企業が株式市場で被った負の影響によって解雇などの不利な立場にたたされている。多くの企業は、今まで労働者に行っていた付加給付を経済危機を理由に無くそうとしている。それに対しわれわれは、労働者と直接連携し、労働裁判所や検察庁、法務局などを通じてさまざまな活動を行っている。極端な例ではあるが、アウトソーシングで雇用を失った労働者のために、企業の銀行口座を差し押さえ、労働者の賃金を保障することも行っている。さらに必要があれば、労働者の意見を聞きながらストライキなどの行動に出ることもある。
 UGTは、558の労働組合、30の州レベルの組合連盟*3を代表しており、常に政府と話し合を行っている。われわれは多くの労働者を代表しており、社会からも信頼を得ている。
 政府は1995年に外国投資を積極的に導入し、それによって多くの多国籍企業がブラジルに進出した。いまもブラジル政府に信頼を寄せて多くの多国籍企業が進出してきており、それらの企業はブラジルの中でさらに成長している。例えば、化粧品会社のニベアは17%成長した。そのほかでは、日産ブレーキ、マナウス州においてはソニーが生産を倍増する予定である。これらにより雇用の拡大が期待されている。

*1:【第13の賃金】
ブラジルでは、年末手当に相当するものとして13ヶ月目の給料があり、12月20日までに1か月分の給料が支払われる。

*2:【勤続年限保証基金(FGTS)】
FGTS(Fund for the Relationship Time=雇用契約期間の給与積立金)は、憲法第7条第3項に規定された労働者の権利として、社会保障及び統一労働法(CLT:Consolidação das Leis do Trabalho)のおいて、労働者の権利を保護するために定められている。本制度は、雇用者である企業に労働者の退職手当を積み立てることを義務付けている。基本的には労働者が退職する場合、退職金を支給する制度であるが、退職金のほかにも住宅購入、失業等、規定に基づいた名義人の必要資金と認められる場合、支給することができる。
企業はFGTSとして、被雇用者の月給の8.5%に当たる金額をFGTS口座(政府系銀行= Caja Economica Federal)に積み立てなければならない。また、被雇用者が正当な事由なく、解雇された場合、雇用者は当該積立金に40%上乗せして支払わなければならない。(出典:OVTA)

*3:【ブラジル労働組合の組織構造】
・労働組合に関する規定は、CLTに定められており、労働組合及び雇用者組合(企業組合)があり、それぞれが経済的条件を擁護するため組織化している。
・労働組合は職種別に作られているのに対し、企業組合は産業別に組織されている。
・労働組合(Sindicato)と企業組合の上部団体は、州単位としては連盟(Federação)、全国レベルでは連合(Confederação)である。