2017年 メキシコの労働事情

2017年11月29日 講演録

メキシコ労働組合連盟(CTM)
ルイス ディアス バルガス(Mr.Luis Diaz Vargas)

メキシコ労働組合連盟(CTM) 書記

サルバドール メディナ トーレス(Mr.Salvador Medina Torres)
メキシコガス・関連産業労働組合(TTC) 書記

ダニエル ラウル アレバロ ガリューコス(Mr.Daniel Raul Arevalo Gallegos)
牛乳・食品・関連産業における労働者の全国労働組合(SINDILAC) 事務局長

※報告はダニエル ラウル アレバロ ガリューコス氏が行った。

 

1.連邦労働法等改正の問題点

 現在、メキシコの連邦上院で労働法改正等が審議されている。
 以下、その問題点を紹介する。

  • (1)特に重要な改正は、憲法第123条A項の改正であり、研修期間雇用、試用期間雇用、季節雇用または有期雇用、時間給雇用など、有期的な雇用が付け加えられたことである。これにより雇用の安定という.大原則が破られ、安定的な雇用の権利に関する国際基準が侵害される。こうした契約は、使用者に権限を与えることになり、雇用関係の終了(解雇)に関して経営者は責任を負わないことになる。ちなみに、時間給雇用制度は、労働した時間に対してのみ報酬が支払われる雇用契約であり、この中には社会保険などが含まれていない(現在、社会保険も含まれた報酬になっており、使用者は労働者を社会保険制度に加入させなければならず、このことによって、労働者は医療サービスが受けられ、年金が受給できる)。また、研修期間雇用、試用期間雇用などの短期雇用契約については、契約後2カ月経過で経営者側が一方的に解雇できるようになる。
  • (2)教育訓練の規定では生産性のテーマが加わった。これは、企業の競争力を高めるために正当化され、生産性の規定では労働者の義務とするする新しいメカニズムが開発されている。
  • (3)労働者と使用者の間の解雇事由の変更が行われた。この中では、使用者が労働者に対して直接、解雇通告を出す義務が無くなり、労働当局(斡旋仲裁委員会)を通じて解雇通知されることになる。
  • (4)解雇について裁判が行われている場合、現在は裁判が終了するまで間、労働者は賃金を受け取ることができるが、今回の改正では、解雇保証金の支払いに最高12カ月の制限が設けられた。
  • (5)税制改正も話題になっている。給与に関する税制は様々な法律を調整する必要のある項目である。メキシコでは、労働力人口の大半が最低賃金の1倍から5倍の間の賃金しか受け取っていない。この程度の賃金ではほとんど生活できない状態だ。従って、税法に関しては、所得税の対象とならない給付を増やすべきであり、経営者の税控除については、必要な申告項目を減らすべきだと考える。様々な手当てに関して、例えば、食事補助や交通費補助等について、現在は課税されていないが、今度の改正では、これらの収入に対しても所得税課税の対象とすることが検討されている。
  • (6)また、三者構成(政労使)による労働裁判所(斡旋仲裁委員会)が無くなってしまう可能性がある。その場合、裁判官のみで判定を下すことになり、労働者の保護ということが薄くなるのではないかと危惧している。

 メキシコ労働組合連盟(CTM)はこのような法改正に反対し、労働者の生活と権利を守るための取り組みを展開している。

2.労使紛争事案の解決方法(事例)

 ここで、紹介するのは乳製品の加工工場における作業員(組合員)の不当解雇があったケースを事例に、その場合どのように対応するのか、対応事例を紹介する。
 以下は案件の解決までの具体的対応の流れである。

【労使紛争の原因】

 産業機器ホースの故障により原料(牛乳)が漏れた。作業員や監督者は故障に気づかず、監督者の緊急指示により作業員が対応した。会社の損害規模は4,000リットルの容量分の冷却タンクの中身である。従業員は、その場にいた上司の命令に従って対処したにもかかわらず、その従業員だけが責任を負って不当解雇された。

【団体交渉と労使紛争予防のための対話】

 こうした場合、労働組合は事実の調査を開始する。そして、作業員(組合員)の意見を聞いてもらったうえで、客観的に評価してもらうため、会社の労務担当部署に出向く。必要があれば、作業を命じた監督者と交渉することになる。なお、産業機器は品質管理部門の監督のもとで定期的に機材の予防保全が行われているため、こうした故障はあまり起こらない。

【問題の解決手段】

 通常は労務担当部門と話し合う。時には工場長の参加を求めることもある。会社の経営レベルでも解決できない場合は、ナショナルセンターが対応する。

【紛争解決のためのナショナルセンターの役割】

 労働組合部門別委員会で解決できず当事者間でも満足いく結果が得られない場合、会社は、労働組合部門別委員会の要請により、上部団体に紛争解決を委ねる。
 業界団体は、紛争を解決するため、労働組合全国委員会と話し合うが、そこでも解決しない場合は、労働組合全国委員会は組合の法務部に依頼し、連邦斡旋仲裁委員会(JFCA)に訴える手続きをとる。 
 連邦斡旋仲裁委員会(JFCA)は三者構成による労働裁判所であり、委員は経営者代表1名、労働者代表1名、政府代表1名によって構成されている。委員は連邦労働法を適用し、紛争の最終解決策を決め、当事者はこの決定を受け入れることになる。

 
2017年10月20日 講演録

メキシコ労働組合連盟(CTM)
ホルヘ メディナ ペレス(Mr.Jorge Medina Perez)

小麦、パン、食品、運輸その他に関するメキシコ国内労働組合 法務相談役

マリア グアダルーペ カンポス エスピンドラ
(Ms.Maria Guadalupe Campos Espindola)

乳製品・食品業界・関連のメキシコ国内労働組合 事務局長

労働者全国連合(UNT)
ホセ エンリケ オニャーテ ベラ(Mr.Jose Enrique Onate Vera)

メキシコパイロット労働組合連合 委員長

 各ナショナルセンターを代表して下記の2名がレクチャーした。

  • ・労働者全国連合(UNT):ホセ エンリケ オニャーテ ベラ
  • ・メキシコ労働組合連盟(CTM):ホルヘ メディナ ペレス
 

1.労働情勢

 実質GDPは、2015年が2.6%、2016年が2.3%である。
 物価上昇率は、2015年が2.1%、2016年が3.4%となっている。
 最低賃金(時間額)は2015年が8.8ペソ、2016年が9.1ペソである。月額換算では2015年が2,103ペソ、2016年が2,191ペソとなる。なお、直近の為替レートは1ドル=17メキシコペソ相当である。
 失業率は、2015年が4.35%、2016年が3.88%である。

2.メキシコの労働組合をめぐる情勢と課題

(1)労働者全国連合(UNT)の報告

① メキシコの平均的な賃金水準およびUNTの組織概要
 メキシコの平均的な賃金を時間給で換算すると、ドル換算では56セント、円換算では63円程度である。なお、メキシコでの収入格差はきわめて大きく、全人口の55%が貧困状態にあるといえる。
 私たちの労働者全国連合(UNT)は、組合員200万人、組合数300組合で構成されており、主にサービス業の労働組合が加盟している。
 私の所属する「メキシコパイロット労働組合」(ASPA)は5つの航空会社で働く2,800人の組合員で構成されている。

② 労働法の改革について
 最近の労働市場における重要なテーマとして労働のインフォーマル化、雇用のインフォーマル化が挙げられる。こうしたインフォーマル化は2011年頃から顕著になってきており、こうした状況の中で2012年に労働法が改正され、インフォーマルセクターで働いている人々が正規雇用者になるチャンスが生まれた。その後、インフォーマル労働者の数は減少してきているものの、このことがディーセントワークに繋がっているかは別問題だといえる。私たちが注目するのは、それぞれの労働者の購買力であり、その購買力で彼らが本当にディーセントな働き方をしているかどうかを重視している。
 労働者全国連合(UNT)の活動の中で中心的なテーマの一つが「労働法改革」である。この労働法改革は、ILO勧告、北米自由貿易協定、アメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)との連携、2018年に行われる大統領選挙のそれぞれの対応と相互に関連しあっている。
 労働法改革の考え方は、ILOの環太平洋パートナーシップ協定(2016年)に関する提言をもとにしている。また、ILOの提言やアメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)との連携を踏まえながら経営者寄りの労働組合に反対している。経営者寄りの労働組合とは、労働者を正しく代表していない組合のことをいう。メキシコでは、20人以上の労働者が集まれば労働組合ができるが、企業の中には、まだ従業員を雇っていないのに組合のあるところがある。それは、最初にできた労働組合が交渉権を持つという決まりがあるためで、別の労働組合を選ぶ選択肢を剥奪していることになる。私たちは、こうしたことについてもILOに提訴している。北米自由貿易協定に関しては、この協定の中に労働者の最低条件に関する章を設けるよう要請している。
 2018年の大統領選挙については、しっかりとした労働者の権利を守るための働きをする大統領の誕生を望んでいる。

(2)メキシコ労働組合連盟(CTM)の報告

① 2012年改正労働法の問題点
 メキシコの連邦労働法は2012年に改正されたが、この改正は25年にわたる長いプロセスを経て行われたものである。この改正によって、雇用の柔軟化の条件が整い、結果、労働者の権利が侵害されている。
 具体的には、改正によって一時的な雇用契約条件(訓練期間雇用、主要期間雇用、季節雇用、不連続雇用、時間給雇用など)が付加され、このことによって、雇用の安定が侵害されている。また、下請け契約の規定が見直され、この改正によって、使用者が労働者に対して責任を負う必要が無くなり、雇用関係という概念が破られ、さらに下請け労働者に対する労働義務遵守規定が設けられた。
 教育訓練の面では、生産性というテーマが加わった。この生産性については、企業の競争力を高める生産性というものを正当化して、労働者の権利と労働者の義務という新しいメカニズムが生まれている。
 解雇についての条件も使用者に有利に改正された。今までは、使用者が解雇する場合は、労働者個人に通知をしなければならなかったが、調停委員会を通じての解雇が可能になったのである。
 このことによって、ディーセントワークとか尊厳のある仕事というものが損なわれることになる。私たちは労働条件の改善と生活水準の改善を求めて闘っているが、労働法改正に対しても、問題点を明らかにしつつ具体的な提言を示しながら対応していく。

② アウトソーシングと派遣労働者の問題
 メキシコではアウトソーシングサービスを提供している900社のうち、100社しかメキシコ社会保険庁(IMSS)に登録しておらず、納税している企業は40社のみとなっている。
 メキシコの労働市場には悪い慣行がはびこっている。例えば、契約の無い雇用関係、給与の全額を関係機関(社会保険庁、国税庁、労働者用住宅基金庁など)に申告しない、押印されていない給与計算書、などである。
 政府は2009年以降、こうした形態の契約への監視を始め、社会保険法を改正し、経営者に対して派遣労働者への報告を義務付けるようになった。

③ CTMの取り組み課題
 CTMはこれまで社会正義のために闘い、成果をもたらしてきたので、これからも人権、労働の擁護を進めていく。また、不公正と闘い、労働の差別、賃金格差などについても闘っていく。そして、より広く社会保障が適用されるように、保健医療サービス、教育、住宅の確保ができるように取り組む。また、暴力が無いように環境保護にも努めていく。