2010年 メキシコの労働事情

2010年9月3日 講演録

メキシコ労働組合連盟(CTM)
アントニオ・オルギン・アコスタ(Mr.Antonio Holguin Acosta)

メキシコ全国乳製品・食品関連産業労働組合 社会福祉担当書記

 

 メキシコの労働事情は1910年のメキシコ革命以前から生まれており、労働者の労働条件改善は、土地の分配とともに革命が勃発する発端となった要求事項である。革命後に制定されたのが今の憲法であり、これ以前は労働関係の紛争は民事の法規を通じて解決されていた。つまり民法、商法が適用され、裁判の形で訴えられる労働関係の争議が、一般的な係争の担当判事によって審理されていたため、労働者に不利な判決が多く出されていた。
 このような理由から1917年憲法は、憲法による保証として労働者の権利または労働権を123条に定めた。その施行細則は1970年の現行連邦労働法により確立された。
 当時、最も顕著で重要な進展として社会保障制度の制定があり、特に鉱山、繊維業界労働者が要求していた労組の合法化がある。背景に労働者が司法に対し自分の権利を求めて訴えを起こしても、産業、商業界の、特に金持ち、権力者とみなされていた者たちが判決に影響を与え、労働者に不利な判決を出させていたことがある。このことから無防備な労働者が資本家の力に対抗できる団体や組織を持つことを目的として、労働組合が生まれた。組合をつくるに当たって、アメリカ・シカゴの労働者の行動に影響を受けた。我々の組合運動も、アメリカの労働運動の影響を受けている。
 現在の世界情勢の激変は、メキシコにも影響を与えている。メキシコの場合、経済、社会、政治に大きな変化が起きており、変化、再構築、安定化政策、民営化、地域経済統合、新たな社会運動、民主的解放といった流れに飲み込まれた我が国は、新たな環境で要求される政策や戦略を、様々なスピードで適用する必要性に直面している。
 労働界そして生産構造もこの枠組みの中に組み込まれており、変化の中にあるが、これを規制する役割を持つ法的整備、具体的には国内法規は、ここ数年改訂されていない。
 我が国はここ数年間、労働界に深刻な打撃を受けて来た。現在の経済危機により、多くの企業が破産宣告を受け、労働者の解雇を余儀なくされている。公式な失業率は6.5%であるが、これは過小評価されており、公式発表の3倍の20.2%近くに上るとされている。
 一方で労働省はメキシコが競争力、労働市場の効率性、法的な保証といった分野で未だに労働環境の不安定さを抱えていると考えている。今年提起された労働改革の重要点は、次のようなものである。
・職場における職能訓練や教育を強化する。
・労働者に対するインセンティブ導入を通じて生産性向上を奨励する。
・労働者の保護を保証するために必要な規則を盛り込んだ新たな契約形態、特に試用または修練のための契約形態を確立する。
・社会的弱者への差別に反対する新たな法規を組み込む。
・組合活動の自由、組合加盟の自由、民主主義、複数労組を強化する。
・零細、小規模事業所特有の雇用形態の実情を考慮に入れるよう、当局に権限を与える。
・労働当局の組織と機能を見直す。
・訴訟関連の改善を行う。特に係争には合法的に発効された専門家としての肩書きと証明書を持つ人間が介入しなければならないようにする。

 2000年の経済活動人口は毎年平均100万人以上の増加ペースを示した。しかし、2000年12月から2005年6月までに生まれた雇用は250万件余りとされ、330万人分の求人が足りなかったことになる。

 賃金に関しては、我が国の収入のある就業人口全体のうち、56%という高い割合の人々が最低賃金2回分未満の賃金を受け取っている。この中の大半がインフォーマルセクターに属しており、なんの社会保障制度にも組み込まれていない。最近はこれらの指数に若干の改善が見られ、低所得者層の割合が減少している。
 低所得者層の割合はそれでも高いが、特に極貧状態の生活をしている人々の多さは受容し難いものがある。これら非常に多くの人々をどうやって正規の労働体系に組み込んで行くかが、今後解決すべき重大な問題である。
 我が国の生産部門の代表者たちが、メキシコの現在の生産動向や国内外の経済競争の諸条件に応じた労使関係を築き、新たな、そしてより良い雇用創出を促進し、労働者の賃金その他の収入を増やし、労使関係や生産性向上のための投資を法的にも安定したものにする目標を本当に達成すれば、我々メキシコ人はより質の高い生活が送れるだろう。

メキシコ全国労働組合(UNT)
マヌエル・アルバレス・エルナンデス(Mr.Manuel Alvarez Hernandez)

メキシコ電話関連労働組合 組織拡大担当書記

 

1.当該国の労働情勢

 メキシコに投資を呼び込むことを唯一の目的として最近20年間にメキシコ政府が導入している新自由主義政策と労働の柔軟化は、経営者側と資本家側を有利にさせている。労働対価の値下げは軽視され、これに請負労働(アウトソーシング)を含めると労働の不安定化が引き起こされている。
 この労働環境は労働者の権利、労働者が勝ち取った処遇、組合結成の権利、そして組合の自治を脅かす。政府は我が国の労働組合の設立許可と登録を行う労働・社会保障省を通じて、労働者の利害を代表しない労組との保護契約を奨励してきた。
 反対に民主的な労組や独立労組は反組合運動的な政策を止めるため、団結を固めなければならなかった。その一例がSME(メキシコ電力労組)に起きた事例(中部電力会社に対する破産宣告)で、4万人以上の組合員が影響を受けた。

2.労働組合が現在直面している課題

 我々の組織の主な課題は、メキシコ政府が通信・運輸省(SCT)と連邦公正取引委員会(COFECO)を通じて、メキシコ電話会社のトリプルプレー(音声、データ、ビデオ)及びモバイルトリプルプレーへの参入を認可しないことに抗議することである。
 彼らの言い分は、スペイン電話会社(メキシコモビスター)といったメキシコにおける競合会社の主張する「メキシコ電話会社は独占企業である」ということが理由になっているが、実際には我々は300以上のケーブルテレビおよび電話通信会社と競合しており、メキシコ電話会社とその組合員・労働者(STRM)の立場を不利にしている。
 政府は競合企業にあらゆる便宜を払い、その一方でメキシコ電話会社の参入に当初条件を付け、競合会社には相互接続、ポータブル化、双方向操作サービスの提供を認めている。メキシコ電話会社も最終的には認可されることになったが、多国籍企業や個別の利害の圧力を受けた政府はその約束を果たしていない。

3.課題解決に向けた取り組み

 フランシスコ・エルナンデス・フアレス率いる電話労組は成熟と責任感をもって、競合会社に対するメキシコ電話会社の不利な立場と早期退職制度を、企業の存続性と労働者の将来性を脅かす現実的な問題と認識している。会社側と労組側は大枠の合意を締結し、Telmex社をメキシコにおける業界最高の企業にするため最大限努力することを誓い合った。2009年4月25日以降に入社した社員は、別の年金制度に入ることになる。その代わりに技術革新、職能訓練への投資を続け、3,500人分の欠員を補充し、質の良いブロードバンドサービスを顧客に提供し、技術統一、ネットワーク、マルチメディアサービス、管轄や規制に関する新たな環境の課題に共通のビジョンを提供することを誓った。

4.ナショナルセンターと政府の関係

 メキシコ政府は現在、組合事項は予定に入れておらず、政府とUNTとのコミュニケーション不足により、我々は国際機関に対する提訴や全国規模のデモ行進により、政府の行って来た政策に対する我々の不満を表明しなければならない状況にある。しかし、こういった行動はニュースでは非常に小さく取り上げられるか、ほとんど報道されない。デモ行進や集会が功を奏したとしても、せいぜい地位の低い役人との対面が果たされるくらいである。下院議員でもあるUNT会長フランシスコ・エルナンデス・フアレスは、ジェンダーと失業保険の視点を盛り込んだ憲法および連邦労働法改定案を、民主的革命党(PRD)議会内グループとして提出した。

5.多国籍企業の状況

 多国籍企業の進出は、他の中南米諸国と比較するとそう深刻ではない。労使関係において紛争は起きていない。労働者は組合があることを知らず(彼らが選んだ組合ではないため)、組合の存在を知っていたとしても、誰が指導者かを知らない。組合からの後ろ盾を感じることができず、雇用を失うことを恐れて、労働者たちは会社側の定める条件で仕事を行うことしかしない。