2015年 メキシコの労働事情

2016年1月22日講演録

メキシコ労働組合連盟(CTM)
ミゲル・アルベルト・デ・ルナ・アルヴァレス
(Mr. Miguel Alberto de Luna Alvarez)

メキシコ全国乳製品・食品関連産業労働組合連合 アドバイザー兼CTM最低賃金担当書記アドバイザー

 

1.労働情勢(全般)

(1)実質GDP・物価上昇率・最低賃金の動向
 メキシコの国内総生産(GDP)の成長率は、2013年が1.4%、2014年が2.1%、2015年は見通しだが2%となっている。物価上昇率の推移は、2013年が3.9%、2014年が4.0%、2015年は見通しで3%となっている。
 最低賃金(日額)と引き上げ率は、2013年が64.76ペソ(約396円)3.9%、2014年が67.29ペソ(約412円)3.9%、2015年は70.10ペソ(約429円)4.1%となっている。この金額では、1日にハンバーガー1個も買えない額である。

(2)増加が顕著となるインフォーマルセクター労働者
 メキシコの人口は、約1億2千万人、そのうち15歳以上人口がその73%で約8800万人である。さらにその61.5%の約5450万人が経済活動人口であり、この経済活動人口の95%強の約5100万人が就労している。このうち正規な雇用を得ている人が72%強、従ってインフォーマルセクターで働いている人が27%強の約1400万人となる。現在、正規雇用者が減少し、インフォーマルセクター労働者の増加が顕著になっている。

2.労働組合が現在直面している課題(インフォーマルセクター問題)

 今、メキシコが抱えている最も顕著で懸念される問題の1つはインフォーマルセクター経済の拡大と、雇用を生み出せない弱い経済成長性と不安定さである。先に触れた通り、インフォーマルセクター労働者は、2015年第3四半期で1400万人弱となり、前年同期より50万人も増加している。問題の根源には人口に比して雇用の場が少ないことである。さらに国税である給与税の存在が、税金を払うよりも働いた分が手元に残る、インフォーマルセクターでの労働を助長している。街で物売りなどになり国の登録を逃れて働いた方が良い、という気になる労働者も多い。

3.その課題に向けた取り組み

(1)国が推進する「雇用正規化プログラム」を支援
 メキシコにとって、インフォーマル化を減らすことは格差や社会的排除を減らすための課題である。このため、政府は「大多数の労働者を正規雇用に組み込むこと」と、「企業の設立件数を増やすこと(とりわけ若者の起業)」を目的とした「雇用正規化プログラム」を実施しており、2016年に再度推進する予定である。この政策は、インフォーマルセクター労働者に対して、社会保険を受けるために必要な国立保険庁への登録を促すインセンティブ政策や、企業側に対しても保険料の値下げ緩和政策など、さまざまな方策を繰り出している。しかし、実施してきた結果を見ると、雇用はあまり増えておらず、ペソ安という世界的な経済状況も足を引っ張り、このプログラムが思うようには進んでいない。
 しかしながら、今後も労働組合としては労働省のこのプログラムを支えていくべきだと考えている。なぜならば、そもそもの狙いが雇用の正規化にあり、国も企業も労働者も一丸となって目的の達成に向かうべきだからである。労働組合として国民、組合員にそうした意識付けをしていきたいと考えている。

(2)必要となる職業訓練・教育の推進 
 こうした労働市場の変化に、一人一人が的確に対応していけるよう職業訓練を強化していく必要がある。これは社会に出るまでの教育もそうだが、特に社会に出てから職業的な能力を高めていくための訓練や教育を指している。このため労働省が中心となって職業訓練プログラムを推進し、労働組合も積極的にこれを支えていくことが求められる。

労働者全国連合(UNT)/メキシコ
エデル・コボス・ペレス(Mr. Edel Cobos Perez)

メキシコ電話労働組合(STRM) 全国内部監査委員会担当書記

 

1.労働組合が現在直面している課題(懸念高まる政府の構造改革)

 今抱えている問題は政府が行っている労働構造改革である。これは、実施しているというよりも、労働者たちに強いているという言葉の方が的確である。その労働構造改革によって、政府は、企業側に利益がより多く出るように、そして、労働者の権利ができるだけ少なくなるよう画策している。
 例えば、この改革によって国民全員、特により貧しい人々が恩恵を受けているような印象が国内外のメディアを通して報じられたが、これはこの改革がもたらすマイナス面を隠蔽するものに他ならない。実際には、企業での正当な理由のない解雇が容易になり、さらに使用者側は、従業員が試用期間であることを理由に少ない賃金で雇うことを許され、3カ月が経過したら何の制限も受けずに解雇することができる。つまり、1〜2カ月空けてから再度同じ従業員を雇うが、再度試用期間として雇うことから、労働者が仕事で年功を積むことができないまま年数が過ぎていく状況を作り出している。しかしながら政府は、この状況がサービスの競争力と質を生み出すと主張している。
 また、別の例を挙げれば、メキシコ共和国電話労組が直面している主な問題も、通信部門において政府が行っている構造改革に起因している。メキシコの大手通信業者であるテルメックス社に対し不平等な法律が押し付けられている。これらの法律は2014年7月に発効されており、市場シェアが50%を越えているという理由だけでテルメックス社を支配的企業と位置づけ、所有している通信インフラを競争相手に無償で引き渡すことを義務付けている。これによる経済的影響は利益の低下という結果をもたらし、現行の集団雇用契約を改訂する格好の口実を会社に与えている。現在は、さらに労働者の年功権利を脅かし、手当等のない短期労働を助長する新たな労働法改正の動きを誘引している。

2.その課題に向けた取り組み(期待すべき連携が生み出す大きな力)

 課題克服のためには、長期的な視点で、さまざまな国内、国際レベルの組織との同盟や連携が必要である。なぜならば、力を合わせて団結することによって、良い結果を引き出すことができるからである。また、国内的には組合活動の文化をもっと醸成し、知らしめていく必要がある。というのは、労働者の間で労働組合活動に対する嫌気や無関心が増えているからである。さらに、これまで実施してきた大統領府でのさまざまなデモや、国民が政府からの情報に騙されないための集会などを引き続き行っていくことである。こうした取り組みを通じ、課題解決への道が拓かれてくるものと確信している。

*1メキシコペソ=6.13円(2016年2月24日現在)

【参考】付録統計データ