1999年 メキシコの労働事情

1999年6月30日 講演録

グスタボ・マシアス・サンドバル
ラジオ放送・テレビ関連産業労働者組合 労働局長

 

メキシコをとりまくネオリベラリズム

 近代のメキシコは社会革命の結果として生まれました。1910年に起きたこの革命は、経済的に恵まれた少数派と貧困と搾取に苦しむ多数派との間に顕著で深い不公平をもたらしました。30年以上に及ぶ独裁体制をこうむりました。革命によって起きた変化は、メキシコの新しい憲法の発布に必要な条件を生み出しました。そういった中で、すべての国民に対して教育の無料化、そして労働者の最低限の権利とみずからを向上させる可能性の保障、そして団体契約の実現というものがなし遂げられました。
 労働組合の大々的な参加によって、労働、住宅、社会保障に関する法律がつくられました。これらの法律はよりよいサービスを労働者に提供するために改定が重ねられてきています。国家社会保険庁、住宅供給国家基金公社の2つの団体は社会保障の柱となるものであります。
 しかしながら、私たちの努力もネオリベラリズムというあらしの前にひびが入りそうな気配です。先進工業国に共通して生まれてきたこのネオリベラリズムは、再び社会的、経済的な不均衡というものを拡大させようとしています。これは社会に不安感をもたらすものですが、この現象をとめようとする試みも多く失敗してきました。潜在的な生産能力をもつ労働者の人たちがアメリカに流出してしまうという現象もこれと何らかの関係があるように思います。
 このような状況の中で労働組合運動は社会的に公正な発展の原動力となる大きな責任を負っています。そうはいってもメキシコは進歩をしてきた国です。メキシコは開発途上国ですが、深刻な危機を今克服しつつあります。より多くの雇用を生み出すこと、そしてよりよい社会保障を得ること、そういった道を模索しているところです。メキシコでは労働者の人たちの組織というのは認められています。事前の承認なしに労働者は労働組合を組織することができます。定款をつくることができ、また内規を作成することができ、代表者を選出し、そして運営のための手段を決めることができます。しかしながら、労働組合は結成されたらば労働社会保障省というところに登録しなければなりません。これは全国的なレベルの話ですが、地方の場合は地方調停あっせん委員会に登録しなければなりません。

変化するストライキの目的

 メキシコでは労働者の要求を実現させるための主な手段は団体交渉でした。労働組合を会社の中にもつ経営者側は労使協定を結ぶ義務があります。そして経営者側がその協定への調印を拒んだ場合、労働者側はストをする権利があります。これは労働組合の連帯によるスト、それによる生産活動の停止とみなされます。一種のレイオフのような形態とみなされます。このストによる生産停止状態は1社で起こる場合もありますし、また数社を巻き込む場合もあります。
 ストを行う目的の一つは、さまざまな産業分野における不公平をなくし、公平な条件を得ることです。そして経営者側と労働者側が対等な立場に立ち、労働者側の権利を使用者側の権利と同じような立場に立たせることも目的の一つです。しかし、ここ数年、ストの回数というのは劇的に減少しています。労働者側も経営者側も、仕事を中断する、活動を中断することがばかげているということに気がつきました。そしてその中で、労働組合運動の中で活動をさらにラディカルにしようという考えも一方では新たに生まれてきています。

メガコンペテジョン下での組合の課題

 近代化の波というものが私たちの国にも大きく影響しています。メキシコの多くの企業は技術的な革新というものになかなか対応できていません。繊維産業、砂糖産業では労使協約の見直しが行われています。それはそういった技術的な変化に対応し、またその分野で働く何千という労働者の雇用を守るためのものです。雇用を守るということが常に考えられています。
 メキシコにおけるこの数年間は労働者や労働組合にとって大変困難な時期でした。世界の金融市場の不安定化、公共や民間での投資の落ち込み、各企業の経営状態の悪化などが労働者の給料の購買力を低下させました。そして今世紀の末に平価切り下げが起こらないように、防ぐことができるような経済的な防御策が提案されつつあります。平価切り下げが起きますとさらに貧困が厳しくなる可能性があるからです。
 国家の指導的な役割を見直そうという機運があり、それは特に従来、規制が多い、保護が多いとみなされてきた産業において顕著です。また政府にとっての重要な分野を保ちながらも民間の投資に対して可能性を開いていこうという試みも行われています。
 連邦労働法の改正案が今あります。しかし、そういった改正案は今まで私たちが獲得してきた労働者の権利を失わせ、また労働組合の活動、団体契約やストを最小限に抑えようという意図です。その一方で、労使双方は労働社会保障省と協力して、新労働文化と私たちが呼ぶものを規制する手段をなるべくなくそうと努力してきました。この新労働文化というものはグローバル化と国家間の貿易障壁の撤廃を伴う新しい労働形態にメキシコを仲間入りさせてくれるものです。これはメキシコが調印した自由貿易協定のおかげです。この三者間の努力は、現在の労働運動の中でやや古くさくなってきた考え方を新しく変えてくれるものと思われます。この仕事は簡単なことではないと思います。メキシコは新たな国際ルールの中に入らなければなりませんが、この新たな国際ルールに入るということが、たくさん物をもつ少数の人と、自分の日々の生活で精いっぱいの人たちとの間の不平等をさらに拡大するものであってはいけないからです。
 労働者と労働組合は生産現場を守るためにさらなる努力をしなければならないと自覚しています。さらに、ますますグローバル化する経済の中で必要となってくる生産性と競争力の向上のために自分たちがより多くの能力を身につけなければならないとも思っています。メキシコ労働組合連盟はさまざまな機会に特に労働者の搾取に反対する発表をしてきました。また大多数の人々の利益に反するような政策にも反対してきました。インフレにも、失業にも、低賃金の押しつけにも反対を表明してきました。仕事に見合った収入を決めるシステムも応援してします。そして団体契約を行う権利の獲得も応援し、そのための闘争手段としてストを利用する、そういう手段も応援しています。