2012年 メキシコの労働事情

2012年10月19日 講演録

メキシコ労働組合連盟(CTM)
ウリエル・フランシスコ・ゴメス・ピネダ

メキシコ乳製品食品関連労働組合アドバイザー

 

1. メキシコの労働情勢(三者構成の原則を中心に)

 CTMは1936年の設立以来、労働条件の向上、労働者の賃金引き上げのために闘ってきた。この目的達成のため、国会、地方議会にあるさまざまな審議会や組織を活用し、活動している。
 1917年に制定された憲法の第123条では、労使間での紛争の際に、解決のための斡旋仲裁委員会を設けるという条項がある。この斡旋仲裁委員会は三者構成になっており、社会対話ができる法的枠組みになっている。現在の労働法制を見ると、労使関係は不平等で、労働者の権利が守られていない。そこで、この委員会が労働者の権利を守る公正な裁判所としての役割を果たし、社会の安定を得るためのメカニズムとなっている。
 このような三者構成の機関としては以下のものがある。

  1. 労働者住宅基金庁(INFONAVIT)
  2. 社会保険庁(IMSS) 
  3. 最低賃金委員会(CONASAMI) 
  4. 旧労働者消費基金(FOANCOT)、現在の労働者消費基金庁(INFONACOT)

2. 労働組合が直面している課題

 この三者構成組織の中で労働組合は重要な役割を果たしている。労働組合の代表を通じ、国が押しつけようとする経済政策や政治政策の実施を阻止する役割を果たし、それにより、労働者にとって利益になるような合意を得ることが可能になっているからである。
 現在、連邦労働法改正の動きが出ている。その1つがこの三者構成のメカニズムを廃止しようという動きである。これまで政労使の三者が紛争を調整する機関として活動することにより、均衡を保ち、労働者が不当な行為を受けないよう保護してきた。この斡旋仲裁委員会では、労働者からの申し立てが1万7367件取り上げられ、その内88%は労働者に有利な決定がなされてきた。

3. 課題解決に向けた取り組み

 CTMはこれを守る上で大きな役割を果たしている。重要なのは労働組合間の連携を保つこと、そして連携を保つ意欲や能力を維持することだと考える。
 強力な三者構成メカニズムがあれば、グローバル化の圧力の中で、交渉を有利に進め、均衡のとれた社会の成長を達成できる。
 この三者構成メカニズムの下にある組織の結束を維持することが、国にとっても重要なものである。

メキシコ労働組合連盟(CTM)
ファン・カルロス・フェリックス・ヴァスケス

全国自動車機会金属労働組合法務局部長

 

1. メキシコの労働情勢(グローバル化を中心に)

 グローバル化が進行する中で、労働組合も経済のグローバル化の真っただ中にある。その中で、われわれは「責任ある労働組合運動は労働生産性と生活の質の起爆剤である」をスローガンとして活動している。さまざまな生活様式、労働形態と共存しなければならない状況を、1つの機会として考えると、さまざまな課題が浮かび上がる。顧客の要求に耳を傾ければ、健全な環境や労働関係を含んだ包括的な品質システムを十分に尊重することが必要になってくる。

2. 労働組合が直面している課題

 世界中の顧客からの「優秀な製品とサービス」の要求により、メキシコの企業・労働組合は「行動規範」と「正しい労働慣行」の適用と解釈される「社会的責任」という倫理観を持ち、自発的に見解を一体化させる必要に迫られている。
 社会一般の労働組合のイメージは攻撃的、腐敗した組織などと良くない。企業の信頼も得ていない、労働者を真に代表する組織と思われていない。
 労働組合は「社会的な責任」を、組合員とその家族の生活の質を上げ、同時に企業に競争上の優位を与え、雇用創出源の持続性を維持することと考え、これを行動スローガンとする。「良好な労働慣行」は企業内の方針、手順、規則、労働協約をすべて含む。それを順守し、実践することから正しい意志決定が生まれ、それを通じて健全な労働環境が作られる。

3. 課題解決に向けた取り組み

 グローバル化で起きている問題をチャンスに変えるためにするべきことが多い。
 第1は、進歩的な労働組合運動を行なうことで、平和と調和、発展と繁栄のために雇用創出源を守り、強化することである。
 そのために、労働組合は労働者の家族にさまざまなサービスを提供し、組合員を継続的に教育し、企業側と健全で強力な関係を築くことが重要である。
 つまり、われわれが果たすべきものは、競争力、質、安全性、雇用の保護、労使関係の安定化、公正で十分な賃金という社会的責任である。

メキシコ労働者全国連合(UNT)
ダエ・マタ・フランコ

メキシコ電信電話労働組合書記

 

1. メキシコの労働情勢(全般)

 メキシコには御用組合化した労働制度があるという特徴がある。つまり、政府や企業などの権力側が労働組合を強くコントロールするということである。御用組合化により、労働者を代表する組合の設立や機能を大きく制限し、経営側と強い関係を持った労働組合や、経営側から保護された労働組合である労働組合もどきの御用組合ができている。御用組合化は、労働運動を強く分散することになった。メキシコには多くの組織が存在するが、メキシコの歴史の中では一度も、すべての労働者の権利ために統一して行動するという合意に至っていない。
 メキシコの労働事情はかなり危機的であり、現政権、次期政権ともに、労働階級のための政策をまったくとっていないことがこの状況の一因となっている。
 わが国の労働者の大半は安い賃金で働き、最低賃金は一日62ペソ、およそ4.5米ドルである。平均賃金は120ペソ、およそ9米ドルである。労働協約がある従業員の平均賃金は250ペソ、一日19米ドル強である(勤務日)。給与生活者には労働協約が無いことが多い。
 政府の公式発表では失業率は6%であるが、メキシコにはインフォーマル労働者が多く存在し、正規雇用にはある制度等にも入れず、国庫に税金を払っていない。したがって、主な税収は給与労働者からのものである。

2. 労働組合が直面している課題

a) 権力側が強制する御用組合的モデルによる組合の深い分散化。
b) メキシコ労働者の権利を100年前に戻すとも言える、後退的な労働改革の脅威に常にさらされている。
c) 政府の反労組政策、特に、独立系の労働組合を破壊しようとする政策。
d) 労働者の人権の順守を監督する機関が弱い、または、存在しない。
e) ILO第87号条約を批准したにもかかわらず、労働組合の自由がない。
f) 政府や企業は、経営側の保護を受ける労働組合や、経営側の保護を受ける労働協約を推進する。
g) 失業
h) 移民
i) 若者の労働組合参加率が低い、組合教育が貧弱。

3. 課題解決に向けた取り組み

 UNTは、労働者の権利の向上だけでなく、企業の生産性やわが国の労使関係の枠組みを改善するような労働改革の代替案を提案してきた。UNTに結集する労働組合は、労働法制の見直しだけでなく、労働関係の組織や政策の見直しも盛り込んだメキシコ労働界の民主的な改革を提案している。
 UNTが提案するイニシアティブは、労働界の民主化を達成するために非常に重要なものである。UNTの提案は、労働者の権利を全面的に尊重しながら、現政権のイニシアティブに反対するものである。現政権のイニシアティブは団体交渉やストライキといった集団の権利を阻害している。このように労働者から、生活の質を向 上する労働条件を確立するための手段を奪うことは、労働者階級を明らかに傷つけるものである。
その他の提案としては、国際的な連携を強化拡大し、ILOの条約や国際基準にのっとり、労働者の人権を促進・擁護するとともに、食料とエネルギーの主権、労働者の権利、民主的で自由な運動を推進することがある。
 最後に、報道の民主化が可能になる戦略を確立することがあげられる。メキシコには、2大テレビチャンネルが大きな特権を得ており、情報の多様性やメキシコ人の情報取得の権利の障害となっている。

4. ナショナルセンターと政府との関係

 政府との関係は良くないというよりも、多くの対立がある。特に、現政権は労働組合に反対する態度をとり、メキシコの労働組合を無くそうとする活動を継続し、労働者階級の権利を損なう労働政策を推進している。したがって、メキシコの労働組合は、ディーセントな雇用創出と労働者階級の抱える貧困の撲滅運動を要求して、闘いを続けている。

5. 多国籍企業の進出状況と労使紛争

 多国籍企業は一般的に反労働組合的な政策を進めており、労働者の権利に反する攻撃的な政策をとる企業がある。こうした反労働組合の姿勢は経営側の支持を得ている。多国籍企業は派遣労働制度や経営側が有利となる協約などを押し付けている。
 3年ほど前から、電信電話組合は、多国籍企業「スペインテレフォンカ社」の系列企業アテント社での労働組合設立活動を続けている。アテント社の労働者がディーセントな給与と労働条件で働くことができる労働協約を結ぶことをめざしている。