2010年 グアテマラの労働事情

2010年9月3日 講演録

グアテマラ労働組合連盟(CUSG)
アンヘル・ラファエル・セグラ・ガルシア(Mr.Angel Rafael Segura Garcia)

グアテマラ電気通信労働組合 事務局長

イルマ・フディス・モンテス・バリオス(Ms.Irma Judith Montes Barrios)
ケツッアルテナンゴ県コアテぺク市公務員労働組合 事務局長

 

1.労働情勢

 グアテマラの人口は約1,300万人で、スペイン語の他にも23地域の先住民の言葉がある。我が国には武力紛争の長い歴史がある。1985年に民政移管が行われ、現政府に至っている。
 グアテマラでは現在、正式には組合を結成する権利も、団体交渉権も認められていない。また、我が国はラテンアメリカ諸国で2番目に労働運動が危険に晒されている国と言われている。現政権は社会民主政党で一応労働運動に理解を示す立場の政党だが、この2年半に45名の労働運動家が殺害されている。以下に労働情勢について記述する。
*経済活動人口はおよそ400万人。失業率は4.3%だが、かなりの不完全就業者が存在している。労働人口の内訳は農業45%、工業15%、サービス40%。インフォーマルな労働市場が拡大している。
*労働時間は、8時間/日、44時間/週、5~6日/週で、最低15日の休暇。
*労働組合設立には20人以上の組合員が必要。労働省が弱体化しているため労働組合の組織化は進んでいない。
*米国からの最恵国待遇撤廃の圧力、ILOの要請や圧力などを背景に労働法改定が実施される。しかし実際にはその適用は進んでおらず、またその効果もでていない。
*労働に関する国際協定の批准状況⇒第87号「組合組織化の自由」、第98号「団体交渉権」、第95号「賃金保障」、第182号「児童労働の根絶」。
*現在、グアテマラ国内には違法なマキラドーラ(保税加工区)が多数存在する。違法であるため労働者は違反があっても失職を恐れ告発できない。
*国内では一般的に労働権を自由に主張することができない。経営側の恣意に従うことを余儀なくされている。
*組合組織化へのアクセスは手段として重要であると同時に、個人に内在する固有の権利である。経営側ならびに労働監督当局に対して、団体および個人としての労働権の主張を可能にする意味で重要である。内在する権利は、仲間と連帯を組む喜び、労働条件の決定に参画できる喜び、困難な状況におかれた際に支援を受けることができる喜びなどの意味において重要である。この権利は国家憲法に基礎をおく労働法に明文化されている。
*労働の権利という意味で労組の果たす役割が重要であるにも拘わらず、組合に加入する者は少数に止まっている。一方、インフォーマルセクターでは組織が進みつつある。しかしここでの組織の目的は、従来の組合組織の目的とは異なる。
*自らの意見を表明し、労働をめぐる問題を解決するため組合に加入する自由が認められているにも拘わらず加入する労働者は少数に留まる。
*組合数が少ないのに加え活発な活動を展開している組合がさらに少ないため、組合に属する労働者は少数。年間の組合員数増加率も非常に低い。
*労働協約成立数は非常に低く、年間6件ほどである。
*それらの原因としてまず、経営側の敵対心が挙げられ、多くの組合指導者が身の危険に晒されている。さらに運動の分散化、リーダーの資質不足、資金不足、執行部の刷新不足、若年層組合員の不足、異なる考えの組合の存在などが挙げられる。
*5人に3人は男性組合員、10人に8人は非先住民族である。また5人に3人が都市部住民であり、組合員の均一化も問題として挙げられる。4分の3が初等教育または中等教育を受けている。学校教育を全く受けていない組合員の数は非常に少ない。とりわけ50人以上の従業員を抱える企業ではほとんど見られない。
*以上のように組合員となる労働者は、比較的恵まれた環境にいると考えられる。女性、先住民族、農村部の住民、教育機会が無い者、零細中小企業労働者などは組合へのアクセスがない。その意味で彼らには労働の自由は保障されていないと言える。

2.労働組合が現在直面している課題

  労働組合が直面する課題は、未組織労働者の啓蒙、組織労働者の人材開発などであり、(1)組合員の啓蒙、(2)組合員の研修、(3)労働法違反の経営者に対する対応、(4)労働省、社会保険庁の腐敗と弱体化、(5)労働法規、労働問題に関する知識経験のある司法担当者の不足、司法手続きの遅れ、(6)労働訴訟法の不備、(7)地方自治体法改正、(8)組合員に対する支援のための資金不足、(9)組合活動のための事務所・事務機器・車輛不足、(10)労働権、組合権が蹂躙された場合の当局の対応が十分でないこと――などが挙げられる。

3.課題解決に向けた取り組み

 課題解決のため、(1)既存の組合組織の強化、(2)組織の弱点把握とその改善強化を目的とする加盟組合への訪問、(3)加盟組合に対する連盟本部への訪問促進、(4)労働法、組合法の蹂躙に対しILOに告発―-などの取り組みを行う。

4.ナショナルセンターと政府との関係

 ナショナルセンターと政府の関係は良いとは言えない。労働法、労働基準を遵守しない企業を告発しても政府や労働省、裁判所に取り上げてもらえず、公正な対応を求めても聞き入れられない。また、ポストと引き換えに労働者を組織化した政府の傀儡組合が存在する。

5.多国籍企業の状況

*海外投資
 中米では1990年代初頭から域内・域外の多国籍企業の進出が顕著となり、海外からの投資が増大した。その結果、1990年から99年の中米への海外投資は133億3,150万ドルに達し、年平均では13億3,315万ドルとなった。2000から2004年では106億9,400万ドル、年平均21億219万ドルであった。これをGDP比でみると民営化が進んだ1990年代には直接海外投資は最高に達し、民営化された通信、電機、金融部門への国内外からの企業活動が活発化した。
 直接海外投資の投資先はサービス、マキラドーラ、通信、電機、流通などに集中した。この点は1960年代、70年代の投資が製造業に向けられたのとは異なる。この海外投資の新しい傾向によって域内ではサービス、流通を基盤とする経済活動が活発となり、同時に非正規労働者を生む原因ともなった。
*域内への投資増大
 域内企業の直接投資については正式な記録が残っていないため信頼できるデータが不足しており、長期にわたるデーターも存在しない。しかしその増加ぶりは明らかであり、とりわけパナマ、エルサルバドルの企業による投資が大きい。2002年及び2003年のコスタリカに対するエルサルバドルからの投資はそれぞれ2,340万ドル、2,540万ドルに達したが、これはエルサルバドルの流通チェーンPOMAグループによるショッピングセンターの建設ラッシュがあったためである。エルサルバドル企業の大きな投資先はコスタリカ、グアテマラ、パナマなどの工業・流通部門である。
*有力企業の背景
 中米ではコスタリカを除く全ての国で、歴史的に少数の特権階級が国のほとんどの富を占めてきた。中米は世界で最も経済格差が大きい社会を形成してきた。適正な再分配を実現するメカニズムに欠け、賃金は低く抑えられ、雇用は少なくその質は劣悪という状況が続いている。富の集中がもたらす直接の現象として歴史的に国の有力者が政府をコントロールしてきたことが挙げられる。これらの有力グループは主に農業生産と結びついてきた。彼らはさらに第二次大戦後は依然として輸出用農業生産を支配しながら工業、金融建設部門も牛耳るようになった。この時期、代替輸入製品産業や軍事産業がさかんになるにつれ、中産階級出身の新規企業も参入するようになった。
*企業成長の原因
 代替産業戦略は、外貨や輸出用伝統農業生産の余剰と結びついて成長してきた。従って当初、この新興企業は伝統的な農業生産を牛耳る階級のもとで経済活動を展開していた。
 1960年代、70年代に域内の他の国へ進出する企業も存在したが、各国が強力な保護主義をとっていたため大きな流れとはならなかった。1970年代になると米国、メキシコ、カリブ市場への進出を果たした。
 この要因は様々あるが、まず1980年代の内戦でとくにその戦場となったニカラグア、エルサルバドルの企業が海外へ転出し、その資本を米国を含む近隣諸国への投資に向けるようになった。特に伝統農業産品の輸出企業は新たなビジネスチャンスを求め、他の中米諸国へと活動の場を移した。これに海外へ移住した親族からの外貨送金が加わり、90年代に入るとエルサルバドル、ニカラグアの企業は域内において大きく成長した。
 さらに、主に米国で教育を受けた新しい企業家精神を持つ世代が経済界、政界に現れ、大企業活動を支援する政府が形成された。これにより域内の海外投資活動が優遇されることとなった。
*有力企業:グアテマラ、エルサルバドル
 こうして過去20年間に生まれた企業の活動は、国内だけでなく域内に及んでいた。なかでもグアテマラ、エルサルバドルの企業が有力であった。域内は文化的にも伝統的にも共通の風土があるため企業活動に支障はきたさなかった。また、エルサルバドルの内戦を避けるため有力ファミリーがグアテマラに移住した点も、グアテマラの企業成長に貢献した。
 我々の調査ではホンジュラス、ニカラグアが中米域内からの主な投資先となった。そして主に投資を行ったのはグアテマラ、エルサルバドルの企業であった。
 域内経済の企業の業種は多様であるが、主にサービス、金融、運輸、観光、建設、流通、工業、農産物加工、非伝統農業産品生産などである。サービス、流通への投資の集中は中米経済が基本的にサービス経済に依存していることを示しているが、中長期的な展望からは堅固で競争力の高い産業基盤を形成することが急務とされる。この新興勢力のほとんどが金融部門にも参入している。しかしグアテマラ、ホンジュラスにおける有力企業は、銀行と深い関わりを持つものの農産物加工、サービス、流通分野の企業である。
*戦略的互恵関係と家族の絆
 域内企業は連携を維持しつつ収益性の高い部門(不動産、ショッピングセンター、住宅開発、金融サービス、車販売などの流通業)では、競争力の向上に鎬を削っている。POMAグループ、TACAグループ、LA、FRAGUA、PANTALEONグループ、GUITERRES-BOSCHグループ、CASTILLOグループ、金融界ではCUSCATANグループ、LAFRAGUAグループ、技術部門ではPELLASグループ、MOTTAグループなどの企業経営連携グループが形成されている。
 そのなかで最も強力なグループは域外、海外の多国籍企業と戦略的互恵関係を結んでいる。AGRISOLグループとSABMILLER、CABCORPとAMBEV、LAFRAGUA、CSUグループとWALMART、CUSCATAN銀行グループとCITIグループ、POMAグループとメキシコのCARSOグループの連携などである。
その他ほとんどの有力企業は一族で経営を固め、連携関係を成立させ、情報交換、政界への影響力行使を行っている。これらの同族企業は域内経済の統合に大きな影響力を及ぼしている。
*強力な多国籍企業
 中米の経営統合を語る上でのもう1つの重要な要素は1960年代、70年代の中米経済統合に大きな影響を及ぼした多国籍企業である。この時期には資本の利用におけるもっともダイナミックで集約的な産業を支配し、各国の国内市場で独占、寡占状態を作り出したほか、直接・間接的に米国市場向けの輸出産品を作る製造業や農産物加工業を支配した。
 不安定な政治、輸送コストなどを背景にしながらも、この時期に多国籍企業は域内市場での市場の割り当てを満たす生産拠点の規模を決めていった。とりわけ、タバコ、飲料、薬品などの拠点は各国に1カ所ずつ設置していった。一方、農産物加工品などは2、3カ国に1カ所の割合で設置された。
 この当時の多国籍企業の政治ならびに社会経済的影響力は大きく、産業構造の変革にも影響し、代替産業戦略と結び付いた流通、金融などの新規産業の発展を促進した。また、中産階級の創出にも影響を及ぼし、地元の小規模生産者の農産物加工チェーンへの統合を促進した。政治的に強力な影響力を持ちながら軍事政権を支持する一方、彼らの利害に反する政権に対してはその打倒を図ってきた。
 通信、電機など90年代まで国営であった企業の民営化、基本的行政サービスのコンセッションなどを通じ域内では過去15年間に多国籍企業が大きく成長した。
 さらに以前は同族経営であったビール企業、セメント企業なども吸収された。ここ最近では銀行の買収も行われている。その典型的なケースが域内のどの国でも営業を展開するHOLCIM社、コスタリカ、ニカラグア、パナマに大規模投資を行ったCEMEXなどが挙げられる。
*外国化が進む今日と従属化が危惧される明日
 現在中米で起こっている現象は、既に南米で見られるような生産機構の外国化であり、それは政治経済の主権が一国家から多国籍企業に変わることを意味している。この外国化の流れは近年の北中米ならびにドミニカ自由貿易協定(CAFTA-DR)の成立によって加速するとみられる。そして近い将来には域内の同族経営による有力企業もこれら多国籍企業に買収され、すべての経済活動が外国化されることも予想される。
*倫理コード
 国際的評価と企業としてのアイデンティティーを創出しつつ、その企業活動を特色づける標準基準として理解される。
 多国籍企業はグローバル化の果実であるが、世界中でそのブランドの下に働く労働者を抱え、ブランドの質とアイデンティティーを損なわないことが彼らの課題となっている。
 このコードのなかには賃金にかかわる条文があるが、それは各国の少なくとも最低賃金を確保し、残業、福利厚生なども各国の規準を下回らないよう定められる。さらには差別禁止、労働衛生などについても触れられている。
 このコードは各国の基準に反するものであってはならないが、各国に展開するそのサービスと企業精神の均一化をはかる道具でもある。したがって人材の確保維持にとっての重要なカギとなっている。
 このコードがあるにも拘わらず、グアテマラの多国籍企業の多くは労働法を蹂躙し、労働者がその権利を主張する際に何らかの圧力がかかることがしばしばある。性、年齢、先住民族であるかどうかの差別も存在する。そのほか残業手当が無いうえ、組合への加入も禁じられている。
*グアテマラで操業中の代表的な多国籍企業
 WALMART、UNION FENOSA、TELEFONICA、AMERICA MOVIL、BARCELO、CHIQUITA BRANDS、COCACOLA、NESTLE、SHELL、LALA。