2008年 ブラジルの労働事情

2008年12月3日 講演録

ブラジル中央統一労組(CUT)
ジョゼ・カルロス・ゲデス

 

 ブラジルでの重要課題は富の分配である。その中で最低賃金は、最も重要な役割を担っている。ブラジルは国土が広いため地域間で大きな格差が出ている。要するに、未だ奴隷の如き悲惨な労働条件のもとで働かなければならない地域と業種が存在する一方で、労働組合の権利が尊重され、給与水準も高く平均賃金が最低賃金の3~4倍に達する地域と経済分野が存在している。
 1994年~2003年までの経済危機を契機に、市場開放を行い大きな変革が訪れた。その当時の最低賃金は100ドルまでいかない状況だったが、ナショナルセンターを中心に最低賃金見直しの必要性を訴える運動を起こした。そして、インフレによる損失補填および国内総生産の成長率が相当する実質給与引き上げを保障する法律の制定に関して交渉し承認を得た。これは、現在のルーラ大統領の政策提言の一つで、所得配分の手段として極めて重要なものとなっている。その結果、今年はじめの最低賃金は230ドルまで上昇した。
 現在の最低賃金は、1ヶ月あたり415レアル(約16,185円/1レアル=39円:09年1月20日現在のレート)である。統計局の数字によると、すべての労働者が生活を営むために必要な額は2,000レアル(同上)だと報告されている。その数字をみても分かるようにまだこの最低賃金が十分ではないことが明らかである。
 2008年の憲法改正により、それぞれの州で自立的に最低賃金を設定できることになった。最低賃金を変えた州が3つあるが、すでに州によって差がでてきている。我々が生活を豊かにするための改善努力はまだまだ必要だと考えている。
 ブラジルには労働手帳というものがある。労働省が発行・管理を行っており、労働を公式化、正当化し、経営者のサインがあることによって労働契約が結ばれた証明となるものである。
 この手帳に経営者のサインが無いと健康保険、失業保険や年金に加入することができず、福利厚生などの恩恵も一切受けられない。
 正式に登録された正規の労働契約は、一時期劇的に減少し、正規に登録されていない労働者が経済活動人口の50%にまで達したが、現在のルーラ政権下での経済成長の再開により、ここ8年間に正規労働契約が再び増加してきている。
 2007年だけでも新しく労働手帳を持って働けるようになった労働者が245万人となった。
 この労働手帳は外国人も行使でき、最近大統領令が発令され、およそ5万人の外国人労働者が労働手帳を受け取って正規で働くことができるようになった。この手帳には、職歴や過去の賃金なども記載されており、2009年以降、順次デジタル化されることになっている。

労働の力(FS)/ブラジル
マリア・イエダ・デ・マトス

 

 ブラジルには、多くの職能組合が存在し、労働契約はCLT(統一労働法)に基づいて正規労働者として登録され労働手帳を有する正規契約と労働手帳を有していない登録されていない労働者の個別契約により統治され、組合は国家の管理と組合の自治が混在された制度の下に運営されている。連邦憲法が労働組合の自由と自治を保証する一方で、労働組合は労働省とその省令を通じて国家により管理されている。
 労働組合の組織は、単一産業労働組合(第1代表)、労組連合(第2代表)、労組総連合(第3代表)およびナショナルセンターにより構成され、ナショナルセンターは近代合法化が進んでいる。
 しかし、ブラジルにおいて過去の労働組合の自由を抑圧する多くの政策が実施され、ナショナルセンターの合法化はようやく2008年に実現したばかりである。
 労働組合の代表性には、単一代表制(職種別または業種別労組)と複数代表性が存在し、法律に定められた基準に準拠し認可されたナショナルセンターはCUT、FS、 NCST、UGT、CGTB、CTBの6つとなる。
 ブラジルの労働運動は多くの問題を抱えているが、その一つとして労働時間の短縮があげられる。これは、賃金が減らないような形で労働時間を短縮してくということが非常に重要だと考えている。当面の目標は現在の週44時間労働を40時間に減らすことで、これにより若年層の労働者、40歳以上の労働者の雇用確保をしていきたいと考えている。
 また、この労働時間短縮によってさらに200万人の雇用創出が考えられ、職業病をはじめとした健康の問題が減少することも期待している。それに加えて労働者の余暇時間が増え、仕事と家庭の両立が可能となり、労働手帳にサインをもらえずに働かなければならない非正規労働者が減るのではないかと期待している。
 このような問題に対しての対策として、
 1)100万~200万人の署名活動を展開し、集約した署名を連邦政府へ提出、問題解決への陳情行動を行った
 2)各工場、もしくは事業所内に日本の企業別組合のように困難な問題などがある場合に討議するための組織(労働者が労働条件をはじめ、職場で困難な問題や悩みを解決する場)を作ることを広めている
 3)労働者の意識向上キャンペーンの実施
 その結果として、2009年に「事業所内で繰り返しの多い不健康な仕事をさせることによって離職しなければならなくなった労働者の数があまりに多い企業を罰する」という法律が制定された。

ブラジル一般労働組合(UGT)
ジゼーレ・クリスティーネ・ナコナスキ

 

ブラジルでは長い間、軍事政権が続き、80年代半ばになってようやく民主化の道を歩み始めた。それと同時に市場が開放され、多国籍企業、外国資本が流入する事態となった。民主化のプロセス開始から20年余りが経過した今日、その結果は経済的には肯定的なものであったとしても、労働事情についてはそれほど肯定的なものではなかった。インフレ抑制には顕著な成功を収めたものの、生産手段の機械化と作業要員の減少による失業率の上昇、外部からの派遣労働者の増加、恒常的な労働組合の弱体化と労働法の柔軟化の試み、低賃金、モラルの低下、労働衛生問題等、社会的に多くの問題が出現した。
昨今では、労働力のアウトソーシングの問題が顕著になっている。ここでいうアウトソーシングとは、大きな企業の中で一部の業務を安い工賃、安い労働力のところに業務を発注するということではなく、日本でいう派遣労働者を雇うことによる業務の担い手の転換だと考えて欲しい。
例えば、製造業、商業などの分野ではアウトソーシングが進み、それによって職業の区別が不明確になっている。要するに、正規労働者がいなくなり派遣労働者が増加していく。大企業の経営者は利益を追求するためにアウトソーシングをどんどん進めたいと政治活動を行っている。
 また、多国籍企業では派遣業、派遣されている労働者、アウトソーシングが増大している。その人たちの組織化の問題がでてくる。
 そのための対策としては、
 1) 政界に常に働きかける運動の展開
 2) 労働者の権利に関する認識を高め、必要な頻度による動員と闘争を行う力を獲得するために若年者への教育を行う
 3) 平等な関係を保障する規定を制定できるよう集団労働協約の交渉を監視する
 4) 知識、批判精神および積極的活動能力を有する組合幹部を育成するため、組織内における人材育成活動の推進
 5) 労働力の利用における弊害を理解するよう社会に呼びかけるとともに、労働者に対する肯定的な活動を高く評価する
 6) 組合組織に関する広報活動を強化する
また、産別・職業別の組織の力を強めていかなければならないと考えている。

2008年12月3日 講演録

ブラジル一般労働組合(UGT)
ヴィヴィアン クレウツフェルド ベルトウジ

ブルメウナ紡績産業労働組合委員長兼人材育成担当書記

 

 ブラジルの人口は1億8,400万人、一人当たりGDPは5,714ドル、経済成長率は3.7%、失業率は10%である。
 私は、ブルメナウ繊維紡績産業労働組合の委員長になって1年になる。66年の歴史を持つこの組合において、初めての女性委員長である。この組合は65%を占める女性を基礎として、同産業で働く3万人の労働者のうち22,320名が加盟している。また私はUGT内の職業教育部門の事務局長でもある。
 UGTは、2007年6月にCGT(労働者総同盟)とCAT(中央労働者支援組合)およびSDS(社会民主連合)の3つのナショナルセンターが統合して設立された。これは労働者階級の戦いを強化するという合意のもとで行われた。さらにこの統合には、今までナショナルセンターに属していなかった、いくつかの独立した組合も参加した。現在もブラジル全国で積極的な加盟誘致活動を展開している。現在、UGTはブラジルの3つの大きなナショナルセンターの一つであり、600万人の労働者を代表している。
 今日の労働運動が抱える最大の課題の一つは、インフォーマル労働者問題である。これらの男女労働者は労働許可証を保持してはおらず、労働者としての権利も守られていない。この問題は急速に拡大している。2005年のDIESSE(社会経済調査組合統計部)によれば、労働者の割合は、労働許可証を持つ労働者=52.7%、軍役および公務員=10%、労働許可証を持たない労働者=37.3%となっている。
 もう一つの問題は民営化、あるいは多国籍企業の参入である。その結果として大量解雇、労働災害・職業病の増加がある。しかし、職場における労働者の病気や労働災害の頻度についての具体的な統計はない。労働災害に関する報告の不足や労働者からの情報の欠如が具体的な統計を得るための障害となっている。職業病や労働災害防止に対する経営側の投資は、依然として不足している。
 次に、わが国の税制、労働改革や法制度の経緯について手短に述べる。われわれは改革の推移を見守りたいと考える。改革の推進によって、不法労働者数が減少するであろうと期待している。労働運動が長い年月を掛け、多くの苦難の末に勝ち取ってきた労働者の権利を失うことの内容を考慮することが重要である。また、われわれは教育分野でもその改善のために取り組んでいる。DIESSEのデータによると、非識字率は、7歳以上10.7%、10歳以上10.2%、10-14歳3.4%、15歳以上が11.0%となっており、徐々に改善が進んでいるが、国民がより多くの知識や教えを獲得するため、もっともっと改善する必要がある。
 DIESSEの調査によると、1人の労働者の尊厳ある生活に必要な賃金は880ドルであると示しているが、実態は最低賃金以下で働く者が32.6%、最低賃金からその2倍(US360ドル)までの収入の者が36.2%ときわめて多数の人が低賃金に置かれているのであり、賃金の改善、所得配分の公正さが求められている。
 労働運動には、そのほかにも多くの解決すべき課題があり、われわれは常に労働者達と対話を重ねながら、経営側に要求を出しており、必要があれば就業停止やストライキにも訴えて、前進を図っていくものである。